M L
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太陽城では、重鎮達が集まり、今迄以上に重大な会議がなされていた。
グライアス王国への侵攻、これ程の重要案件は帝国の中枢で行われるもの。それが辺境の一貴族の意志でなされる事等前代未聞。戦闘貴族(*1)でさえ、その特異性から中央の許可が出ている。
重臣達の質問がライジング・サンに集中し、会議とは呼べない雰囲気であった。
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◇ハイドライト
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「一体、何をお考えなのですかッ!査察を上手くやり過ごした今この時期に、この様な前代未聞の侵略を企てるとはッ!?」
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ジョルジュ
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「誰も考え付かなかったからこそやるのだ」
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◇メルトラン
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「しかし、それだけでこれ程、危険なお考えを実行なさる訳ではありますまい?外国への侵略作戦を軍部が許す訳はありません。閣下も御存知の筈」
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ジョルジュ
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「軍団長であろうとも、一諸候等何か一つの失態で転封の憂き目にあう。極当たり前の事だが、政治屋の下らん策に踊らされる訳には行かん。そこで考えたのが、帝国にあって一貴族、他国にあって王、と云う封建制度の如き支配システムの樹立」
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◇ヘイルマン
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「!?仮に侵略し、攻略しても、その土地を帝国に併呑しないおつもりですか?」
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ジョルジュ
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「元帥府や宰相府が許可を出す筈がない。故にこの侵攻作戦で攻略したグライアス王国は、俺の所領とする。それは帝国貴族として支配するのではなく、グライアス王国の新たな王として君臨する事を意味する」
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◇五芒星
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「!!?帝国法を無視なさるのですか!?反逆者とされますぞッ!」
五芒星の面々が驚愕の表情を浮かべる。
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ジョルジュ
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「普通であればな。だが、俺は反逆者になるつもりはない。陛下への忠義は揺るぎなく、帝都の奥底に居座る連中に警鐘を鳴らす為。帝国法が如何に矮小であるかを思い知らす為。超法規凡例を以て事を成す。前代未聞の策を弄する」
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◇プルトラー
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「超法規的凡例?一体、何の事だ?」
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ジョルジュ
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「帝国領にあって治外法権下にある只一つの例外、パルムサス伯爵領に倣う」
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◇ザラライハ
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「パ、パルムサス伯爵!?あの化け物に倣うとはっ?」
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ジョルジュ
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「任せろ。誰一人、考えも付かぬ偉業を為してやる」
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◇ロンタリオ
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「面白そ〜じゃな!良しッ!領内の事は儂等に任せておくのじゃ」
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ジョルジュ
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「ああ、途轍もない危機が訪れるだろうが、お前等に任せる。頼んだぞ!」
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M L
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蜘蛛の巣城では、三日に亘って祝賀会が開かれていた。外務省国外貿易局一等次官となったヨッヘンバッハは、初の官職に喜び勇んでいた。
次官と云う官種は、本来公式な役職に就いていない者を指す総称である。しかし、帝国法や官職の知識に乏しいヨッヘンバッハにとっては、役に就いただけでも誇らしい出来事であったのだ。
大々的な祝賀会を催すつもりで近隣諸候に出席を促したが、これ又いつもの様に復興を理由に断られた。しかし、これは思わぬ効果を発揮していた。図らずして、ヨッヘンバッハが一等次官に就任した事を広められたのだ。
祝賀会を終えたヨッヘンバッハは大いに喜び、大いに語った。
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ゲオルグ
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「いや〜、クーパー。そちはなかなかやるの〜。俺も晴れて外務省の一員となった事で、これから外交がし易くなるの〜。そろそろ、ライジング・サンに所領の返還を迫っても良い気がするの〜」
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◇クーパー
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「確かに、外務省に連なる身であれば、外交は優位に進みましょう。ですが、ライジング・サンと云う方は辺境軍団の軍団長にある御方。一諸候とは訳が違いますので、返還要請に関してはその計画を十分に練る必要があると思われます」
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ゲオルグ
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「む〜、この期に及んで、未だその様な弱腰では仕方あるまいて?の〜、イシュタル。もうそろそろ所領を取り戻しに行っても良いだろう?」
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◇イシュタル
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「…然様ですか。ライジング・サン殿は、その見た目や経歴と違い、実に剛毅な御方だと推測出来ます。所領返還の会議に及ぶには、それなりの力を掲示する必要がある様に思えます」
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ゲオルグ
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「そうかそうか。であるならば、護衛の他に軍も引き連れて行く事にしよう。俺の精悍な兵共を見れば、流石のライジング・サンも鼻白むであろうな」
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◇クーパー
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「逆効果です。軍団長となり、益々意気盛んなライジング・サン殿の下に兵等引き連れて行っては、火に油を注ぐ様なもの。固有の法令で裁かれますぞ」
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ゲオルグ
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「む〜、一々こうるさい奴よの〜。俺が大丈夫、と云えば大丈夫なのだーッ!」
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◇クーパー
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「…ははっ、然様でありますれば、このクーパー、最早何も云いますまい。閣下のなされるがままに」
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ゲオルグ
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「よ〜し、そ〜と決まれば、兵300を引き連れ、グラナダ迄赴いてやるとするかの〜。驚くであろ〜な〜。これ程遠くから300名もの兵を引き連れて行ったらの〜」
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M L
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ライジング・サンの執務室。そこにソルとプルトラー、ヘイルマン、カノン等が居並んでいた。
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◇ソル
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「グライアス王国は天然の要塞です。帝国と王国を結ぶ街道には幾重にも城門が設けられており、軍が現れた場合、直ぐに対応出来る様になっておる様です。周囲のグライアス山脈は険しく、この時期は雪に覆われております。とても軍を迂回させる事は出来ません。八柱将軍と呼ばれるグライアスの将達は、グライアスの地形を見事に熟知した名将。例え、帝国正規編成の二個軍団を投入したとしても侵入は難しい、と思われます。又、首都ラナンシーは火口湖に浮かぶ島にあります。城門を突破出来ても、王城に迫るには多くの難関が予想出来ます」
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◇ヘイルマン
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「又、彼の地には独自の古い宗教が存在します。大きな神殿もあるとの事ですから、その抵抗は徹底したものになると思われます」
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◇プルトラー
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「かなり厳しいだろう。帝国よりも歴史があり、幾度となく帝国の侵攻から国を守った経験が向こうにはある。街道は狭く、常に敵は上方に陣を敷く。我等の全軍を投入したとしても、戦場そのものは極めて狭く限定される。奇略が通じぬ頑強さを持つ上、戦い慣れたその地形は我等に圧倒的に不利。況して、平地にある我等の兵であっては高山病にかかるかもしれん。十分な働きさえ、期待出来ん」
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ジョルジュ
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「…分かっておる。グライアス攻略が如何に難しいか等周知の事実。その様な事より、諸卿等は我等の行動を牽制しに来るであろう帝国正規軍への対応にこそ、尽力を致せ」
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◇ソル
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「?何の事ですか?帝国正規軍への対応とは?」
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ジョルジュ
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「グライアス攻略は、偉業を成す為の序章に過ぎない。俺は軍略を政略に乗せて、複数の事態をこなす。それを妨げる為に帝国は俺を止め様とする筈。10万規模の野戦を領境東部から南部に掛けて想定した大規模用兵の草案と戦術を考えておくのだ」
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◇プルトラー
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「!?10万規模だとッ?北方四軍団を超える規模の野戦を想定しろと!?そうなれば、ブラッカン元帥(*2)が現れる事を意味するぞッ!」
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ジョルジュ
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「そうだ。元帥の指揮による大軍勢との野戦に負けない戦術を練るのだ。それが此度の偉業の肝となる」
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◇ヘイルマン
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「お、お待ち下さい!それでは、まるで反乱です。何故、その様な想定を?」
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ジョルジュ
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「今回の偉業は、帝国の判例にない事尽くめだ。その判断と対応には、如何に宰相であろうと、如何に大元帥(*3)であろうと、迷う。迷いは帝国には皆無。故に実力行使を取る。だがしかし、その時こそ陛下が判断を下される。その時を待つ!」
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◇プルトラー
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「しかし、肝心のグライアス攻略はどうするのだ?明らかに違法でもある。その判断に陛下がお出ましになるとは思えん!」
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ジョルジュ
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「フッ、そこでパルムサス伯爵(*4)に倣うのだ。カノン、伯爵領に迄、俺を連れて行けるか?」
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◇カノン
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「!?…行けますが、しかし、何の為です?パルムサスに外交等通用しませぬぞ」
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ジョルジュ
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「パルムサスが数十年に一度、帝国を荒らし回るのは何故だ?退屈凌ぎが大半だが、伯爵の信奉者共が世界各地から訪れ、その力が暴走した時にも起こる。奴はそれら信奉者を引き連れ、処構わず戦を仕掛ける。その対応に帝国正規軍は駆り出されるのだが、その戦の扱いが帝国公式文書ではどう記載されているか知っておるか?」
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◇ヘイルマン
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「?天災扱いです。神道、祭儀、封土、法術の各省庁であっても抑えられない、あの恐ろしい魔神の暴走は、災害として扱う様、定められております」
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ジョルジュ
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「そう、災害だ。人災ではなく、天災として扱われる。しかし、奴が暴れるのにはもう一つの要素がある。それがゲームだ。帝国史上、奴はその時代の個人能力に秀でた者達との技芸に興じる事が知られている。奴の暴走は、その実、退屈凌ぎを人間の尺度に置き換え、そのルールに従うと云う高度なマナーを守って行っている。奴は恐怖の象徴であると共に、極めて洗練された紳士としての人間性を有する、或いは装う事の出来る優れた知性を持つ事を意味する。それはまるで、帝国が他国から恐怖の専制国家と認識されているにも関わらず、世界最高峰の文化水準を持つ事に似ている」
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◇ソル
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「パルムサス伯の為人をして、何を為されるのですか?」
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ジョルジュ
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「俺は奴と、最も危険な遊戯、を行う」
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◇ヘイルマン
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「!?何を為さるおつもりですか?」
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ジョルジュ
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「陣取りゲーム。標的はグライアス王国。難攻不落のグライアスを、パルムサスと俺とで先を競い落とす!」
