〜 Hero (King of Kings)
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 人生の達人 

キャンペーン・リプレイ 〜 帝国篇 〜
要塞消滅(プロローグ:予兆と蠢動、そして始まり)中編


 横たわるこの広大な大地、乾く事無き血の海、聳え立つ山肌、吹き荒ぶ戦乱、泣き叫ぶ子供達…

 やがてお前達は目にするだろう。傷付いた戦士達に休息の時はない。黒鉄の凶器は、今もお前の拳に握られている。迫り来る白刃に怯え、価値の無い勇気と云う幻想に想いを馳せ、馬を駆るのか?
 愚かな人間共は、何時だって何処に居たって同じ過ちを繰り返す。その所業所以に“
”はお前達を【人間】と呼び分かつのだ。分かるだろう?お前達を語るのにジョーク無しではいられない事を。
 仮面にこぼつ空虚な二つの穴、その奥に潜む虚ろな眼光、痛みと憎しみこそが最高の美酒、恨みと怒りこそが最高の肴。お前達は未だ知らぬ。予の傷が癒えたのを、予の力が甦った事を。
 冷たく暗いこの苛つく監獄から解き放たれた時、お前達の信じて疑わぬ“
英雄”とぬかす小童っぱの魂が朽ちた時、お前は知るだろう。恐怖を、破滅を、絶望を。
 精々、その短い蝋を灯すがよい。永劫の暗闇が訪れる、その前の一時に。眠るがよい。永遠に続く悪夢に身悶える、その前の瞬きの時に。笑うがよい。恐怖に歪み苦しむ、その前の一瞬を。

 忘れ去られた眠れる廃墟、錆びた古の香り、沸き立つ亡霊、失意に歪む隷属、泣き叫ぶお前達…

 やがてお前達は目にするだろう。予を、予とその子等を、予の世界を、大いに悲嘆せよ。



 西の空が白んで来た(*1)。朝を告げる冠鳩のけたたましい鳴き声が妙に耳につく。今日も又、徹夜だ。寝所にいても防具を外す事が減っている。明らかに酷使し過ぎだ。私は長く生きられないだろう。恐らくこの役職には向いていないのだろう。よく保った方だ。尤も平穏な辺境だからこそ、だろうが…
 正午過ぎには御到着の由か。胃が痛む。いつもの薬を飲むとするか。この戦が終わる迄、持って来ている薬は足りるだろうか?妻の言い付け通り、もっと持って来ておけば良かった。娘は大丈夫であろうか。せめて、私が今の立場のままであれば婚儀の手筈は問題なかろうが。化粧をせねば。この青白い顔に隈では人前に立てぬ。
 神よ。もうひとたび、私に精気を与え給え。せめて、この戦が終わる迄。せめて、せめて娘の婚儀が叶うその時迄。


M L

 南方で勢いよく立ち籠める土煙を偵察が見たのは正午を過ぎて暫くしてからの時だった。
 異様な突進にでも見紛うその行進に、始め警戒の笛を吹く程であった。その集団は騎馬に迄、重厚な鉄甲が施され、厳つく、雄々しく、恐ろしく見えた。
 彼等こそ、元帥虎の子の『狂犬部隊』。元帥ドーベルムの武勇に惹かれ、各地から集まった戦争屋。元帥にのみ忠誠を誓う、と迄嘯かれるプロ中のプロであった。
 出迎えの兵士の馬が経つよりも早く、彼等は野営地に到着した。如何にも柄の悪い人相の男達は、元帥直属の兵士とは想像もつかない程、思い思いの装備を纏い、山賊野盗の類に見えた。只、鋲の付いた揃いの皮のチョーカーと胸にあしらった“狂犬決死隊”の飾りプレートだけが、彼等を一つの集団らしきものに見せていた。
 巨大な6頭引きの軍装馬車の中から獣の吠え声が響く。野営地下方迄出迎えに来た軍団長と首脳、貴族達の近く迄馬車のまま乗り付けたその主は、近づいた自分の行為を無視して中から唸る。
「あまり近づくなよ〜、諸君。俺の友らがその喉笛を噛み千切るぞ!」
 馬車から勢いよく犬達が跳び出て来る。様々な種の巨大な軍用犬。今にも襲い掛かる程の勢いで出迎える首脳に駆け寄るが、鋲の付いた首輪から延びた鋼の鎖が、辛うじて馬車からの牽引で犬達を制する。腹の底から絞り出す様な唸りを上げ、涎を垂らすその凶暴そうな軍用犬の鎖を辿った先に、馬車の主は顔を出した。

◇ドーベルム元帥

「出迎え御苦労!」
 筋骨隆々、赤銅色に灼けた肌、バラバラに装着した異なる種類の鎧から覗かせる肉体には生傷が無数に見え、一見して恐ろしい印象。只、顔立ちは思いの外整っている。しかし、伸ばしたい放題の無精髭は何とも汚らしい。

