〜 Hero (King of Kings)
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 人生の達人 

キャンペーン・リプレイ 〜 帝国篇 〜
地獄の黙示録


 帝国暦342年春、帝国全土に驚愕のニュースが乱れ飛ぶ。
 『
グライアス王国陥落!新任の北方辺境軍団長アルマージョ公の独断による侵略!!
 衝撃の事件。帝国史上、いまだかつてない未承諾の個人による外征。あってはならない事実。
 考え難いこの事件に、多くの有力者や有識者等は隠匿された“
秘密の任務”が宰相よりアルマージョ公に下されたのでは、と疑った程。しかし、そうではない事を知るはめとなる。
 『
帝国公爵にしてグライアス王に即位。パルムサス伯の名跡を継ぎ、皇帝第一の臣を自称。帝国凋落を予言し、帝国大法と現体制を痛烈に批判
 西部から緊急招集されたドーベルム元帥は、元帥府の武器庫を開ける様、宰相に要請した。同じく北部への牽制としてブラッカン元帥も派遣される事となってはいたが、部隊編成に元帥府の直属部隊を率いる事から多少なりの時間が必要であった。一方、ドーベルムは子飼いの“
狂犬連隊”を持つ事から元帥府に部隊編成を要請せず、武器庫の開放を以て直ぐに北へ発った。
 昨年の『
グラナダの乱』の様な整然さはない。軍部のこの速やかな対応が、如何に今回の事件が異常であるかを物語っていた。



 蜘蛛の巣城では、恐らく領土を得て初めてヨッヘンバッハが積極的に指示を出した。
 
ジョルジォと名を変え、異名さえもスーパー・ワンと改めた軍団長への対抗心から兵力増強を目指し、イシュタルに知人の軍経験者を呼び寄せる様、命じた。同様に近隣に触れを出し、広く人材を募集した。
 ノルナディーンから人材派遣会社“
山海の珍味”の話を聞いたヨッヘンバッハは、人材登用にこれを頼る事にした。
 ヨッヘンバッハは国庫を開き、財力にものを云わして人材登用に躍起になっていた。しかし、彼の金銭感覚は一般のそれとは遙かに懸け離れたものであり、これが再び自身の首を絞める事になる、とは考えもしなかった。



M L

 ジナモンは、再びノエルドに戻っていた。
 仇討ちを仕掛けたものの、ライゾー本人に出くわす事さえ出来なかったのである。アモン宗家での鍛錬がやはり必須、と考えダイモンに会いに来た。
 広大な敷地を持つ宗家の道場。常ならば多くの門弟達の荒稽古を目の当たりにする。しかし、何故か今日は閑散としていた。
 敷地奥に向かい、奥庭に入ると、いつもの縁側にダイモン翁の姿を見る事が出来た。

ジナモン

「ダイモン翁!頼む、俺を鍛え直してくれっ!」

◇ダイモン

「…ぬしか。その面、負けておめおめと帰って来たのか?」

ジナモン

「…ああ。仇に会う事さえ出来なかった。奴等は強い!他にも強者がいる筈。そいつ等全部丸事倒すには、俺の力では未だ未だ足らん」

◇ダイモン

「ふん、下らぬ事を!その様な事、ぬしが仇討ち前に此処へ来た時点で分かっていたであろうがッ!何故、断鎧斬を乞いに来たかを忘れたか?自信がなかったからであろう!ぬしは剣客としても、兵法者としても下の下!」

ジナモン

「…ああ、負けて分かった。俺は甘かった」

◇ダイモン

笑止ッ!事、戦いに敗れ、悔やむ事はあっても学ぶ事等何一つないわッ!それさえ知らず挑むは阿呆の振る舞い。武人の風上にも置けぬ奴!
 …して、誰ぞに敗れた?