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◇カノン
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「!!!?な…何と云う恐ろしい事を!!パルムサスは紛う事無き化け物!真の恐怖に御座います。人間の尺度で測れる代物では御座いません!108柱の魔神(*5)の一人ですぞ」
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◇プルトラー
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「何故、それ程迄危険な賭けをするのだ!?グライアス攻略とは関係あるまい?」
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ジョルジュ
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「帝国法では判断出来ぬ事例を呼び起こす為。陛下の判断を得んが為!」
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◇カノン
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「危険過ぎます!冒険とも賭けとも違います。正に自殺行為ですぞっ!」
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ジョルジュ
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「これぐらいのリスクを背負わんで事に臨む程、偉業とは軽いものではない!カノン、黙って俺を信じろ!諸卿等は先の通り、大戦に備えろ!俺は必ずグライアスを、落としてみせぇーるぅッ!」
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M L
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執務室は異様な空気に包まれていた。今迄の“挑戦”とは、明らかに異なるこの危険な賭けに云い様のない不安を抱いていた。しかし、ライジング・サンの意識に一点の曇りもない。執務室を出た時、武官達も決意していた。
執務室に残ったカノンは、驚異の伯爵領への扉を開こうとしていた。ライジング・サンは、ウルハーゲンを呼び寄せ、三人だけで旅立ったのであった。
蜘蛛の巣城では、ヨッヘンバッハのグラナダ巡行の準備が急ピッチで進められていた。総兵力の三割に当たる300名もの兵を連れて行く事で、それなりの輜重や資金も必要となり、国庫が開かれた。復興や増改築、葬儀に祝賀会、度重なる出費ではあったが、代々に亘ってヨッヘンバッハ家が貯め込んで来た資金には未だ未だ余裕があり、ヨッヘンバッハ自身は意気盛んであった。
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ゲオルグ
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「よ〜し良し良し!順調であるな〜。であれば、連れて行く者は誰にするかの〜?ラウにブルンガー、ヤポン、ノルナディーンに悪魔の三人、護衛の八人と後はゴッヘか?クーパーも行くだろ?」
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◇クーパー
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「お待ち下さい。領内の庶務の都合上、全ての人材を連れて行く事は出来ません。私には政務がありますし、ヤポン殿はイシュタル殿のサポートが、ノルナディーン殿には魔術的支援をお願いしたい、と思います」
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ゲオルグ
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「であるか?ま〜、いいだろ〜。その代わり、俺が留守の間、しっかりやっておくのだぞ?」
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◇クーパー
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「ははっ、私めにお任せ下さい」
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M L
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ヨッヘンバッハは、テラスに出て、兵達に手を振り、有難い御言葉らしきものを滔々と語る事に終始した。
クーパーが離れるのを見て、ドンファンが近付く。ヨッヘンバッハから見えない位置に歩を進め、小声で話し掛けて来る。
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ドンファン
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「クフフッ、あンたは行かないのかい?外交はあンたの専売特許だろ?」 |
◇クーパー
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「帝国外務省の外交は、一般のそれとは違うのですよ。それに私は長官であって実務は現場に任せておりました。それに、今私が此処を離れては政務が立ち行かなくなります。それぐらいお分かりでしょう?」 |
ドンファン
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「クフフッ、そりゃ〜そーだが、あの公爵さンは目に見えるトコで成果を上げないと評価しネ〜だろ?付いて行って上手くヤりゃ〜、もー少しあンたの信頼度アガると思うゼ〜?」
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◇クーパー
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「…私への信頼等無用。君主は常に信頼される側であって、信頼するものではない。それに…」
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ドンファン
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「?それに、ナニよ?」
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◇クーパー
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「…付いて行けば、信頼を損ねる事になろう。失態は即、私の責任とされよう」
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ドンファン
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「どーゆー事よ?あっ!?外交、失敗するってか?」
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◇クーパー
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「そうとは云っておりません。ですが、外交とは常に自分だけではなく、相手を見る必要があるのです。要求を呑ませるには、相手の懐を突く必要があり、それだけの用意をしなければ成功させる確率は、それだけ低くなるのです。
そんな事を詮索するより、君は君の任をしっかり全うして下さい」
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ドンファン
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「クフフッ、分かってるって。見聞きした事はちゃんとあンたに報告するサッ!」
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M L
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帝都に向けて街道を歩む情報局員の二人、アルベルトとショパーニ。北方州に入る時には多くの警固に守られていたが、今は命とは無関係故、孤独な旅路にあった。
二人の下に伝令が訪れた。伝令が伝えた内容とは、査察に入ったライジング・サンによるグライアス王国への侵攻作戦の提案についてであった。
アルベルトは驚愕した。次いで怒りに打ち震えた。自分が査察に入り、吊し上げが出来なかったあのライジング・サンが、よりによってその様な恐ろしい提案をするとは。アルベルトは、直ぐにショパーニにジョルジーノへの潜伏を命じた。
何か途轍もない事が起こりそうな予感がする。ショパーニと分かれ、一人帝都へと急ぐアルベルトは、不吉な何かを感じていた。
そんな折、不安が具現化したかの様に視界に男が現れる。突如、何者?
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アルベルト
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「!?だ、誰だッ!?何処の部局、否、何処の所属の者だ?」
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、所属ネ〜。有り体に云って“地獄”か?ケケッ、俺は“怪鳥”ラシュディール。あンたの目玉を頂きに来たよ、ケケッ」
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「!?め、目玉だと?何故それをッ!?誰に雇われたのだッ!」
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、答えるとでも思うかい、兄ちゃン?動かなければ、そンなに痛みはないゼ?抵抗すれば、痛いよ〜?」
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M L
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アルベルトは指を軽く曲げた。その僅かな動きに反応して、腕に付けたバネ式の固定具から手元に小さなボウガンが忍ぶ。その小型の連弩をラシュディールに向け、連射する。ラシュディールは流れる様にアルベルトの左へと動き、矢を躱す。アルベルトはベルトのバックルから小さな短剣を左手に掴み、放つ。ラシュディールは、剣を抜き打ちざまに短剣を真っ二つにした。
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、暗器ばかりだネ〜?屋内での刺客対策かい?それだけじゃ〜、俺は倒せんよ〜、ケケケッ」
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アルベルト
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「ふふっ、なればこれでも喰らいなさいッ!」
鼻眼鏡を外す。左手を左目に添え、瞼を大きく開く。くすんだグレーの瞳の虹彩が拡大し、白濁すると、突如、凍てつく様なアイスブルーへと変貌する。
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M L
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不意に空気が歪む。ラシュディールの姿が背景に溶け込む。その姿がアルベルトの視界から消えた。アイスブルーのその瞳にラシュディールの姿を写せない。
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アルベルト
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「!?き、消えたッ!!?ど、何処にッ!」
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、哀れな男。与えられた力のみに頼るとはネ。尤も、本に囲まれて生きるだけなら十分だろうがネ、ケケケッ」
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M L
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アイスブルーの視界に僅かな光が差し込む。その左目に写り込んだ最後の像は細身の刃。ドシュッ、激痛がアルベルトを襲う。
抉り奪われた眼球が宙に浮く。やがて、眼球が握られている事が分かる。ラシュディールの姿が背景を閉ざす。現れいでたその姿を泣き叫び睨み付けるアルベルト。
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、この目ン玉は頂いたゼ!安心しなッ、命迄は取らネ〜からサッ。ンじゃ、達者でな〜。チャオッ!」
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M L
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突然、エネルギー波がラシュディールを襲う。凄まじい衝撃に血煙が舞い、ラシュディールの体を仄かに発光する見えざる縄が縛り、弱い電撃が筋肉を打つ。
不意の衝撃波で眼球を手放し、宙に舞ったそれをキャッチする男。街道を旅するとは思えぬ程に軽装のその男は、縛られたラシュディールを見下ろし、微笑む。
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◇ラシュディール
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「!!?い、いでぇ〜ッ!!て、てめぇ〜、何もンだッ…あっ!?あ〜ッ!て、てめぇ〜はッ、“双頭の蛇”!!?」
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アルベルト
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「!!?双頭の蛇ッ!!フォーカード(*6)が何故、此処にッ!」
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◇フォルケ
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「元っ!元フォーカードネっ!現役のフォーカードをこ〜ンな仕事に回す訳ないでしょ〜よ?ま〜、そンな話はどーでもい〜のよっ。ま〜、目ン玉は取り戻したし、おまけにお尋ね者も捕らえられて一石二鳥ッ!」
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アルベルト
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「?な、何の事です?取り戻すとは?」
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◇フォルケ
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「“盲た宰相の片目”は君には過ぎた“おもちゃ”だった様だネ。こンなもンに頼ってる様じゃ、“執行人”は無理だネ〜。まぁ、成りたい、って奴の気が知れンけど」
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◇ラシュディール
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「お、俺はどーなンだッ!おいっ、助けてくれよッ!」
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◇フォルケ
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「相変わらず、どっかヌけてるヤツだよな〜、お前って?どっかに閉じ込められンじゃないか〜、知らネ〜けど?
アルベルト、君も覚悟しといた方がい〜よ?怒ってると思うゼ〜、爺さン」 |
アルベルト
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「クッ、この私がッ!この私をッ!覚えておれ〜!!」
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◇フォルケ
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「おいおい、恨むンだったら相手が違うゼ?尤も、恨むなら、君の不甲斐無さを恨むンだな〜?」
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M L
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荒涼とした丘陵地帯には無秩序にバラックが建ち並ぶ。平地では春の到来を喜んでいると云うのに、此処は真冬の様。空気は凍る程に寒く、霜柱とつららが冬の光の芸術を醸し出す。見た事もない時代の建造法によって今尚そびえ立つその武骨な城の城門は開け放たれ、乾いた血の香りといにしえの埃とを冬風に乗せて寂れた町を覆い尽くす。陰鬱で禍々しい雰囲気に満ち溢れたその町に訪れた。
ジョルジュはウルハーゲンを引き連れ、カノンの術によってこの恐ろしい大地に訪れた。パルムサス伯爵領。帝国最北端に位置する驚異の土地。帝国にあって、その全てが帝国と異なる唯一の場所。帝国中央領域(*7)とも又、違う。帝国の支配を一切、受け付けない完全な独立領。
パルムサス伯爵。108柱の魔神の一人にして、大陸にクレバスを刻みしもの。あの恐るべき妖帝[あやかしのみかど(*8)]に仕えた七名の臣下の一人。剣の魔神として知られ、多くの英雄達の首を刈った事が伝承に残っている。
この領土は、そもそも妖帝に与えられた土地。帝国が領土を広げて接しただけの事。過去に何等かの取り決めがあったのであろうが、記録には残っていない。
この土地には世界中から人々が集っている。パルムサスの存在は既に信仰の対象ともなっていた。恐怖と暴力に満ちたパルムサスへの信仰は狂気以外の何ものでもないが、荒ぶる連中にとっては楽園であった。
パルムサスは数十年に一度、信者を引き連れ、戦を仕掛け暴れ回る。一昨年も帝国に向けて進軍して来ていた。その際には、サロサフェーン率いるコロッセウムを中心に第27北方辺境軍団や北方辺境貴族連合によって退かされている。パルムサスの進軍は勝利する為ではない。退屈凌ぎの戦争ゲームにしか過ぎない。パルムサスにとって人間達との勝敗そのものに興味はない。過程を楽しむ為だけのものである。
魔神パルムサスは恐怖の象徴である。触れてはならない禁忌の存在。その魔神の支配する狂った大地に、ジョルジュ等三人は足を踏み入れた。
開け放たれた城門には、警固の者はいない。不気味で重苦しい空気が城内から流れいでる。カノンの余計な瞳を除いた額には脂汗が伝う。ウルハーゲンはいつもと変わらない。端から表情等ない。ジョルジュは昂揚していた。未だ見ぬ伝説との対面に子供の様な無邪気さに心躍っていた。
城の中は宛ら浮浪者を匿う修道院の様。傷付いた男達や窶れた女性等が壁にもたれ、三人に無気力な眼差しを投げ掛ける。ほぼ無反応。通路脇には白骨が転がる。城内の気温は外と変わらない。何とも寒い。雰囲気のせいだろうか?