◇マゼラン

「遠路遥々、よくお越し下さいました元帥閣下。危急の事態、私共の為、頼もしき閣下の武威に与れるこの誉れ、恐悦至極の心境にあります」

◇ドーベルム

「別にお前らの為に来た訳じゃねぇ〜よ。帝国の為…っつ〜か、戦の匂いがしたから来ただけの事よ」
 シー、シーと歯を鳴らす。

ゲオルグ

 周りの貴族達から一歩前に歩み出て胸を張り、
「おお、是は是は御高名お聞きしておりますぞ、元帥閣下。我が名はゲオルグ・ヨッヘンバッハ男爵。“白の女神”の神官にして天翔る戦士。以後お見知り置きを」

◇ドーベルム

 眠そうな眼差しで軍団長の方を向きながら、
「御高名?悪評の間違いじゃねぇのか?女好きの天の邪鬼とやら。
 それよりマゼラン、お前未だ軍団長やってたのなぁ?いい加減引退したらどぅなんだ〜?顔色悪いぜ、ん?」

◇マゼラン

 一瞬、ハッとした表情を浮かべながらも厳しい眼差しを返し、
「会食並びに式典の準備は出来ております…が、如何なさいますか元帥閣下」

◇ドーベルム

「歓迎会はいらねぇ〜、代わりに部下と犬共にたらふく喰わしてやってくれ、強行軍だったんでな。俺は今すぐに軍議に出るぜ」
 狂犬部隊の部下に獰猛な犬達のリードを預け、歩き出す。

M L

 狂犬部隊の後方から今度は如何にも正規軍らしい格好の一団が現れた。恐らく情報部隊の一団であろう。一団は2大隊から成り、各々元帥府付の参謀が率いている。
 昨日、先遣隊として到着した参謀同様、一癖も二癖もありそうな輩。一人は真っ赤なガーブを羽織った白髪の男。深紅に染め上げた“赤羽扇”を片手で煽り、短くカットした顎髭を摩る
参謀長カール・グスタフ・ヴォルトガルト。もう一人はシルクの衣装に身を固め、小さめの鼻眼鏡から下目使う黒髪の男。伸縮ロッドを扱き、切れ長の瞳をレンズ越しで辺りを一望してから侮蔑の表情を浮かべる参謀ジル・ド・シヴァ
 挨拶もせず、二人の参謀も元帥の後を追う。

ゲオルグ

「野蛮な司令官とエリート気取りの参謀とは。全く中央はどうなっているんだ」

ジナモン

「貴方もそう思っていたんだ、ヨッヘンンバッハ男爵」

ゲオルグ

 不思議そうな顔をして、
「おお、君も居たのかね。うむ、全く態度のでかい輩だな〜、こちらに見向きもせなんだわ。ところで、君は暇だろ〜?今日は会議に出席し給え」

ジナモン

 (態度がでかいのはお互い様だろ?)
「俺が?いや、いいよ、俺は。やる事もないし」

ゲオルグ

「やる事はあるぞ。俺の護衛だよ」

ジナモン

「護衛?自陣の議場で?なんで?」

ゲオルグ

「男爵ともなれば、何時如何なる時にでも気は抜けんのだよ。それに付き人がおれば箔も付く」

ジナモン

 (…箔ね〜)
「まぁ、分かった。お伴しよう」

ゲオルグ

「うむ、では着いて参れ」

ジナモン

「…はいはぃ」

M L

 議場は昨日よりも賑やかになっている。元帥とその部下数人に参謀三人とその又部下、軍団の各連隊長と副長、軍団長にも複数人の部下、それに加えて各貴族の取り巻き達。これ程の兵力であれば珍しくはないのだが、北部貴族と云う小勢力の連合はそれだけで頭数を増やしている。

◇マゼラン

「お集り頂きましたな。それでは元帥閣下、御挨拶を」

◇ドーベルム

 面倒臭そうに頭を掻きながら、
「おう、俺がドーベルムだ!!お前ら死に物狂いで戦えよ!
以上

◇マゼラン

「…終わりですか?…それでは閣下、作戦原案にお目をお通し下さい」

◇ドーベルム

「ぁあ?んなもん、参謀共に読ませりゃいいだろ!俺は唯、死地を駆けるのみよ」

◇ドブロッゾ

「元帥閣下に申し上げたい。これは失礼、私はアンダルーサ・ジノス・ドブロッゾ。ノスコリン辺境伯にして“槍襖(やりぶすま)のアンドルー。帝国の一大事にあってその急先鋒たる此処でその態度、如何なる事か!!」

ゲオルグ
&

ジナモン

「そーだそーだ」

◇カール参謀長

「口を慎み給え、伯爵。元帥閣下は既に要塞攻略のシミュレーションをなさる為にコンセントレーションを高めておられるのです」

◇シヴァ参謀

「元帥閣下の申された通り、作戦原案は我ら参謀が検分致しましょう」

◇ドーベルム

「お前らは黙ってろ。おい!“濁酒(どぶろく…ドブロッゾ?)”、後、他の貴族共にも云っておく!俺の戦いは喰うか喰われるかの地獄絵巻、戦わねぇヤツは誰だろうと踏み潰す!面子気にするガキ共はてめぇのケツにキスでもしてな!!
 おっ!?クソしてー!お前ら、俺はクソしてくっから後は頼んだぜ」

◇参謀一同

「はっ!」

M L

 元帥は吠える様に云いのけると議場を後にしてしまう。三人の参謀が上座につき、ざわめく議場を収める。

ゲオルグ

「何と失礼な男なのだ!この大事な会議を何と心得ているのか!参謀諸君らはどう考えているのかね?」

◇カール

ん?君は誰かね?