ジナモン

「“羅刹”のスライスランと云う男だ…」

◇ダイモン

「…“月光”の若き長か。この戯けがッ!忍風情に敗れるとは、アモンの名を!否、剣に生きる者の名誉を汚すわッ!恥を知れッ!!」

ジナモン

「頼むッ!俺を鍛え直してくれッ!!」

◇ダイモン

「良いじゃろう。一から叩き直してくれるわッ!」

M L

 反逆の都ジョルジーノ(*1)。帝国に仇なす多くの者達にとって、最早精神的とさえ云える程、名の知れた城塞都市。昨年も又、グラナダの残党と称する者達が近年稀に見る規模の大反乱を犯した。帝都から遠く離れた広大な辺境は、帝国中枢から地理的に独立し、尚且つ、大規模な人員を収容出来る程の外壁と自給自足が賄えるこの城塞都市は、帝国に抵抗する者達にとって好都合な地であった。
 尤も、識者達の見解は全く逆である。広大な国土を完全に制御するこの帝国が、この様な謀反の温床に成り易い地を只、放置している訳がない、と口々に語る。だだっ広い辺境に城塞都市を残しておくのは、云わば血抜きの様なものだ、と。反帝国の気運が高まった頃合を見計らって犯罪者達を煽動し、この城塞に集め、半ば強制的に反逆を行わせるのだ、と。或いは、兵士の練度が滞りがちな北方軍団の為の演習、とさえ揶揄する者さえいる。
 兎も角、北の大地では反乱が起き、そして、鎮圧される、を繰り返していた。
 しかし、今回は訳が違う。現役の軍団長による謀反。しかも、一言で謀反と云える程単純ではなかった。自らを官軍とし、帝国法の見直しを迫って来た。過去、帝国への反逆は常に反帝国・打倒帝国の旗頭の下、勃発した。だが、このスーパー・ワンと云う男は、尊皇派・勤皇派を主張しながら現体制を痛烈に批判した。
 あってはならない事態。帝国は常に一つ、唯一無二の存在。帝国対反帝国、この図式以外、あってはならない。帝国同士がぶつかり合う等、万が一にもあってはならない。事態収拾に速やかな行動が取られた。そう、武力による鎮圧。常に正しい判断、の筈だった。今迄での話であれば。

 ジョルジーノには夥しい数の兵士達が集められていた。帝国軍部の集結が容易に予想される今、スーパー・ワンは保てる兵力の全てを集中させる必要があった。
 慌ただしく人の行き交う太陽城では、グライアス攻略以降、初めてスーパー・ワンが作戦会議に出席する事となった。スーパー・ワンは、グライアス侵略以前から帝国軍との大規模戦略を予想し、ソルとプルトラーを中心にその草案を練らせていた。自身はガローハン等と共にグライアスの治安維持と新体制構築に忙しなく動いており、今になって漸く会議に出席出来る様になった。
 状況的に遅過ぎる、と臣下の者達からは苦言を呈されてはいたが、何故かスーパー・ワンの動きは緩慢にさえ見えた。

◇ハイドライト

「一体、どうするおつもりですかーッ!パルムサスの行軍に対応する為、北方州軍団は既に地元で派兵の準備中にあり、帝都から元帥が到着しさえすれば、直ぐにでも我等の地に殺到しますぞっ!だと云うのに、帝国大法の批評論文や改定案の作成、新たな帝国官職の人事案とその配置の制作にかまけておいでとは、何とも愚かッ!!」

ジョルジォ

「ほぅ、流石はクームーニン。政略だけに留まらず、軍略の機微に迄、想いを走らす事が出来ようとは、やはり、お前を臣に持って良かった、と云うものだ」

◇ハイドライト

「な、何を悠長な事をっ!グライアスに“太陽の旅団”の大半を配備したまま、第27軍団は辺境に伏せたまま。何故、全ての兵力を集中なされないのですかっ?やたらに兵力を分散させ、国力を過小評価させてしまえば、交渉の席さえ設ける事は出来ませんぞッ!」

ジョルジォ

「交渉?何の事だ?これから一戦交えるのに、交渉も何も必要在るまい?」

◇ハイドライト

「なればこそ、益々可笑しいではありませんかッ!帝国は10万規模の兵力を投入する、と予想するのが必至!我等は寡兵、故に戦力を整え、先手を打たねばッ」

ジョルジォ

「フフッ、軍略をもその政略の内に取り込む見事さは流石だ。しかし、殊、戦略に迄至ると、どうにも素人臭さが隠せぬ様だな、クームーニン?」

◇ハイドライト

「なっ、何を巫山戯た事をおっしゃるかっ!私は軍籍には在らざる身。閣下のお考えを給わりたい、只、それだけですぞッ!」

ジョルジォ

「まぁ、それを話す為にこの会議を設けた訳だが、何とも急く男だな、クームーニン?良いだろう、理解する様、努めよ!
 先ず、実際に帝国兵が集結する迄は動かぬ。正確には元帥
ブラッカンが北方州軍団と合流した時に我等は動く。戦場は我が領、西部から南部に掛けての荒野。
主力部隊は太陽の旅団と第27軍団を除く、私兵と貴族連合軍とする。当面、その司令官はプルトラーがその任に当たる。総代軍師はソル

◇プルトラー

「待たれよ。残念だが、俺は数万の兵力を率いる自信はない。それにだ、戦場を荒野にするのは間違いだ。ブラッカン元帥が北方四州軍団を率いて野戦を展開されれば、我等に勝目は殆ど無い。それより、北方州に程近いアバロンにおいて、各貴族領に少数部隊を配備し、ゲリラ戦を展開した方が遙かに勝算が高い。第27軍団と太陽の旅団に遊軍的行軍の主任務を下し、北方州内に戦場を移した方が良いだろう」