無防備過ぎる城内の通路は、そのまま謁見の間に続く。得体の知れない詠唱がそこから聞こえて来る。帝国語とは全く異なるその文言は、意味は知れずとも不吉極まりない。邪悪さとは違う異質な感覚、それがこの魔神への信仰なのだろうか。
玉座に鎮座するものがある。奴がそうなのであろうか。極僅かな燭台の明かりが照らし出す男。厳つくも、大男でも、凶暴そうでもない。だがしかし、重い。鉛を溶かした様な空気の重さ。歩む足が異様に重い。
巨大な謁見の間の壁際に張り付く様にして祈りを捧げる信者達。玉座には、見た事もない彫刻が刻まれた、その煤汚れた鎧に身を包む男が座す。頬杖をしたまま、瞳を固く閉ざす。眠っているかの様。
玉座の前に歩み出た三人。突然、ウルハーゲンが立ち止まり、胸の前に籠手を置く。礼か?ウルハーゲンの自発的な意志に二人は驚き、覗く。直後、背筋に強烈な意識の濁流が襲い掛かる。振り向き玉座を眺めると、城の主の瞳が見開いていた。凄まじい眼力。全身を射抜かれた様。痺れにも似た感覚が二人を捕らえて逃さない。
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◇パルムサス
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「…うぬら、何奴?」
口は閉ざしたまま。しかし、城中に響く程、重い言葉が発せられた。
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ジョルジュ
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「………俺は帝国北方辺境軍団長ジョルジュ・アルマージョ・ダイアモントーヤ。貴方がパルムサス伯爵か?」
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◇パルムサス
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「…懐かしい者を連れておるな。そうだ、予がパルムサスだ。何の用だ?」
何の感情も発さない。だが、猛烈な意識が辺りを支配する。
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ジョルジュ
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(…やはり…やはり、ウルハーゲンを知っているのか…しかし、何故?)
「貴方とゲームをしに来た。退屈を吹き飛ばすスリリングなゲーム」
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◇パルムサス
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「…変わった人間だな?予に微塵の恐怖も抱かぬとはな」
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ジョルジュ
|
「否、畏れておののいている。只、俺の想像し得る恐怖の臨界点を遙かに超えるが故に、恐怖するを忘れていた。今、俺を包むのは、伝説の魔神を前に興奮を隠しきれない童の様な気持ち。ひたすらに喜びが湧き上がって来る」
|
◇パルムサス
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「…ゲームとは、一体どの様なものだ?」
|
ジョルジュ
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「軍略を尽くし、競い合うゲーム。どちらが先に指定した目標を落とすかを競う」
|
◇パルムサス
|
「…戦で競うゲームか。成る程。で、その目標とは?」
|
ジョルジュ
|
「グライアスッ!」
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◇パルムサス
|
「!?…グライアス!グライアスか…ふふっ、面白い。予にグライアスを落とすゲームを持ち掛けるとは。良いだろう、受け立とう。で、ルールは?」
何の感情も発しなかったパルムサスが表情を露わにさせた。
|
ジョルジュ
|
(?何故、グライアスに反応する?何があるのだ、グライアスに?)
「ルールは簡単。軍略、知略、策略、奇略、謀略等その全てを用いてグライアスを先に落とした方を勝ちとする。使用する兵力は自由。但し、貴方は魔神としての力を用いては駄目だ。代わりに俺も帝国正規軍、つまり俺の辺境軍団を用いない。グライアスを攻略したかどうかは、ラナンシーにある王城に自身の旗を掲揚する事で決める。そして、勝った方は負けた方に一つだけ望むものを要求出来、負けた方はそれに応えなければならない。どうだ?」
|
◇パルムサス
|
「…良いだろう。兵力は自由なのだな?グライアスを落とすのであれば、久方振りにクルセイダーを使うか…ふふっ、楽しみだ」
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ジョルジュ
|
(クルセイダー?御伽噺に聞くパルムサスの不死身の兵達…実在していたのか!?)
「では、今からスタートだ!共に競い会おう。次に会うのはグライアスだ!」
|
M L
|
三人はパルムサスの城を後にした。足早に歩むジョルジュに緊張の解けないカノンが話し掛けて来た。
|
◇カノン
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「ジョルジュ様、貴方様と云う御方には全く驚かされます!あのパルムサスを前にして全くたじろぐ事がないとは。私等、恐怖に凍り付いておりました」
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ジョルジュ
|
「フッ、今になって恐怖に竦んでおる。奴に云った通りだ。想像を絶する恐怖を前に俺の感覚が麻痺していただけだ。恐ろしい連中を知らんだけの事。無知故の蛮勇に過ぎん。云うなれば、お前達フォビアの方が余程、俺には怖い。お前達を相手にすれば何とか対処しよう、と努力する。が故に恐ろしい。だが、奴の様な存在には、その様な努力さえ考えも及ばない。故に畏れを抱かなかっただけ。今にして思えば、何故平静を保てたか謎だ。そんな事より、引っ掛かる事がある…」
|
◇カノン
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「?何か思う処でも?」
|
ジョルジュ
|
「奴との接見で陛下との謁見を思い出した。そして、今、違和感を禁じ得ない」
|
◇カノン
|
「違和感、とは?」
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ジョルジュ
|
「紛う事無き化け物であるパルムサスを前に、俺の五感と心と魂とは打ち震えた。あの圧倒的な存在を全身で受け、眩暈を感じつつも俺の意志は平静であった。だが、陛下との謁見は違った。心と魂とで感じ、確かに肌が触れ合う程、近付いたと云うのに五感に訴えかけては来ない。なのに、俺の意志は囚われた…何故だ?」
|
◇カノン
|
「帝国人特有の感覚でしょうか?自国の大君主を前に刷り込まれた意識では?」
|
ジョルジュ
|
「生ける伝説の存在の巨大さを肌で感じ、その奥深さを知った今、陛下の放つオーラとの違和感に一抹の不安感を感じる。確かに俺は陛下と会い、俺の忠誠は陛下にのみ注がれる。なのに何故だ?陛下の顔が思い出せない…」
|
◇カノン
|
「帝都は都市そのものが術式に特化した町造り。何らかの魔術的演出を伴っておられたのでは?皇帝崇拝さえも存在するのです。ムーン教団(*9)の力もありましょう」
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ジョルジュ
|
「陛下の存在は偉大であった。にも関わらず、何故これ程迄稀薄なのだ!?まるで、夢でも見たかの様。記憶には残るが体感として残っていない…おかしい…」
|
◇カノン
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「ジョルジュ様。あのパルムサスとの接見の直後なのです。感覚に何らかの影響が及んでいたとしても何等不思議ではありません。早々に城に戻り、お休みなられるのが宜しかろう、と存じます」
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ジョルジュ
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「…そうだな。疲れておるのかも知れん。グライアス攻略に専念する為にも、急ぎ戻り、一休みしよう。これから忙しくなるのだからな」
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M L
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カノンの術で太陽城に舞い戻ったジョルジュは、辺境軍団にパルムサスの襲来がある事を伝えると早めに休んだ。日没前にジョルジュが寝所に入ったのは、これが初めての事であった。
一週間を待たずして、恐ろしいニュースが舞い込む。パルムサス伯爵が、その恐ろしい兵共を引き連れ帝国領を進軍中、との事。その進軍速度は極端に遅いものであったが、引き連れる兵の数は夥しく、一昨年のパルムサス戦役を遙かに凌駕していた。
辺境軍団への州からの指示は、待機命令であった。グライアス侵攻作戦を提示したジョルジュを軍部は信用しなかったのであろう。しかし、これは正しい。パルムサスの進軍は正しくジョルジュによるものであった。
軍部は、先の戦役から極端に時期の間隔の短いパルムサスの進軍に疑問を抱きつつ、パルムサスの信奉者からなる軍の徹底壊滅作戦を提案した。その為、北方州軍団の投入は勿論、西部戦線に出向いている前線司令長官ドーベルム・グラバッド元帥を緊急招集した。ドーベルムは、ジョルジュのかつての上官でもある。軍部の判断は、辺境軍団と北方貴族の統括をも視野に入れていた。北方州軍団を投入すると云っても、パルムサスの行軍速度が極度に遅い為、北方州付近に至る迄、州軍団を動かす訳にはいかなかったのだ。
此処で軍部の予期せぬ動きがあった。信用仕切れなかった辺境軍団故に待機命令を発したにも関わらず、その辺境軍団が赴任地ジョルジーノを離れ、辺境域に陣取り、パルムサスの進軍に牽制をしたのである。ライジング・サンからの報告書には、辺境域の緊急事態故の独断、とあった。無論、許されない軍規違反。しかし、州軍団の準備不十分は勿論、ドーベルム元帥に至っては、未だ帝都にさえ到着していない状況であった。軍部は州軍団に対し、パルムサス邀撃命令を撤回、一変して待機命令を下した。予期し得ない辺境軍団の動きに、完璧である筈の軍部にも混乱を巻き起こした。北部正規軍の統括の任に当たる戦闘司令長官ブラッカン・ゼルウェンス元帥を北方州に送る決断をも下した。だが、三元帥の内、二人も送ると云う異常事態には政治的判断をも仰ぐ必要が生じ、大元帥スウェーデンボルグは宰相府への対応にも奔走せざるを得なかった。
軍部の混乱を余所に太陽城では虎視眈々とグライアス攻略の絵が描かれていた。尤も、そこには軍首脳の姿はなかった。公儀隠密と呼ばれる親衛隊の面々と密かに話し合うライジング・サンは、大胆な攻略の糸口を説いていた。
そんな折、街道警備隊長のジュベが執務室をノックした。
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◇ヤーナハラ
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「閣下、お忙しい中、大変申し訳ありません。緊急の事ですのでお許し下さい」
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ジョルジュ
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「ジュベか、どうした?ジャッカル(*10)でもやって来たか?それとも勲等剥奪士団(*11)でも動いたのか?」
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◇ヤーナハラ
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「いえ、辺境域東部より私兵300を引き連れ地方貴族が此処、ジョルジーノを目指して向かって来ているのです。制止を促しましたが聞き入れず、街道警備隊で追跡しております」
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ジョルジュ
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「らしくないな、ジュベ?そんな弱腰でどうする?帝国がその気で部隊を送ってくれば、その様な気概では全滅だ」
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◇ヤーナハラ
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「それが、その貴族は閣下の御友人である、と宣っておりまして…」
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ジョルジュ
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「?友人だと?何者だ?」
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◇ヤーナハラ
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「ゲオルグ・ヨッヘンバッハ公爵と云う者です」
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ジョルジュ
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「…又、あの匹夫か…この忙しい時期に何の用だ!まぁ、良い。奴の私兵はジョルジーノには入れるな。ザラライハの警察隊とビィの予備隊、それにお前の警備隊で奴の私兵を郊外で釘付けにしろ。従わねば殲滅して良しっ!奴とその側近だけを城に招く。その際、衛兵を付けよ」
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◇ヤーナハラ
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「はい、閣下。了解致しました。ではっ」
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M L