ジョルジュ

「彼はヨッヘンバッハ。例の“串刺し公”ですな、参謀長」

ジナモン

「串刺し公?」

ゲオルグ

「串刺し公ではな〜い!あれは邪悪な男爵を打ち倒した時にだな〜…」

◇シヴァ

「静粛に!議題と関係のない話は慎んで頂こうか」

ゲオルグ

「失敬な!俺の話を聞け〜い」

ジョルジュ

「さてと、この作戦改案、読ませて頂いたが何とチープなものか。正規軍の配置ばかり目立ち、諸貴族の兵力を持て余すかの様だ」

◇カール

「改案なのかね…確かに、何ともお粗末。天才軍師殿の起案とは思えませんな」

ゲオルグ

「こら、話を進めるでない。俺の話を聞け〜い!」

ジョルジュ

「混成軍である反乱軍の士気低下を待つだけの包囲攻城戦では元帥は納得しまい」

◇シヴァ

「如何にも!我らの元帥府付参謀の力が必要と相成りますな〜」

◇イシュタル

「お待ち下さい。どうか元帥閣下に一読頂きたいのですが」

ジョルジュ

「ゼロに幾ら掛けても答えはゼロ。今回はイシュタル、君の案は必要ない」

◇シヴァ

「うむ、我らに任せて頂こう」

◇カール

「宜しいかな、軍団長殿?」

◇マゼラン

「…はい、ではその様に…」

ゲオルグ

「おい、コラッ!俺の話を聞かないどころか、我が軍師イシュタルの案を廃案とは、どう云うつもりだー!」

ジョルジュ

「よく鳴く蝉だな、時期外れも甚だしい」

ジナモン

「蝉?」

◇シヴァ

「軍団長も納得しておられる。一貴族が出しゃばらないで頂こうか」

ジナモン

「ちょっと待ってくれ。一貴族だろうが一市民だろうが関係ないだろ?戦うのは俺達、一戦士だ」

◇カール

「ん?君は誰かね?」

ジョルジュ

「彼は…誰でしょう?記憶に御座いませんな」

ジナモン

「昨日あっただろー!マーストリッヒャー・ジーン・アモン、“瞬き突きの”ジナモンだ」

ジョルジュ

「…それでその“瞬き過ぎ?の”ジナモンとやらは何か我々に意見でもあるのかね」

ジナモン

「…いや、俺は未だその、作戦ってのを読んでないから分からないが…」

ジョルジュ

「文字が読めないのかね?」

ジナモン

「文字ぐらい読める!少しなら」

ジョルジュ

「文字が読めるなら、今度は読める“立場”になってから口を挿み給え」

ジナモン

「立場?」

ジョルジュ

「一貴族、一臣民たろうと意見は聞くさ。だが、無用であれば生憎、貸す耳は持ち合わせていない。」

ジナモン

「貸す?」

◇シヴァ

「放っておき給え、ジョルジュ殿。時間の無駄だ、バカが移る」

ジナモン

「何だと〜!貴様ぁー!!」

◇カール

「軍団長殿、あの血の気の多い者を退出させて頂きたい」

◇マゼラン

「…分かりました…連れ出しなさい…」
 溜息を一つすると部下にそう命じた。

ジナモン

「なんだ、おい、ヨッヘンバッハ男爵。貴方からも云ってやってくれよ」

ゲオルグ

 目ヤニを取りながら不機嫌そうに、
「君はバカだったのか?知らなかった。それなら仕方あるまい、出て行き給え」

ジナモン

「なっ!!あ、あんたもかよ〜、クソッ!分かったよ、出て行くよ」
 そそくさと議場を後にした。

M L

 些細な混乱と退出劇があったものの、会議は何の問題もなく進展して行った。
 参謀達によるイニシアチブで全ては進み、要塞攻略本案は一週間後に決定される事となった。各貴族は自身の野営地に戻る様告げられ、伝令によって本案が伝えられる事となった。第27北部辺境軍団と諸貴族連合の全ては元帥の指揮下に入り、軍団野営地がそのまま元帥直下の要塞攻略軍大本営となった。又、元帥本人は自身の狂犬部隊と幕僚三大隊、諸貴族連合を直接指揮する事になった。軍団軍師心得の立場にあったイシュタルは大本営幕僚本部付幕僚補佐とされた。
 議場を後にしたヨッヘンバッハとイシュタルは本部の外に出ていた。

ゲオルグ

「む〜、イシュタルよ。俺だけ陣営に戻る事になるのか?」

◇イシュタル

「大丈夫です、ヨッヘンバッハ様。戦火を交える際には自軍に戻れる約定を取り付けに、これから元帥の下へ向かいます」

ゲオルグ

「おお、流石は俺が見込んだ軍師イシュタル!ならば俺も一緒に行こう」

◇イシュタル

「ヨッヘンバッハ様もですか?私だけも十分だとは思いますが」

ゲオルグ

「うむ、あの男は失敬な奴だが一応、元帥な訳だから合わねばなるまい。俺の顔と 名を覚えさせ、正当な評価をする様、釘を刺さねばなるまい」

◇イシュタル

「…然様ですか。分かりました、では向かいましょう」

M L

 簡単に設営された元帥の部屋は元々、軍団長のものであった。狂犬部隊と呼ばれる連中が闊歩する宿営所は物々しい警備がなされている。
 二人は宿営所に入り、元帥の私室に向かうが、部屋前で凶悪そうな警備の兵士達に呼び止められる。
「貴族共だな?献上品は此処で預かる。名と用件は俺達から伝えておく」

ゲオルグ

「献上品?何の事だ?俺は元帥に用事があるのだ。通し給え」

M L

 ギロッと睨み、槍を突き出した兵士はがなる様に、
「手ぶらか?とっとと帰れ!元帥閣下は貴族とは会わん」

ゲオルグ

「お前達では話にならん!おーい!ドーベルム元帥、ヨッヘンバッハ男爵だー!話があるのだー!!」

M L

 槍先を首元に突き出し、
「黙れ、貴族だろうが何だろうブチ殺すぞ!!」

ゲオルグ

「ぬ〜、己ぇ〜」

◇イシュタル

「元帥閣下、私で御座います。イシュタルに御座います」

◇ドーベルム

 扉の奥から大声で、
「あぁ?イシュタルか〜?通してやれ!」

M L

 部屋に二人を通した兵士達は後ろで吠える様に脅し、そのまま後にした。
 中には上半身裸で鉄アレイで鍛える元帥が居る。全身に走る生々しい傷跡は上気し、あたかも鮮血を吹き出しそうな程に張りつめている。

◇イシュタル

「先程は御挨拶出来ず、失礼致しました。お久し振りに御座います、閣下」

◇ドーベルム

「んな事ぁ〜気にしてねぇぜ、それより何だイシュタル?ようやく、正規軍に入りにでも来たか?俺の推挙なんぞ必要なかろうが?」

◇イシュタル

「いえ、違います。折り入ってお話が…」

M L

 イシュタルは経緯を話し、自軍の戦闘の際には自身を幕僚本部から外して欲しい旨を告げた。元帥はその提案を驚く程あっさり承諾した。

◇ドーベルム

「別に構わんぜ。うちには三人も参謀がおるし、お前ら諸貴族連合を直接指揮するんだ、問題ない。混戦になりゃ、軍師なんぞ必要ねぇ〜しなぁ」

ゲオルグ

 (やけに物わかりがいいな。ならば)
「我がヨッヘンバッハ軍は出来る限り、自由にして貰いたいものだ」

◇ドーベルム

「ん?誰だ、お前ぇ〜?」

ゲオルグ

「何と!もうお忘れか!?
我が名はゲオルグ・ヨッヘンバッハ男爵。“白の女神”の神官にして天翔る戦士。以後、お忘れ無き様

◇ドーベルム

「あぁ?知らねぇ〜し、覚える気もねぇ〜。貴族に興味ねぇ〜」

ゲオルグ

「貴族への偏見は止め給え!命を賭してこれから戦いに挑もうと云う帝国忠臣の名を覚えるつもりがないとは」

◇ドーベルム

「反吐が出るぜ!金も持たずに取り計らえってか、おい?」

ゲオルグ

「何ぃ〜!?賄賂を要求するつもりか!」

◇ドーベルム

「要求なんぞするかド阿呆!袖の下は喜んで貰うが、取り計らうつもりはねぇ〜よ」

ゲオルグ

「何と出鱈目な言い様!我らを何と心得るか?」

◇ドーベルム

「つまらねぇ〜男だなぁ、おい!つまらねぇ〜上にタルいぜ、なら何しに来たんだよ、このクソ蟲が?」

ゲオルグ

「何をしにだと!それはだな、この戦での働き振りを正当に評価する様にだな…」

◇ドーベルム

「おい!それを取り計らい、っつ〜んだよクソ蟲!俺の前から消えろ!俺はお前ぇ〜みたいのが一番嫌いだぜ!」

ゲオルグ

「云われんでも帰る!気分が悪い!帰るぞ、イシュタル!!」

◇ドーベルム

「一つだけ教えてやる。帝国はお前ぇが考えてる程、甘かねぇ〜よ、以上!」

M L

 ヨッヘンバッハとイシュタルは足早に宿営所を後にした。イシュタルは大本営に居残り、ヨッヘンバッハは自軍に戻る為、馬を取りに行く。その前にジナモンを探しに野営地に降りて行った。
 一方、幕僚本部内の一室でジョルジュは副官ヘイルマンと協議をしていた。