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夕刻程近くに、太陽城にヨッヘンバッハが側近を連れて訪れた。大声で辺りをがなり散らす様は、貴族と云うよりは破落戸の様。かなり長い事、町の外で私兵の扱いにおける問答を繰り返し、苛立っている様子が伺える。
謁見の間ではなく、城外の中庭での接見と云う異例の事態にもヨッヘンバッハは怒っている。貴族の来訪にはもてなしが不可欠、と騒ぐヨッヘンバッハの言にも一理ある。しかし、招かれざる客を扱うライジング・サンの意思表示も鮮烈であった。
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ジョルジュ
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「…久しいな、男爵。帝都以来か。今日は何の用かね?」
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ゲオルグ
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「ど〜云うつもりだ、ジョルジュ!わざわざこの俺が、遠く離れた其方の地迄、足を踏み入れてやっておるのに、もてなし処か歓迎の一つも取らンとはーッ!それから、俺は公爵となったのだっ!覚えておけ〜い!!」
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ジョルジュ
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「君が来る事はスケジュールに入っていなかったのだよ。それに兵を連れて来るとは、どう云う了見かね?危うく、山賊と間違え、討伐し損ねた。君は運が良い」
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ゲオルグ
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「巫山戯るのもいい加減にしろ〜ッ!俺は大事な話があって参ったのだゾッ!其方にとっても重要な事だーっ!真摯な態度で話を聞け〜いッ!!」
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ジョルジュ
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「だから、用件は何だと聞いておる。私は無官の君と違って忙しいのだよ。話があるなら、とっとと喋り給え」
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ゲオルグ
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「俺は無官ではな〜いっ!外務省の一等次官であ〜るルルルぅ〜!もっと、敬い給え!失礼であろぉ〜?失礼でッ!!」
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ジョルジュ
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「…自ら次官と云ってるではないか?無官であろう。意味を理解していないのか?私は貴族位を得てからは採用試験は受けておらんが、勲等試験で特等を得ておる。軍団長に任官された故、扱いは元帥府の特等指揮司官、尤もこの云い方は一般的じゃない。北方辺境軍団長と云えば、君でも分かるであろう?」
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ゲオルグ
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「そンな話はど〜でも良いのだぁーッ!態度を慎め、と云っておるのだぁーッ!!」
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ジョルジュ
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「何とも足らん奴…で、何の話だ?サッサと話せ」 |
ゲオルグ
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「む〜、全く態度のデカいヤツよの〜。ま〜、良い。では、早速だが、俺の領土と白の女神を返して貰お〜かの〜?」 |
ジョルジュ
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「…何をしに来たかと思えば、下らん。未だ、その様な世迷い言をほざくとはな」
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ゲオルグ
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「!?世迷い言とは何だーッ!世迷い言とはッ!!」
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ジョルジュ
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「アバロンの全てが我が傘下の諸候達の領土だ。況して、君のかつての所領は、我が重鎮プルトラー男爵の所領。女神はそこに居っただけの事。北方辺境貴族の所領は移ろい易い。半年も前の話を蒸し返さないでくれ給え」
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ゲオルグ
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「何を申すかっ!!勝手に奪っておいて何とした事かーッ!」
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ジョルジュ
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「帝都でも云ったが、取り戻す気であれば武力行使しかない。既に帝都で会った時とも情勢が違う。金銭での売買は受け付けないので、実力で奪うしかない。尤も、数万の私兵を有し、辺境軍団長として一個軍団を預かる私に勝てるかな?」
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ゲオルグ
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(桁が違うの〜…これ程、力の差があっては致し方ないの〜…)
「むむ〜、仕方ないの〜。相分かった。今日の処は大人しく引き下がるが、又、何れちゃンと話し合いをするのだぞ〜!」
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ラウ
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「ちょっと待てよ、ヨッヘンバッハ。詳しい事は知らンけど、あいつはあンたの土地と女神を奪ったンだろ〜?そンな悪いヤツをのさばらせておいていいのか?」
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ジョルジュ
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「…何だ、その野人は?奴隷に口を出させるとは、どう云うつもりだ?」
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ゲオルグ
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「これッ!ラウッ!口を慎むのだ〜。仮にも貴族同士の難しい話し合い。そちの出る幕ではないゾッ!」
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ラウ
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「何云ってるンだよ、ヨッヘンバッハ。あいつは悪いヤツなンだろ?そンな悪いヤツの話なンか聞いちゃダメだっ!それに俺は奴隷なンかじゃないッ!!」
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ジョルジュ
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「…粗野な下衆は去れ!私の土地に下衆はいらん。二度と踏み入るでない!!」
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ラウ
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「悪いヤツの言葉は聞かないッ!悪いヤツは倒さねばならないッ!」
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ゲオルグ
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「これッ!ラウッ!そンな事を云ってはならン!帝国貴族を馬鹿にしてはならン!!」
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ジョルジュ
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「男爵。君とて紛いなりにも人の上に立つ身。なれば、周りに置く者にも注意を払わねばならん。素養のない者を侍らせては、品位と信用を失う。ひいては己の評価をも損ねる。君はもう少し、人を見極める力を養う必要がある」
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ゲオルグ
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「む〜、分かった。其方の忠告は真摯に受け止めよ〜。それとッ!俺は公爵だッ!公爵ッ!!ちゃンと、覚えておくのだゾッ!」
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M L
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珍客の立ち去った後、太陽城の謁見の間にライジング・サンの臣下が集まった。執務室には収まりきらない程の部下達との重大な会議が開かれた。
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◇ハイドライト
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「内務省の次に外務省とはっ!しかも、あの様な程度の低い男を遣わすとは。帝都は何を考えているのだッ!」
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ジョルジュ
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「さあな…だが、これで決まった。宰相府も元帥府も俺の敵に回る!起死回生の為には、最強最善にして奇跡の一手を打つしかあるまい」
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◇メルトラン
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「!?一体、その一手とはっ?」
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ジョルジュ
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「帝国史と帝国法を覆す事実!その成就!!神速を以て、事を成す!!!」
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◇ロンタリオ
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「如何様にして事を成さるるのじゃ?」
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ジョルジュ
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「既に実行部隊には話しておる。実行部隊には公儀隠密と太陽の旅団のみを用いる。太陽の旅団は麓に伏せておき、グライアスに侵入するのは公儀隠密のみ」
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◇ソル
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「少部隊での侵攻作戦をお考えですか?」
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ジョルジュ
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「ああ、グライアスの地形的、軍事的防衛力は侮り難い。実質的な軍事力を投入しても上手く行く保証はない。故に特殊部隊投入による電撃作戦を展開する」 |
◇プルトラー
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「…得策かも知れんな。帝国はグライアスに対して軍事侵攻しかした事がない。隙を衝く特務作戦は思わぬ効果を発揮するかも知れん」 |
◇シャメルミナ
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「でもさ〜、グライアスにはハイランダー(*12)がいるンだよ〜。知ってンの〜?」
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ジョルジュ
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「ハイランダー?御伽噺に出てくる対妖帝用擬人兵器か?」
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◇カノン
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「御安心なさいませ。ハイランダー等恐るるに足りません。物理的に破壊出来得るハイランダーは脅威ではありません」