ジョルジュ

 数多の書類と周辺地図に目を通し、俯きながら語る。
「…何ともならんな…」

◇ヘイルマン

「如何なさいました、ジョルジュ様」

ジョルジュ

 いつもの様な気位の高さや笑みはなく、落ち着いてはいるが沈痛な表情を浮かべ、
「イシュタルの出した改案は間違いない。我々の兵数では持久包囲を展開して敵軍の自壊を待つのが最も理に叶っている」

◇ヘイルマン

「然様ですか、ジョルジュ様」

ジョルジュ

「通常の戦であればの話だがな…」

◇ヘイルマン

「通常の戦とは一体?」

ジョルジュ

「この戦には裏がある!…そう思い俺はこの辺境の下らん戦に従軍を志願した。まだ確信は得んがやはりおかしい」

◇ヘイルマン

「何か不審な事でもあるのですか、ジョルジュ様?」

ジョルジュ

「奴ら『息吹永世』の資金調達の行方がまるで分からんだろ?奴らの元々の母体“グラナダの星(ラピス・グラナーダ)”は3〜4千人、後、周辺域武力威圧に関わり現体制となった時点で1万弱と聞く。こやつらは土着の連中故、家族を持つ。一家族を5人と想定すると戦闘員、非戦闘員合わせて4万強。拠を構えて以降、傭兵や破落戸、無法者が合流を果たし実質的な戦闘員は3万強、元々住んでいた、若しくは交易に利用していた自由民が数千、従ってグラナダ要塞内には少なくとも8万を超す人口密集地となっている訳だ。是は最早、大都市と云って過言ではない。
 しかし、グラナダ要塞は既に破棄された廃都。外壁内領域に8万人では耕作は不可能、資源も乏しく、街道封鎖後は交易も出来ず、都市及び要塞としては機能しない筈だ。仮に機能させる為には莫大な蓄財が必要となる。単純に半年、籠城するだけでも莫大だ。これ程の蓄財を動かすのであれば、必ず周辺、つまり北部四州、或いは北部中心州でインフレが巻き起こる。だが、その類の報告は受けていない。是は即ち、強大なパトロン、乃至は帝国中枢に協力者がいる、と考えられる。否、可能性としては誰かがこの反乱を演出しているのかもしれん」

◇ヘイルマン

「真実であるとすれば恐ろしい事です」

ジョルジュ

「ヘイルマン、敵首謀者デル・クリオ“ブリッツ”グラナダの調査は終わったか?」

◇ヘイルマン

「それが全く掴めません。軍隊経験者リスト、地方の出生届、帝国国籍、戸籍、納税者リスト、貴族の私生児に至る迄調べましたが彼の名はありません。噂では【騎士】との事ですから【騎士団領】の叙任リストも取り寄せましたがありませんでした」

ジョルジュ

「旧王朝の血統が海外へ亡命、王権復古の為に所縁の地に舞い戻る、か…帝政成立以前に滅ぼされた王国を?有り得ん。他国ならいざ知らず、史書の統制を図り完璧な情報統制下にあるこの帝国で一王朝の末裔がその名を出して反乱とは。騙りだとしてももう少しまともな名を出す筈。何者かが陰で糸を引いている様にしか想えぬ」

◇ヘイルマン

「陰の志望者が存在するのですか?それは一体?」

ジョルジュ

「分からん。だが、これ程の規模とその目的意図を鑑みるに“あいつら”ぐらいしか思いつかん…ヘイルマン、これは他のアホ参謀共には伝えるなよ」

◇ヘイルマン

「はっ!勿論に御座います。それで要塞攻略新案は如何なさいますか?」

ジョルジュ

「それは任せておけ。“カルテット・ディストラクション(四重奏による錯乱)”、既に構想はある。書式にまとめるだけだ。尤もキモは別にあるがな」

◇ヘイルマン

「流石はジョルジュ様。それでそのキモとは?」

ジョルジュ

「フッ、“Toxic”…だ」

M L

 ジナモンと合流したヨッヘンバッハは、ごねるジナモンと共に貴族連合の野営地へと馬を走らせた。
 自軍の野営地は軍団野営地とは大きく違っていた。出迎えもなく、警戒も乏しく、半ば遠駆けを楽しむ集団のお祭り騒ぎと化していた。特にヨッヘンバッハ私軍の怠慢振りは目に余る程のものであった。鎧は脱ぎ捨て、辺りはゴミだらけ、殆どの者は酒に酔っていた。

ゲオルグ

「何と云う有様だ!たった一日半居らんだけでこの体たらく。お前達は栄光ある我がヨッヘンバッハの兵士だろう!何故、持ち場を守らん、仕事をせんのだ!」

M L

「おう、これは男爵。お早いお着きで」
 酔った兵士が酒瓶を片手に陽気に話掛ける。

ゲオルグ

「けしからん!お前ら全員減給だ、減給〜!」

ジナモン

「酷いな、しかし。にしても指揮官は何していたんだ?」

ゲオルグ

「指揮官?指揮官は俺だぞ、我が友よ」

ジナモン

へ?違うよ男爵。現場の指揮官の事だよ」

ゲオルグ

「あ〜、いつもはイシュタルがやっておるよ」

ジナモン

「へ?イシュタル殿は軍師じゃないのか?」

ゲオルグ

「そうだ、俺が見込んだ軍師だぞ。軍師にして現場指揮官だが、何か?」

ジナモン

「イシュタル殿がいない今、それじゃ話にならないんじゃないかい?」

ゲオルグ

「それもそうだな〜。なら、君を客将扱いで臨時の現場指揮官に命じよう」

ジナモン

「え?俺は戦士だが軍隊経験はないぞ」

ゲオルグ

「それなら大丈夫だ。俺にも軍隊経験なんてものはない」

ジナモン

「そうなのか?まぁ、それなら引き受けてみるかな〜。しかし、何で今迄指揮官を雇わなかったんだ?」

ゲオルグ

「ん?俺の処には金がない。指揮官クラスの者は賃金が高くなるだろう?指揮官より兵数を揃えねば戦は出来ぬ。云っておくが客将扱いの君にはビタ一文支払うつもりはないからそのつもりでな」

M L

 それから一週間が過ぎた。大本営の議場では元帥と軍団長、副団長、5人の連隊長に3人の参謀、そしてイシュタルら、要塞攻略軍の首脳陣が居た。

◇カール

「…と云う訳です。如何ですかな、閣下?」

◇ドーベルム

「…つまらんな」

M L

 参謀長カールの攻城戦は至ってシンプルであった。概要はこうだ。
 要塞攻略は大本営のある東側からのみ攻め上がる。朝日は要塞自身によって遮られ、攻め手を影に隠す。夕日は真後ろから守り手の目を灼き、シルエットのみを残して攻め手を無事に大本営に帰還させる。攻め手はシフト制で、第27軍団は朝から夕、諸貴族連合は夜間、と昼夜空けず要塞に攻撃を仕掛け、守り手に休みを与えない。気の休まらない守り手はやがて意識の統括が削がれ、投降者を増やす。一点集中の攻撃を繰り返せば要塞の門も破壊し易い。一点のみの攻撃故、守り手は別門から迎撃に出て来る可能性が高くなる。攻略の肝はこの迎撃部隊との野戦であり、野戦を確実にものにし、敵兵力を削減する、と云う堅実な案。

◇シヴァ

「参謀長らしからぬ凡案ですな。では、私めの新案をご堪能あれ」

M L

 シヴァの攻城戦はダイナミックなものであった。概要はこうだ。
 『
アンダーワールド』と名付けられた作戦案は、大本営をより要塞に近い平地に移し、諸貴族連合を合流させ密集陣形を敷き、その威容を敵に見せしめる事に始まる。悠然と構え、攻め入る態を露にはせず、一つの大規模な事業に取り掛かる。いわゆる“穴攻”である。地下トンネルを要塞迄掘り進め、敵要塞に攻め入るのである。但し、敵要塞内に自軍を送り込む為に掘るのではなく、要塞付近を浅く広く掘り、木枠で固め、敵要塞城壁部地下でトンネル内に火を放ち、地盤を崩し、一気に城塞の一区画を崩し、それを機に大軍を以て決戦を挑む、と云う壮大な案。

◇ドーベルム

「その穴造り、どれぐれぇ〜掛かるんよ?んで、それ出来上がる迄戦いはなしか?…つまらん」

◇シヴァ

「全軍で作業に掛かれば夏前迄には実行出来得る予定です。戦は決戦迄控える事で最小限の被害で済みます。城壁を崩された敵の士気低下は並々ならぬものですぞ」

ジョルジュ

「無理ですな。この地方は東西に豊かな森林地帯を有し、地下水脈が縦横に走るが故、穴攻は不向きでしょう。そもそも大河もないこの地にあれ程の要塞があるのは地下水のお蔭。トンネル工事を強行すれば、事故を誘発し、無駄な損害を被るでしょうな。又、決戦になった際、兵力は依然、奴らの方が多く、背水の陣として玉砕覚悟の意識を呼び起こさせる可能性もある」