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ジョルジュ
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「…成る程。パルムサスがクルセイダーを使う理由が分かった気がする。ならば、ハイランダーの主たる目標をパルムサスに向けさせれば良い」
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◇五芒星
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「閣下!パルムサスと何らかの約定を結ばれたのですか?」
五芒星の一人、ロナウジーニョが訊ねる。
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ジョルジュ
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「否、俺と奴のどちらが早くグライアスを落とすか競っておるだけだ」
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◇ハイドライト
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「!!?っなっ!?何と云う愚かな事をッ!!何故、その様な暴挙をなさるのですかッ!そもそも、帝都に睨まれる様な案を出し、あの堅固なグライアスを落とす等愚の骨頂!」
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◇ロンタリオ
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「カッカッカッ、クームーニン君。差し出がましい事を云うのではない。閣下は若いのじゃから、色々と挑戦なさるぐらいが丁度良いのじゃ」
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◇ハイドライト
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「何を巫山戯た事をっ!失敗したらどうなさるおつもりかッ!グライアス攻略に失敗し、パルムサスに競い負け、帝都から詰問され、軍が押し寄せッ!!考えるだに恐ろしい!そうなれば、大罪人処か史上稀にみる愚か者として揶揄されますゾッ!」
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ジョルジュ
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「失敗など畏れぬ。そもそも考えもせぬ!我が意志に一点の曇りもない。お前達は変わりなく統治せよ。俺はグライアスを、落としてみせぇーるぅッ!」
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◇ヘイルマン
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「!?まさか、ジョルジュ様自ら向かわれるおつもりではッ!?」
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ジョルジュ
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「ああ、俺が直接指揮する」
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ゼファ
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「私もお供して宜しいでしょうか?御協力させて頂きたい」
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ジョルジュ
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「良いだろう。既にガローハン達太陽の旅団はグライアスへの街道沿いに待機させてある。後は俺達が潜入するだけ」
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ゼファ
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「?どの様にして潜入なさるのですか?」
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ジョルジュ
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「着いて来い!」
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M L
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帝国東方辺境西部にやって来たジナモンは、ライゾーの所領を目指した。辺境とは云え、それなりに整備されている。尤も、大きな街道は一つもない。入り組んだ小径は、様々な辺境貴族の所領へと続いている。北方辺境西部と異なり、所領同士が地続きではない。疎らに点在する所領同士が争う事は稀。それもその筈、東方辺境は東方大公が調停や圧力を下し、所領争いや権力闘争を押さえ付けている。大公に辺境を統括する義務はない。しかし、東方大公は東方辺境の地形的な問題から州内への損害を未然に防ぐ為に自らこれを行っている。
ライゾーは東部貴族となって当初、周辺諸候の所領を荒らし回った。暴力的な諸候の少ない東部でのライゾーの行為は、すぐに東方大公の目に留まり、釘を刺された。結果、ライゾーは北方辺境東部に略奪にしに行ったのだった。
ジナモンは、ライゾーの所領に入ると、真っ直ぐにライゾーの館を目指した。
覇追得館(はおうかん)と名付けられた館は、以前の領主の館を改修したもの。装飾の類は一切排除され、武骨そのもの。厳つい顔した人間だけが出入りしている。
町には歓楽街が建設されている。その建設で働かされているのは奴隷。首輪に手枷足枷を付けられ、使役されている。帝国では奴隷への扱いは過酷である。ライゾーも又、奴隷を過酷に扱う。帝国人ではない彼だが、その気性の激しさがマッチしていたのだ。彼は典型的な南武人としての武勇至上主義と帝国の風紀である実力実利主義とが見事に融合した気質の持ち主であった。尤も、これは考えての事ではなく、彼自身の性格がそうなのであった。
ジナモンは策等練らない、否、練れない。真っ向勝負に打って出た。
覇追得館の前で衛兵らしき傭兵に止められるや否や、抜き打ち様に斬って捨てた。ジナモンは、その傭兵を斬って捨てると館に乗り込む。次々と傭兵達を斬り捨て、走り抜ける。
あっ、と云う間に十数人を切り捨てたジナモンの前に、何処からか現れた男が立つ。ダボッとした黒尽くめの装束を纏い、顔さえも漆黒の薄衣を着けている。目の前に立つにも関わらず、存在していないかの様な違和感。一言、不気味。
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ジナモン
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「!?何者だッ、貴様ぁーッ!!」
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◇スライスラン
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「私は“羅刹”のスライスラン。何者かは知らぬが、それ以上暴れて貰う訳には行かぬ!早々に立ち去られよ」
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ジナモン
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「巫山戯るなーッ!仇討ちを途中で止められるかーっ!!ライゾーの首を獲るッ」
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◇スライスラン
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「無理だッ!させる訳には行かぬ。今ならば命迄は取らぬ故、立ち去れい」
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M L
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問答無用とばかりにジナモンは斬り掛かる。目にも留まらぬ突きを繰り出す。スライスランは僅かに体を開く。ダボついた服だけをジナモンの段平が引き裂く。
スライスランの蹴りがジナモンを襲う。段平の柄元で防ぎ、再び突きを繰り出そうとする。が、スライスランの姿はない。
ジナモンの頸筋にスッ、とナイフが伝う。いつの間にかスライスランに背後を取られている。
ギョッ、としたジナモンが振り返る。同時にスライスランの抜き手が鳩尾を襲う。ジナモンの意識は遠退き、スライスランの腕に抱かれるのを僅かに感じた。
雄大にして荘厳なグライアスの山々。春今尚遠い、深い山嶺にあって静かに佇むグライアス盆地。そのグライアスを統治するのが第15代国王バッセル3世。国政を補佐するのが第37代宰相レンゼルフ。グライアスの信仰を一手に集めるのがグライアス神殿であり、その指導者には大神官パトムクが就いている。グライアス王国の歴史は帝国よりも遙かに長く、一千数百年にも亘る。
現王朝は、前王朝の血縁が絶える際、禅譲によってその王位を譲られている。その現王朝となってからでさえ、帝国よりも歴史が長いのである。現王朝となってから政務の補佐として宰相の地位が設けられた。その宰相は現王朝の特権や支配を監視する立場にもある。前王朝から禅譲される際、新王家に権力が集中しない為に提案されたシステムである。尤も、人口10万程度の小国であるグライアスで権力闘争は殆どない。王位は世襲であるが、大神官による戴冠の儀が必須とされる。宰相の任命権は国王にある為、権力集中の防衛策である宰相の意味合いとシステムの程は謎だが、少なからずグライアス史において陰謀劇は起こっていない。何より、ムーン教よりも古いとされる土着の信仰がグライアスの牧歌的な国民性を培っている。一神教(*13)の様な熱烈な信仰を求めないこのグライアス神殿の信仰は、宗教と云うよりも生活に根差した風習により近く、より自然な俗習と慣習とを国民に与えている。
グライアス王国には小規模ながら軍隊が存在する。発端は神殿を守る武装組織であったとされるが、現在ではグライアス盆地を外敵から守る為の兵団である。外敵とは云わずと知れた帝国であり、過去何度か帝国の侵略を退かせた経歴を持つ。その性格上、傭兵の類はおらず、全て国民からの徴兵によって賄われている。指導に当たる将達は八柱将軍と呼ばれ、古代の神々の姿になぞらえ、国民の尊敬を勝ち得ている。現在の八柱将軍の筆頭はランガラと云う、還暦をとうに過ぎた老将で、国王バッセル3世の信任篤い。
最近のグライアス王国では、帝国からの侵略もなく、公的な友好関係はないにしろ、帝国北部との交易も盛んであり、火口湖に浮かぶ美しい景観を持つ首都ラナンシーには、帝国の分限者や有識者達が観光に訪れる程、のんびりと、豊かであった。
その平和的な王国の都ラナンシーに、危険な香りを放つ来訪者一団が訪れたのは、晴れ渡り空高く、小春日和の日であった。
それなりに大きな宿屋を丸ごと貸し切った一団は、観光に来た、と語るがそれにしては物々しい姿。大金を貰い受けた宿屋の主は喜びつつも、不安感を禁じ得ない。一団の主は、帝国の貴族だと云う。確かに雅やか。しかし、何故か観光客とは思えない。不安を覚えた宿屋の主人は、町の衛兵にその事実を伝えに行った。だが、衛兵達は忙しく、手が離せない状況にあった。それはパルムサス伯の率いる軍隊が、このグライアスを目指しているのではないか、と云う噂が飛び交っていたからであった。衛兵達は有事ともなれば、そのまま軍隊へと変貌を遂げる。もし、パルムサスの進軍がグライアスに迫れば、ラナンシーから出て、帝国に繋がる街道の壁門に向かわねばならない。盆地に入れる前の攻防戦こそが重要なのであった。
宿屋を貸し切った一団の主はジョルジュ。カノンの術でラナンシー郊外にやって来て、観光客を装った。この宿屋を借り切ったのにも訳がある。グライアス城とグライアス神殿の両者を覗く事が出来る上、共に近い。場所的に好都合であった。
ジョルジュはグライアス攻略の綿密な打ち合わせを始めた。城と神殿を実際に下見に行き、手に入れてあった地図と比較検討していた。その上でラナンシーにある警備の要所とグライアスの兵力、要人の情報、町並を調査し、計画を立てた。
計画はこうだ。第一に神殿の制圧と大神官の身柄拘束。グライアスの精神的支柱である神殿を確保する事で後に交渉が起きた場合、重要となるからである。秘められた兵力となり得るハイランダーを封じる目的もある。
第二に城の制圧と政府要人の身柄拘束。パルムサスとの取り決めで旗の掲揚は城としてある。施政の中枢である城を押さえる事で王国の基盤を乗っ取る事が出来る。政府要人の拘束は、後の統治機構に大いに役立つ。武官はこれに含まない。
そして、最後にグライアスに太陽の旅団を呼び込む。実質的な兵力と人員を以て、王国の全てを支配下に治める事を目的とする。街道に設置された城門を内側から解き放つ事で、無駄な損害を出さず、速やかな新体制を敷く事が可能となる。
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ジョルジュ
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「全てを連動させたい処だが、神殿制圧は重要。見て来た処、地図には記されていない秘密の箇所もあると予想され、神官等の数も多く、どの様な術を使うとも知れん。故にスターレス88を除く全員で神殿制圧に向かう。スターレス88は、街道に設置された全ての城門を解き放て。邪魔立てをする者がおれば消して良しっ!」
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◇ワグナー
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「御意。なれど、我等は過去、グライアスにありましたので、城内にも精通しておりますが?」
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ジョルジュ
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「否、規模や警備体制から見ても城の方も我々だけで大丈夫だ。太陽の旅団をこの盆地に入れる事こそ肝要。失敗は許されぬ!
実行日は一週間後。スターレス88は、伝令を太陽の旅団に送れ。携える剣は抜き身で来い、と。未だ、霜が降りる故、鞘から抜けなくなる畏れがある。又、用意させておいた炭の火はおとしてはならぬ、と。走る事も禁物。高山病に気を付け、かかった者は山麓に戻せ、と」
|
M L
|
気候にも風習にも慣れた一週間後、ジョルジュ達一団が動き出す。
グライアスで徴兵された軍はラナンシーを発っていた。パルムサスの軍勢が此処グライアスを目標として進軍している可能性が濃厚となっていたからであった。
ジョルジュらの装備は物々しく、殺気に満ちていた。擦れ違う民は怪訝な表情を浮かべ、遠ざかる。
グライアス神殿。外観はそれ程大きくはない。古めかしい造りは神聖さ、と云うより遺跡の様。日常的な宗教としてより、儀式的な観光名所としての側面が強い。参拝者も少ない。
その日は、いつもにも増して参拝者が少ない。と云うより皆無。無人とも思える神殿に乗り込むジョルジュらは、神殿内部を見て愕然とする。
全く人気がない。参拝者の割に多すぎる様に思えた神殿のスタッフも神官の姿もない。不自然さに悩まされつつ、ジョルジュらは神殿の奥へと駆け込む。
立入禁止区域とされる場所に迄踏みは入り、神殿の地下へと進む。やがて、地上階とは趣の違う通路を進み、やがて古代の神像が立ち並ぶ祭壇の広間に着く。そこには一人の男がこちらに背を向け、祭壇に祈りを捧げている。
「誰だっ?神官か?パトムクは何処だ!」
ジョルジュの投げ掛けに答え様ともせず、祈り続ける。一瞬の時をおいて、祭壇の物陰から無数の何かが現れる。人か?否、彫像の様なもの。しかし、緩やかに動く。これが噂に聞くハイランダーか?見た事もない古代の装飾に古い作りの剣を握り、宙を舞って襲い掛かって来た。
壮絶な戦いが繰り広げられる。無数のハイランダー達とジョルジュ一行の戦い。凄まじい戦いではあるが一方的でもあった。ローボズ、フィールボス、カノン等のフォビア達は易々とハイランダーを破壊していた。ウルハーゲンに至っては複数のハイランダーを一突きで粉々に粉砕した。サルウ、舞姫、ユキ、ビヨンソー、ゴケミドロ等は一対一で闘っても傷一つ負わずに勝利していた。ゼファと他の親衛隊達も、ハイランダーの硬さに苦戦しつつも、複数人で一体を確実に仕留めていった。ジョルジュ自らは闘わず、魔術支援を行い、戦況は確実に有利であった。
戦況不利を悟ったのか、祈りに終始していた神官が口を開く。ハイランダー達は、速やかに戦闘行動を止め、祭壇の奥へと姿を消した。
|
・・・
|
「…何と恐ろしい事か!よもや、この地に侵略者が訪れようとは…」
|
ジョルジュ
|
「お前は?パトムクではないな?大神官は何処におる!」
|
・・・
|
「…大神官様はもう此処にはおりませぬ。貴方達が来る事は分かっておりました。残った者達は、最早抵抗は致しませぬ。ですから、何卒!何卒、この神殿を蹂躙なさるのだけはお止め下さい」
|
ジョルジュ
|
「分かっていただと?大神官が神殿を捨て、逃げるとはな。無論、神殿は残す。グライアスの象徴と云える、この神殿を破壊する筈がなかろう?だが、お前等が抵抗せぬとは限らんだろ。どう信用しろと?」
|
・・・
|
「決してっ!決して破壊なされますな!決して、荒らされますな!深奥へは行かれますな!!約束ですぞっ!約束を守られよ、さすれば我が魂を神の御許へ!」
男は舌を噛み切り、神具を胸に突き立て、絶命した。
|
ジョルジュ
|
「…静かなる殉教か…いにしえの教えに縛られるとは、何とも愚か。だが、見事」
|
◇ホークアイ
|
「どうなさいますか殿?神殿の完全制圧に臨みまするか?」
|
ジョルジュ
|
「否、大神官が居らぬ以上、人質とする者がいなくなった。急ぎ城に向かい、その制圧と政府要人の拘束に向かう」
|
M L
|
神殿から出たジョルジュ一行は、抜き身の凶器を手にしたままグライアス城へと向かった。慌てふためく市民を尻目に、城に訪れた一行は警固に当たる衛兵を打ち倒し、城内に躍り入る。
城内警備に当たる衛兵達は、ジョルジュ一行の敵にはなり得なかった。抵抗むなしく、半ば一方的に薙ぎ払われ、奥へと突き進んだ。
謁見の間に入った一行を待ち受けたのは、親衛隊と思われる立派な装備を纏う数十名の護衛達と玉座に座する老齢の男性。玉座にある男は軍装を纏い、聊かの衰えもない鋭い眼光を侵入者等に注ぐ。 |
ジョルジュ
|
「貴公がバッセル3世か?…否、違うな。何者だ?」
|
◇・・・
|
「…まさか、本当にこの栄光あるグライアスを陥れようとする者が現れるとは。人に名を問うのであれば、先ずは其処許の素性を詳らかにせよ!」
|
ジョルジュ
|
「礼を欠くは元より承知。我こそはライジング・サンことジョルジュ・アルマージョ・ダイアモントーヤ。この大グライアスの新たな統治者に成らんとす者」
|
◇ランガラ
|
「何と畏れ多い言を!私は八柱将軍筆頭バセウ・ランガラ。グライアスの守護職を預かる者」
|
ジョルジュ
|
「貴公がランガラ将軍か。抵抗は止めよ。大人しくバッセル3世とレンゼルフの身柄を引き渡して貰おうか?」
|
◇ランガラ
|
「既に陛下も宰相も此処にはおらん。このグライアス城に迄、侵略者が訪れるとは夢にも思わなんだ。万が一、と其処許と同じ帝国の情報に助けられるとは、このランガラ、一生の不覚!」
|
ジョルジュ
|
「…先手を打たれたか。外務省か?何れにせよ、何等抗う事なく故郷と民を捨て去り、保身に走り逃げ仰せるとは、為政者の風上にも置けぬ!蒙昧なる主君を持った己の境遇を呪うが良い!」
|
◇ランガラ
|
「ほざけ若僧っ!己が野心を満たすが為に、この平和なグライアスを食い物にしようとはっ!!許せぬッ!!!」
|
ジョルジュ
|
「野心?平和だとっ?凝り固まった老い耄れの頭では俺の考え等分からぬだろう?過ぎ去りし過去となりさばらえる王朝と共に心中せよ」
|
◇ランガラ
|
「其方の野望は此処で打ち砕くっ!ゴライアァァァーーーッスゥッ!!!!」
|
M L
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ランガラの座す玉座の後ろから何者かが現れる。そびえ立つその巨体は巨人宛ら。ゴライアスと呼ばれるその巨躯の持ち主は10フィートを超す。所々、金属片で覆われた鎧を纏い、身の毛もよだつ程厚重ねの巨剣を握る。最早、怪物。
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◇ランガラ
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「グライアス王国最強の大戦士に与えられる称号“ゴライアス”を名乗れし者。王室を守る最後の勇者よっ!忌まわしい侵略者共を蹴散らすのだーッ!!!」
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M L
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獣の咆哮にも似た唸り声を上げ、大戦士ゴライアスが跳ねる。驚異の身体能力。玉座を飛び越え、一跳びでジョルジュの前に着地。圧倒される程の殺意。
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ジョルジュ
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「ウルハーゲンッ!!!!!」
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M L
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ゴライアスの巨剣が唸りを上げる。天高く掲げられた剣に渾身の力が込められ、ジョルジュに牙を剥く。
漆黒の鎧が動く。切っ先の無い馬上槍を扱き上げる。緩やかな体捌きから繰り出す突きは影さえ残さぬ早さ。
ドウッッッ!血霧が舞い上がる。強烈な衝撃が部屋を突き抜け、周囲の目線が一点に注がれる。巨躯のゴライアスの、その広い土手っ腹に、目を疑う程の巨大な穴がこぼつ。
ゴライアスの胴にこぼつ穴を通し、ランガラとジョルジュの視線が交錯する。僅かにランガラの表情が色褪せる。
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◇ランガラ
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「…グライアスの意地を見せるのだーッ!皆の者、侵略者を生かして返すなーっ!!」
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ジョルジュ
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「………殺れ」
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M L
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勝負にならなかった。数で勝る王国親衛隊は、ジョルジュの親衛隊に悉く打ち倒され、斬り刻まれた。
自ら剣を取り、ジョルジュに挑み掛かろうとするランガラ。しかし、ジョルジュは間合いの外から弦も矢もない天弓を握り、老将に射掛ける。光の集束が幾重にもランガラの体躯を射抜き、やがて満身創痍の老将は膝を落とす。
ギラつく眼光だけをジョルジュに投げ掛け、血の塊を吐き出すは老将ランガラ。
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ジョルジュ
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「…ランガラ。最後に問う。俺に仕えよ」
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◇ランガラ
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「…このランガラッ!主は只一人っ!国王陛下万歳っ!!グライアス王国万歳っ!!!」
最後の力を振り絞って、自らの剣で首を刎ねた。壮絶なる老将の最後であった。
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ジョルジュ
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「…この国の王にもこの気概があれば、俺如きにむざむざと奪われなんだものを…
今日中に城を制圧せよ。要人がおれば殺さず連れて来い。制圧後に旗を掲揚せよ!今夜こそぉー、グライアスをッ、落としてみせぇーるぅッ!!」
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M L
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グライアス城の制圧には半日と掛からなかった。ランガラ将軍の訃報は直ぐに町中に広まり、抵抗する者達の意気を削いだ。僅かに抵抗を続けた衛兵達の悉くは、瞬く間に伐たれ、多くの衛兵達は恭順の意を示した。
衛兵達の抵抗が少なく済んだのには、捕らえられた八柱将軍の意向が大きかった。
ジョルジュに引き合わされた八柱将軍の一人、ガゼッタ・バロウズは未だ若い女将軍であった。
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ジョルジュ
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「俺に従うか、バロウズ?云っておくが俺は条件等飲まぬ」
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◇ガゼッタ
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「飲んで貰うわ!そうでなければ、私達は抵抗します」
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ジョルジュ
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「ならば今死ね。禍根を残す程甘くはない。俺はグライアスの民を求めているのではない。土地を求めるのみ。お前達を根絶やしにした後、俺の民を移住させれば良い。分かるか?お前等の意志等無用」
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◇ガゼッタ
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「…そんな事はさせない。絶対にっ!」
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ジョルジュ
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「なら、今俺を殺せ。言葉ではなく、態度で。お前達の王は国と民と法を捨て逃げた。俺はそれを拾いに来たのではない。奪いに来たのだ。国を奪い、法を齎しに来た。民に興味はない。従えば生かし、逆らえば殺す。それだけだ」
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◇ガゼッタ
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「帝国の、帝国の法等聞かない!何があっても絶対にっ!」
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ジョルジュ
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「帝国の法等関係ない。俺の法を以て国を統治するグライアス新王朝の建国だ」
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◇ガゼッタ
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「!?帝国に属せ、と云うのではないの?何故?」
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ジョルジュ
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「グライアス現王朝に帝国から国を守る力はない。俺であれば帝国から守る術を知る。神殿はそのまま信仰の対象として残し、町も城も地名さえもそのまま残す。変えるのは体制のみ。尤も、お前達が刃向かうのであれば、民も変わるがな」
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◇ガゼッタ
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「その言葉に偽りはないのですね?」
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ジョルジュ
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「俺は既に支配者だ。その支配者が何故、敗者に嘘を付かねばならぬ?お前達の顔色等窺う必要等微塵もない。只、国を富ませ、豊かにする。お前達の顔色同様、帝国の顔色も窺わん。グライアスはグライアスのまま、俺の下で飛躍する」
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◇ガゼッタ
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「…もし、その言葉に偽りがあれば、私は全力で抵抗します」
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ジョルジュ
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「好きにしろ。だが、俺の言葉は絶対!今以上の繁栄を齎す我が意志を砕く事等、何人であっても出来はせぬ。俺に仕えよ、バロウズ。気に食わねば意見しろ」
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M L
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スターレス88の活躍によって街道の城門は開け放たれた。
ガローハン率いる太陽の旅団がグライアスに入り、グライアスの軍と小競り合いがあった。バロウズがジョルジュに従った事で大半の軍も抵抗を止めていたが、麓近くの軍には伝令が遅れた為であった。
軍の規模と戦歴で遙かに勝るガローハンは、八柱将軍デラタスを討ち滅ぼし、その勢いのままグライアス盆地に入ったのであった。
ラナンシーに入った太陽の旅団と合流を果たしたジョルジュは、山狩りを命じた。太陽の旅団が街道に陣取っていた為、帝国外務省の手引きで逃れたと思われる政府要人や神官達は険しい山道を用いたと想像される。実際に捕らえる事が出来なくても、捜索に着手していると云う事実が重要であった。
ジョルジュは暫く、ラナンシーに残る事とした。諸事様々な事があるに加えて、パルムサス伯の動向やグライアス王国の新体制の発表とを処理するつもりであった。
意識を取り戻したジナモンは、洞窟の中にいた。日差しが辛うじて入り込まない程度に浅い洞窟には、僅かだが生活感が感じられた。外傷はない。只の一撃でのされてしまったのだ。
それにしても、何と強い男であったろうか。否、気配が読めなかった。感覚的な闘いに慣れ過ぎていたのかも知れない。相手に付き合う事で何も出来ずにやられてしまった。スライスランと云う男との闘いを振り返っていた。
洞窟に老人が入って来た。微笑みを携えた老人は薪を持ち、静かにジナモンに近付く。視線は向けない。何となく匂いを嗅ぐかの様に顔を傾ける。
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ジナモン
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「?あンた、誰だ?助けてくれたのか?」
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◇ワインデート
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「儂はワインデートと云うしがない爺じゃ。しかし、相当無鉄砲な御仁の様じゃな。もう少し相手を探る事も必要ではないかな?尤も、その無鉄砲さをスライスランは気に入った様じゃがな」
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ジナモン