◇シヴァ

「ほ〜、ではジョルジュ殿の案をお聞かせ願おうか?」

ジョルジュ

「では…作戦名は“カルテット・ディストラクション”。多重構想による心理戦を内包した能動的且つ劇的な戦略。まず、我々には攻城兵器が不足している。運良く資材調達は森林地帯が近い為、簡単であろう。カタパルト、トレブクト、バリスタ、攻城櫓等多くの兵器を第27軍団に製造して頂く。攻城そのものは元帥閣下率いる諸貴族連合が主軸として行う。元帥閣下自ら指揮を執る事で敵は御大将の首を獲る為、迎撃を行いたがる。まして、1万未満の小勢力である諸貴族連合は敵陣営にとっては我が軍を各個撃破出来得る数少ないチャンスである。元帥率いる諸貴族連合は東西南北、有りとあらゆる角度から攻め入る。敵要塞は巨大だが防備と復旧作業は完全とは云い難く、一区画に集約すれば敵兵力は集中出来る程スペースはなく、互角以上の兵数で戦を仕掛けられる。又、場所、時間を変える事で、要塞内の兵力拡散は甚だしく、結局敵兵力は集中出来ず、混乱を来す事間違いない。
 この時期、風は北東から南西に向かって比較的強く吹く。一大隊程度を割き、大本営の北西、即ち要塞北東部に仮設野営地を築き、そこで伐採した木材を大量に燃して頂く。この際、この地方に多く密生するシロオオバハナダと云う露草の一種を共に焚いて貰う。シロオオバハナダを燃やして出た煙は目に染みる上、何とも不快な匂いを醸し出す。風に乗った煙は要塞中を見たし、彼らの集中力を欠く事請け合いである。
 我々の射出する矢弾の全ては火矢とし、要塞内での再利用を不可能とする。閉塞空間内での火の手程、心理的打撃を与えるものはなく、自ずと投降者は増えると予想される。投降者がある程度揃った頃合いを見計らって殺害し、製作済と想われる攻城投擲兵器を用いて遺骸を要塞内に打ち込む。相手方の恐怖心を十二分に煽ってから投降を呼び掛ける。投降者には命の保証を約束するが、直ぐに攻め手に加え、破城槌等の直接攻城兵器を宛てがい、最前線に繰り出す。
 投降兵の再利用を機に内通者、裏切り者がいる旨を記した書を要塞内に投擲する。心理的混乱は増長し、守り手はこの時点で軍隊としての機能を大半失う事になるでしょう。混乱しきった折を見逃さず、製作した攻城兵器と第27軍団を全て投入し、一気に瓦解せしめる。概要は以上です。

◇シヴァ

「ふん、下らん。何かと思えば複案並列採択ではないか。無闇に兵力を分散させる上、元帥閣下を囮にでもする様な策、断じて承服仕兼ねますな」

◇ドーベルム

「面白いな」

◇カール

「な、何と申されまするか閣下!」

◇シヴァ

「全くです!未だ見てもいない諸貴族の駄軍を御自ら率いて危険に晒すだけに限らず、捕虜の扱いの不当性や貴重な資源である森林の大量伐採等言語道断です!」

◇ドーベルム

「オモロいから採案な。俺が囮っつ〜とこ、いぃ〜!それに血も涙もねぇとこ、気に入った!ジョルジュの“カルトです”で行くぜ〜」

ジョルジュ

「失礼ながら閣下、“カルトです”ではなく“カルテット・ディストラクション”…です」

◇ドーベルム

「あ?何でもいいわ。っつ〜訳でジョルジュ、お前ら先にクズ貴族共の処へ行って準備しとけ。俺も直ぐ行く」

ジョルジュ

「は?私は大本営にて攻城兵器製作の指揮と戦略展望の最終チェックを…」

◇ドーベルム

「バカか?こんなオモロい事、近くで見にゃ損だぜ!なぁ、おい?お前が考えたんだから特等席として俺の側に侍る事を許してやるぜ!」

ジョルジュ

 (チッ!このろくでなしが…)
「はっ!誠に光栄の極み、慎んでお受け致します」

M L

 その頃、何も知らない貴族の野営地ヨッヘンバッハ私軍宿営地では様々な問題が巻き起こっていた。

ジナモン

「何故言い付けを守らないんだお前達はー!基礎体力作りは戦う上で基本中の基本だぞ!休んでばかりいては戦えなんぞー!」

M L

 ヨッヘンバッハ軍の自堕落振りは目も当てられない程であった。士気の低さも然る事ながら、組織としての統制が全く欠いていた。
「こんな訓練しても何にもならねえじゃねぇかよ、ジナモンさんよ〜。やれば恩賞でもくれんのかい?」

ジナモン

「恩賞?そんなもんやらん!お前達はヨッヘンバッハ男爵の私設軍だろ?なら、男爵の為に働くんだ!その為に今は訓練をしなければならない!」

M L

 口々に文句を云いながら、兵士達はジナモンに噛み付いて来る。
「そうだぜ。俺達は男爵に雇われてんだ。だから、働けって云われりゃ働くさ。でも、お前ぇ〜の云う事は聞かね〜ぜ」

ジナモン

「何を云っている!俺は男爵にお前達を指揮しろって頼まれたんだぞ!だからこうして訓練してやってるんだ。文句を云うな!」

M L

 明から様に不快な表情を兵士達は浮かべ、
「俺達はお前ぇ〜を指揮官だなんて認めてねえ〜ぜ!なぁ〜、皆?」
「おお!!そ〜だそ〜だ!」「帰れ帰れ!」「辞めちまえ〜!」
 その時、一週間振りにヨッヘンバッハが練兵場にやって来た。