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「!?あの男を知っているのか?何者なのだ、あいつはッ?」
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◇ワインデート
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「ライゾーと云う貴族に仕える者じゃろう。それ以上でも、それ以下でもあるまいて。此方は剣客かな?相手を肌で知る方策が必要じゃな」
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ジナモン
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「へっ?何云ってンだ爺さン?次ヤり合えば負けないサッ!一刀のもとに斬り捨ててヤるよっ!」
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◇ワインデート
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「頼もしい限りじゃな。期待しておる。じゃが、良う人を“観る”事も忘れんように気を付けるのじゃ。誰がどの様な者であるかを瞬時に見極める事こそ肝要じゃぞ」
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ジナモン
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「小難し〜話は分かンねーけど、そ〜してみるサッ。ンで、爺さン、此処何処よ?」
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◇ワインデート
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「…東方とも北方とも付かぬ辺境じゃ。北方では何かと騒がしい事が起こっておる様じゃ。此方は北方に戻るのが良いじゃろう」
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ジナモン
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「?あ〜、確かになっ!流石に未だ、ライゾーを伐つのはキビし〜しな。よっしゃ、爺さン、世話になったな。又、どっかで会おう。さらばだ」
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M L
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パルムサス伯の恐ろしい軍勢が転進した。帝国軍部では驚きを隠せなかった。パルムサスが軍を率い、それでいて何処も誰も襲わず、暴れる事さえもなく、只、行軍して自分の領土に引き返すとは。考え難い事実。
何かあるのでは、と帝国は遠巻きに偵察兵を付け、パルムサスの軍を追跡した。しかし、軍部の予想に反してパルムサスは柄にもなく、淡々と行軍し、自領に舞い戻ったのであった。
パルムサスが引き返した事を知ったジョルジュは、グライアスの統治機構を発表した。だが、対外的な新体制の発表は未だ留めていた。ジョルジュには、どうしてもやっておく事があったのだ。カノンを呼ぶと、その術で再びパルムサス領へと向かったのであった。
再び訪れたパルムサス伯爵領。グライアスより標高は遙かに低いものの、此処の方が気温が低い。大凡、人が生活するのには向いていない。
前回同様、城の扉は開け放たれたまま。如何なる来訪者にも戸口は開かれている。だがしかし、近寄りがたい。
二度目だと云うのに聊かも緊張感は弛まない。それ程の威圧感が、城全体から醸し出されている。ジョルジュとカノンは、息を潜める様に奥へ進み、恐怖の城主の前へと歩み行った。
以前と同じく、眠っているかの様に玉座に着くパルムサス。これ程、寒いにも関わらず、息は白くない。呼吸等端からしていないかの様。
ジョルジュは一歩踏み出し、パルムサスに語り掛ける。
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ジョルジュ
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「パルムサス伯、俺だ。ジョルジュ・ダイアモントーヤだ」
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◇パルムサス
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固く閉ざした瞳を見開く。地鳴りを轟かせる程の苛烈な眼光。
「見事であった。あれ程の短い時間で、よくあのグライアスを落とせたものだ。予にも真似出来ぬ事。見事だ。うぬの勝ちだ」
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ジョルジュ
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「…真摯な態度だな。で、覚えておられるか?」
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◇パルムサス
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「うむ、覚えておる。何を望むか、何なりと申せ」
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ジョルジュ
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「貴方の“名跡”を頂戴したい」
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◇パルムサス
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「名跡、だと?具体的に何を意味する?」
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ジョルジュ
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「俺を養子とし、家名を継がせる約定を結ぶ。応えられるか?」
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◇パルムサス
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「…やはり、うぬは変わった人間だな。予に恐怖しない処か、この予と縁を、父子に成りたいとはな。定命のうぬが、どのようにして予の後を継ぐかは分からぬが、面白い。良いだろう。父子の契りを交わそう」
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ジョルジュ
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「フッ、ではこれで俺はパルムサス2世となった訳だな。パルムサスの養子だ」
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◇パルムサス
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「名跡、を継ぐのであれば家名も知らねばならんだろう」
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ジョルジュ
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「!?何ッ?家名だと!?パルムサスは名か?」
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◇パルムサス
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「うぬは良い魂を持っておる!予の家名(*14)を名乗って良いッ」
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M L
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一瞬、時が止まったかの様。ポジネガ反転したかの様な白黒の世界がよぎる。
「プロメシュゥム!」
ジョルジュの耳は、否、魂は、その音をはっきりと聞き分けた。
「プロメシュゥム?初めて聞く名、否、発音だ。なぁ、カノン?」
天然色、可視光の為す自然の色合いを背景は取り戻す。
カノンは怪訝とも、驚愕ともつかぬ表情を浮かべている。パルムサスの家名を、その言葉を、全く聞き取れていない様子であった。そもそも、その遣り取りさえ分からぬ有様であった。
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◇パルムサス
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「実に!実に有意義な時を与えて貰ったものだ。数えきれぬ程の年月を、数えきれぬ程の人間と出会うたが、うぬ程興味深い人間に出会うたは初めてだ!うぬの持つ宿命と予の持つ宿命とが、今後如何な運命をうぬに授けるのか。否、これも又、定められた宿命か。予にさえ計り知れぬ運命。良い子を持った。これから楽しみだ!」
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ジョルジュ
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「………ああ、楽しみだ、な」
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M L
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パルムサスの居城を後にした二人は、バラックの建ち並ぶ荒れ果てた町並を歩む。深く考え込むジョルジュと憔悴しきったカノン。人影の見えなくなった丘陵地帯でカノンが焦れたかの様に口を開く。
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◇カノン
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「ジョルジュ様ッ!何と、何と恐ろしい事をっ!あの様なものと親子の契りを交わすとはッ!!尋常では御座いませぬっ!」
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ジョルジュ
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「…分からん、俺にも分からんのだ。何故か、パルムサスを前にして恐怖を感じぬのだ。恐怖に疎い訳じゃない。お前を初めて見た時は竦み上がったものだ。以前、パルムサスと会った時には、想像を絶するが故、遅れて恐怖した。しかし、しかし今の俺には、親しみにも似た感覚を覚えている」
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◇カノン
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「!?なっ、何と云う事をっ!駄目ですぞ!あのような輩に心を許してはなりませぬ。あれは人間では御座いませぬっ!魔神、否、化け物なのですぞッ!!」
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ジョルジュ
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「…分かっておる。そもそも、此処迄は俺のシナリオ通りだ。パルムサスの名跡を得る事は、俺の策の一つに過ぎん。これからだ。これからが正念場。これからジョルジーノに舞い戻り、新たな策を練る。帝国の、熾烈な態度に臨む為にッ!」
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M L
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帝都ライムハイム。フォルケによって捕らえられたラシュディールとアルベルトの両者は、法術庁に引き渡された。引き渡しを終えたフォルケは、そそくさと去り、アルベルトはラシュディールと共に法術士達の監視下に置かれた。
暫くすると、下級官吏が伝言を法術庁に伝えに来た。ラシュディールは宰相府に移送され、何故かアルベルトは内務省へと連れて行かれた。
宰相府に連れて行かれない事を不満に思いつつ、広い内務省を歩まされる。いつの間にか、監視が法術士から内務省局員に移っている。統合保安局員による監視。これから考えるに、それ程待遇は悪いものではない。否、そもそも非等ない。公的な手続きを踏みさえすれば元通り。早く宰相と話を、そう考えているアルベルトであったが、連れて行かれた場所を見て驚く。
内務省長官の執務室。何故、統合情報局ではなく、長官の執務室に。この疑問が脳裏から離れない。アルベルトは脳をフル回転させ、状況把握に努めた。しかし、刳り貫かれた左目の激痛が、彼のいつもの怜悧さを邪魔する。
長官の執務室に通されたアルベルトは目を見張る。何と趣味の悪い部屋であろうか。紫に染められた豹柄の絨毯が敷かれ、執務机から椅子迄同じ豹柄のシーツが掛かっている。ド派手なだけの衣装が数十着も掛けられたクローゼットには、道化師が履く様な靴が無数に散乱する。奇抜な下着らしきものが転がり、噎せ返る程臭うコロンは一体、何種類の香りが混ざり合って生み出しているのか。正に悪臭。奇妙な形をしたオブジェが処狭しと部屋を覆う。どれもこれも毒々しい色合い。目がチカチカする。壁一面に飾られた仮面舞踏会に用いるマスケラは珍妙。端に立て掛けられた肖像画には、怪人、と呼ぶに相応しい人物が、これまた不気味な色合いの抽象画で描かれている。巨大なオルゴールからは苛つかせるに足る音の外れた、全くメロディーのないけったいな旋律がけたたましく軽快に鳴り響く。珍奇、全てにおいて珍奇。
「御苦労さん、彼を置いて持ち場に帰り給え」
紫色のシルクのカーテンの奥から低い声が聞こえる。保安局員は、カーテンの方に頭を下げるとそそくさと退出した。
「ちょっと待っててくれ給えよ、ベイダー君。そこいらに座っててくれ給え」
声は良い。声量あるバスが執務室に響く。尤も、オルゴールの奏でる奇っ怪な音楽が全てを台無しにしているが。
座り心地の兎に角悪いソファーに腰掛けて待っていると、勢い良くカーテンを引き、長官が姿を現した。
アルベルトは吐き気を催した。理路整然と物を考えるアルベルトには理解し難い姿。7フィートはゆうにあるその巨躯を艶めかしい光沢あるタイツスーツで装う。パンプアップされた筋肉が、必要以上に締め付けられたタイツから浮き出し、見るも無惨な造形美を誘う。無駄に大きな飾り襟を立て、禍々しささえ漂う色味のマントを羽織る。奇天烈な仮面を着け、ノースリーブから伸びた丸太の様に太い両腕を左右に広げ、腰を激しく前後に振りながら近付いて来る。無駄毛の処理が一層気持ち悪い。彼こそ、帝国において随一とも云われる巨大な官庁、帝国内務省長官“混沌法”と渾名されるオメガゼットである。
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◇オメガゼット
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「オッケぇ〜ぃ、元気でしたかベイダー君、フォ〜ッ!僻地から戻って来た君を歓迎するのに、どのマスケラで出迎えれば良いか正直迷ってしまい、時間を取らせましたネ〜、フォ〜ッ!」
両手を後頭部に添え、腰をクネらせる。
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アルベルト
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「…その様な事より長官。何故、宰相府ではなく、こちらに呼ばれたのですか?端的に御説明下さりますかな?」
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◇オメガゼット
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「宰相閣下は誠に以てお忙しいのだよベイダー君、フォ〜ッ!そこで君の処遇について、この私が担当する事になったのだよっ、フォ〜ッ!」
腰をクネらせ、前後に振る。
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アルベルト
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「!?私の処遇ですと!私は聊かのミスも犯してはおりません。宰相閣下がお忙しいのであれば、政務監査役(*15)にお話させて下さい!」
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◇オメガゼット
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「のぁ〜んですか〜ベイダー君、フォ〜ッ!私よりもヒュトララさンの方ぐぁ〜、良いとでも云いたいのですくぁ〜、フォ〜ッ!」
腰をクネらせ、激しく前後に振る。
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アルベルト
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「その様な事は云っておりません!私は政務監査局所属の身。ですから、その弁明と処遇については政務監査役にその役がお有りの筈」
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◇オメガゼット
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「のぁ〜にを云っておるのですくぁ〜ベイダー君、フォ〜ッ!君はぁ〜、統合情報局所属でしょ〜、フォ〜ッ!」
腰をクネらせ、更に激しく前後に振る。
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アルベルト
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(!!?は、謀られた!?俺の経歴が改竄されたっ!!クソッ!)
「…弁護士を立てる事は出来ないのですか…」
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◇オメガゼット
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「賢い君が云うよ〜な科白じゃないですよベイダー君、フォ〜ッ!君は特殊任務に就いていた訳で、公的には存在しない仕事なのですよぉ〜、フォ〜ッ!公的に無い任務での失態の申し開きうぉゥ、公的に裁く事等出来ないでしょ〜、フォ〜ッ!」
腰をクネらせ、より激しく上下前後に振る。
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アルベルト
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(………切り捨てられたか…)
「…私をどうなさるおつもりですか、長官?」
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◇オメガゼット
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「そ〜ンなに気を落とすものじゃ〜ないでよベイダー君、フォ〜ッ!禁錮刑40年、なぁ〜に安心なさぁ〜い、フォ〜ッ!君は優秀な人物、2、3年後には特務に復帰できますよォーッ、オッケぇ〜ぃ、フォーッッッ!!!」
腰をクネらせ、より激しく情熱的に上下前後へ振り乱れる。
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アルベルト
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「………分かりました…謹んでお受け致します………」
残った右目のくすんだグレーの瞳に、冷たく静かな憎悪の炎を灯したのであった。
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M L
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太陽城に舞い戻ったライジング・サンを歓喜の渦が包む。しかし、パルムサスと交わされた内容を聞いた重鎮達は一様に顔を顰めた。誰も想像し得なかった前代未聞の事実に、怒りよりも半ば呆れ果てていた。兎も角、重鎮達はライジング・サンに話を聞こう、と執務室に雪崩れ込んだ。
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◇ハイドライト
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「ど、どう云う事ですかーッ!パルムサスの養子とは、一体何なのですかァーっ!!納得行くよう、説明して下さいっ!」
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ジョルジュ
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「パルムサスは、帝国法唯一の例外、と云っても過言ではない。俺がその名跡を継ぐ身であれば、俺も法の適用外となろう、違うか?」
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◇ハイドライト
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「何を馬鹿な事を云っておられるのですかーッ!パルムサスは、その力故に対象外とされているだけですぞッ!閣下が名を継いだ処で程の良い征伐の名目を与えた様なもの!その様な詭弁が罷り通る程、帝国は甘くないですぞーッ!!!」
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◇メルトラン
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「その通りです。今回ばかりは無理です。最悪、反逆罪として討伐され兼ねません」
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ジョルジュ
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「悲観するな。グライアスを攻略した実績とパルムサスの名跡、この二つを以て陛下の御判断を仰ぐ。才覚を取るか、法を取るか、二つに一つ!」
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◇ロンタリオ
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「ふむ、ともすれば儂等は御判断が下される迄にやる事があるじゃろうて。今は陛下の御意志より閣下の御意志こそ重要じゃ」
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ジョルジォ
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「先ず、俺は名を変える。ジョルジォ・ヴァンクール・パルムサス2世と名乗る。あざなは“スーパー・ワン(神位)”。超越者の意。昇陽教は、より広義な哲学として昇華させ【黄金の理念】へと生まれ変わる。俺の地位は、帝国公爵にしてグライアス王。“皇帝第一の臣”を座右に添え、帝国法の破綻を追求公言し、これを改訂せぬ限り“帝国凋落”を予言するものとす。我が理想は、帝国法の見直しと現体制の変革。領州辺境の改訂と兵力配置の見直し、官庁の在り方と意義の編纂、ひいては帝国臣民の意識改革。現行文武官庁には従わず、必要とあらば軍事力を以て対抗す。されど反逆の意志等微塵も無し。ひたすらに皇帝陛下の御為と発す」
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◇シャメルミナ
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「ち、ちょっとちょっと〜!大丈夫なの〜?それって、帝国全土を敵にしちゃう内容だよ〜!すっごい、危ないンですけど〜?」
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ジョルジォ
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「これぐらい強硬な意見を述べんと、この辺境に誰も目を向けんだろう?これならば、否応無しに俺に注目せざるを得ない」
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ゼファ
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「何と云う凄まじい気概!本気で申しておられるのですね?」
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ジョルジォ
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「当然だ!近いうちに帝国法の問題箇所と矛盾点を指摘した書類をまとめる。その後、改訂法を作成する。貴殿もそれを見て考えるが良い」
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◇ロンタリオ
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「カッカッカッ、楽しみじゃの〜!これから、益々忙しくなるの〜。腕が鳴るわい」
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ジョルジォ
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「先の文言を書に認め、檄文として発せよ!必ずや帝国は変わる。これが引き金となる!俺が変えてみせる!!!」
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M L
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蜘蛛の巣領に戻ったヨッヘンバッハは苛ついた様子であった。所領問題が上手くいかなかった事もあるが、ライジング・サンとの資産格差に酷く怒っていた。自分の小さな町を見て、一層怒りが込み上げて来た。
蜘蛛の巣城に入ったヨッヘンバッハは、直ぐにイシュタルとクーパーを呼び寄せ、怒鳴り散らした。
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ゲオルグ
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「こら〜っ!お前ら〜ッ!ま〜ったく、何をヤッておるのだァ〜っ!!ライジング・サンのトコに行ってみて分かったが、あっちは凄く町が栄えておったゾーッ!兵も沢山おるし、城も馬鹿デカい!同じ公爵だと云うのに、何故にこれ程違うのだァーッ!!これもそち等の仕事振りが怠慢だからじゃないのかーッ!」
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◇イシュタル
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「!?お待ち下さい、ゲオルグ様。我々は依然、人手不足に悩まされております。昨年の町への被害から未だ立ち直っておりませんし、様々な問題を抱えております。努力が足りないとおっしゃられるでありましたら、より一層努力致します。ですが、現状ではこれが精一杯なのです」
|
◇クーパー
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「閣下、それ処ではありません!そのライジング・サンがグライアス王国を攻略しようとしておるそうです。もし、彼の者がその様な大それた真似をしでかしたら大変な事になります」
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ゲオルグ
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「?グライアス?何だそれは?知らんぞ?」
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◇クーパー
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「!!?…グライアス王国を御存知ではありませぬか?」
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ゲオルグ
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「そンなもンは知ら〜ン!!イシュタルッ!人手が足らンのであれば、雇えば良いだろ〜がッ!どーして、そンな事にも気付かンのだぁーッ!!!」
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◇イシュタル
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「!?し、しかし、許可なく重要な役を担わせる者を雇い入れる等とは…」
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ゲオルグ
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「ええ〜い!そンなもン、許可するからサッサと近隣に触れを出すのだァーッ!金はあるンだから、バンバン雇え〜い!!!俺は長旅で疲れたから休む故、しっかりヤッておくのだゾ〜ッ!」
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M L
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ヨッヘンバッハが寝室に行った後、クーパーは自室へと戻った。ヨッヘンバッハに付き従って出掛けていたドンファンは、その任務を果たす為にクーパーの部屋を訪れた。
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ドンファン
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「クフフッ、しかし、クーパーさンよ〜。大変だな〜、あンたも。あンたの読み通り、外交は失敗に終わったゼッ!ラウの野郎もどうしようもネェ〜しな〜。俺はライジング・サンに怨みがあっけど、贔屓目無しで向こうのが上だな。大丈夫か〜?」
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◇クーパー
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「長旅の末、外交が失敗したとあれば、閣下がお怒りになるのも当然でしょう。致し方ありますまい。しかし、閣下に外務次官の役を与えたのは、ライジング・サンとの外交の為ではありません。グライアス王国との独自交易ルートを確保する為の布石。北部で唯一隣接する外国との交易ルートを確保さえすれば、資金は回る。今の様なジリ貧状態を脱却さえすれば、閣下も自信を持たれる事だろう」
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ドンファン
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「クフフッ、ま〜、そ〜だろ〜な〜。貴族なンちゅ〜もンは、金さえ手に入れば勢いづく生きもンだからなァ〜?ま〜、額面の規模こそ違うが、俺らチンピラと大差ネェ〜わなァ〜?まっ、儲かったら俺の給料も上げてくれよっ!上手くイクのを楽しみにしてっからよォ〜?クククッ」
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M L
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時代が動いた。確実に歴史に刻まれる、その事件は未だ人々の耳に届いてはいない。果たして、多くの者達にこの事実が知れたら、それはどのような結果を齎すのであろうか?
人々の意識は千差万別。各々の思惑は考え方も、その方向性も、規模も、理想も、何もかも違う。だが、時代は流れる。人の意志等無関係に、時に無慈悲に、時に優しく、緩やかに確実に。引き金が引かれた今、発射の暦を待つのみ。それが、何時、何処で、誰の手によって為されるのか。今は未だ夢の中… …続く
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