ジナモン

「何だと!?なら、誰か俺と勝負するか?俺と勝負して俺が勝ったら云う事を聞け!」

ゲオルグ

 フワ〜ッ、と大あくびをしながら、
「ど〜かしたのかね?我が友、ジナモンよ。大声を張り上げて?」

ジナモン

「男爵、あんたか…寝癖が付いてるぞ…この一週間、何をしてたんだ?それより、こいつら全く俺の云う事を聞かないんだ。何か云ってやってくれよ」

ゲオルグ

「他の貴族の方々との会食が忙しくてね〜。さてと、我が兵達よ。そろそろ伝令が到着する頃だ。伝令が来れば、戦が近いと云う事だ。これから忙しくなると思うが、正義の為、このヨッヘンバッハの為に頑張るのだぞ〜!」

M L

「うぃ〜っス」
 やる気がある様には見えないが取り敢えず皆、それぞれ返事を返す。
 納得いかないが、取り敢えずジナモンはヨッヘンバッハの私室に向かう。その途中、野営地の外に一団を見て取る。ジナモンはその一団が前にも見た事のある正規軍の先遣隊である事に気付いた。

ジナモン

「あれは確か、“太陽の”ジョルジュとか云う参謀の部隊じゃないかな?」

ゲオルグ

「“太陽の”ジョルジュ?ああ、あの小生意気なエリート気取りの若造か。此処は一度、釘を刺しておくとするかな、この俺が凄いって事を」

M L

 上等なお輿を中央に配した一団が二人の方に向かってくる。一団から一人の上等な兵士が馬を飛ばして抜け出し、こちらに駆け寄り二人に話して来る。
「馬上から失礼致す。出迎え…かね?」
 ヘイルマン隊長である。

ジナモン

 (前にもこんな事があった様な…?)
「いや、まぁ、似た様なもんです」

◇ヘイルマン

「出迎え御苦労である。参謀!こちらに出迎えの者が参りました!」

ジョルジュ

 お輿を二人の男の方へ向けさせる。上質の紫檀で拵えた輿には金襴の直垂で入り口を塞いではいるが、透き通る様な白い肌をしたその右腕を隙間から徐にし、移動の指示を指差す。
 惚けた様に見守る二人の近くに迄、白馬四頭で支えられた輿を誘導させた兵士は退き、二人からは輿が正面になる位置で直垂を中から押しやり、天蓋に金襴が輝く。

◇ヘイルマン

「参謀ジョルジュ・アルマー・ダイアモントーヤ様に在らせられる!」

ジョルジュ

 ドンッ!!輿から勢いよく何かが飛び出す。人か?宙空で伸身月面宙返り、更に捻って着地。片膝を地に、頭を垂れ、煌めく金髪が揺らめきそよぐ。
 暫し間を置き、突然立ち上がる。女?否、男か?何と美しい、この世のものとは思えぬ造形、白い肌は真珠の如く、腰より長いその髪は黄金の糸でも紡いだかの様。異常に長い睫毛は天を仰いだまま瞳を閉じ、つぶったままゆっくりと二人の方に顔を傾け、熟した果実さながらに濡れた唇を開く。
「出迎え有難う、諸君」
 ジョルジュ・アルマー・ダイアモントーヤ、その人である。

ゲオルグ

「おお、是は又、何とも派手な…よく来た、我が名は…」

ジョルジュ

「知っておる、“串刺し”と“瞬きし過ぎ”の両名だろ?」
 片膝の埃を軽くはたきながら、固くつむった瞳を開く。闇を劈く様な輝き、その瞳は正に黄金、金剛石の如き煌めき、閃き。

ゲオルグ

「吹聴するのは止め給え」

ジョルジュ

「作戦案は採択され、いよいよ要塞攻略に乗り出します。元帥閣下もこちらに参るので早急に準備に取り掛かり給え」

ゲオルグ

「むっ、あの元帥も来るのか」

ジナモン

「と云う事は、イシュタル殿も来るという事か?」

ジョルジュ

「イシュタル殿は来ない。大本営で攻城兵器製作の指揮を執る事になっている」

ゲオルグ

「何ぃ〜!!約束が違〜う!イシュタルを呼んで貰おう」

ジョルジュ

「…何処迄も目出度い奴…なら、自分で行け!私は忙しい、君の要望に一々応えるつもりはない!ヘイルマン、行くぞ」
 部隊を引き連れ、早々に野営地に向かった。

ゲオルグ

「む〜、何て生意気な若造だ!教育がなっとらん!の〜、ジナモン」

ジナモン

「…俺にはよく分からない…」

M L

 戦が近づき、張り詰めた空気が覆う。しかし、戦に挑む者達の意識は捩じれ、一つにならずにいる。果たして、勝利を手中に収める事が出来るのだろうか?やがて、凄惨な光景を嫌がおうにも目の当たりにする事になるだろう。       …続く

[ 続く ]


*1:帝国では東西の表示が逆になる。東は西、西は東となり、日は西から昇り、東に沈む。

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