ジョルジォ

「ジュエルマインやジュベ等が指揮をサポートするから大丈夫だ。主戦場を荒野にするのには訳がある。軍団用に製作した超長距離射撃兵器の数々の効力が最も発揮させられるには平面的な地形である必要がある。又、両軍合わせて20万規模の野戦を展開させ、自軍敵軍共に歴史的な戦である高揚感と危機意識を持たせる効果を望む故だ。
 戦場を我が領内に限るのは、この戦が帝国への反逆や侵略ではない事を意味している。北方州に迄被害を拡大させては、帝国の損害を拡大し過ぎとなる。せめて、人的被害のみに抑え、陛下の仲裁を待つのだ。
 アバロンでのゲリラ戦は成功を見ないであろう。貴族共に各所領で骨を埋めるだけの気概は期待出来ない。寧ろ、各々の貴族部隊が帝国軍に降伏するであろう、事が容易に想像出来る。
 尚、太陽の旅団は俺が直接、指揮を執る。第27軍団は今回の戦には参加させぬ」

◇ソル

「!?第27軍団が不参加とはッ!…どう云う事でしょうか!?」

ジョルジォ

「第27軍団は俺のものではない。帝国からの借り物だ。俺は俺の力しか使わぬ。帝国軍との戦に使う程のものではない」

◇メルトラン

「お待ち下さい!帝国は反乱を許しません。北方州四個軍団以上の兵力を投入して来る可能性は大いにあります。2万にも及ぶ帝国正規軍を使わぬのは、実に惜しゅう御座います」

ジョルジォ

「案ずるな。俺は帝国随一の智将!それにだ、ブラッカンが到着するより早くに訪れるのは
ドーベルムであろう?俺の鬼謀は万里を走り、全てに於いてそれに勝るッ!」

◇ザラライハ

「仮に第27軍団を動かさぬとして、如何に野戦を戦い抜きまするか?僅かでもお聞かせ願いたい、と存じ上げます」

ジョルジォ

「辺境にある我が領において、帝国の虎の子である隠密を放つ事は出来ぬ。
荒野を主戦場とする事で帝国は我等を知る為に多くの斥候を放ち、情報収集に時間と労力を注がざるを得ない。複数の命令系統を持つ帝国軍より、俺一本に集中し、命を下す、我が陣容の方が頑強な上に早い。士気の上でも黄金教(*2)を有する我等の方が、同門対決を余儀なくされる帝国軍より高い。又、将としての俺の指揮能力を彼等は知らぬ上、昨年の“グラナダの乱”で帝国兵達は実戦と演習の区別が付かぬ状況にある。頭で理解してはいても、感覚がそれを覆い尽くす。奴等が本気になる頃には、俺の実力が示されており、奴等に一分の勝機も残されてはおらんだろう

◇ヤーナハラ

「具体的な戦術はありますでしょうか?これ程大規模な戦を経験している者は、敵味方の隔てなく極々僅か。一度、混乱を来せば、戦列は瓦解し、大狂乱に見舞われましょう」

ジョルジォ

「“
太陽の陣”!!!…奴等は、俺の太陽の陣の前に敗れ去るであろう」

M L

 蜘蛛の巣城に来訪者が訪れたのは、冷たい雨の降る初夏の日であった。
 この地においては珍しい長雨に見舞われており、領主ヨッヘンバッハはイラついていた。この処、ヨッヘンバッハはゴッヘを引き連れて、ヤポンの先導で鹿狩りに勤しむのを日課にしていた。貴族趣味を好むヨッヘンバッハは、自分の趣味を邪魔される事を最も嫌っていた。それは例え天候であろうと同じ事であった。恵みの雨であっても天に向かって罵るのが、ヨッヘンバッハ公爵の常であった。
 来訪者は粗末な雨除けを羽織り、城外で待っていた。年よりも遙かに若く見え、精悍な美貌に歴戦の勇者たる鋭い眼光を放つその男の漆黒の瞳には、魂をも射抜く程の冷たさを兼ね備えている。しかし、その冷たさは戦の非情さを知る者の証。酷薄な者のそれとは明らかに違っていた。
 イシュタルは焦っていた、その来訪者を待たす事を。機嫌の悪いヨッヘンバッハの余りにも遅過ぎる身支度にヤキモキしていた。そもそも、アポなしの謁見には応じる素振りを見せないヨッヘンバッハを半ば無理矢理、接見させ様と努力したばかりだ。ここに来て子供染みたヨッヘンバッハの振る舞いにイシュタルも苛つきを覚えてはいたが、それにも況して来訪者への気遣いに心を支配されていた。
 漸く、謁見の間にヨッヘンバッハが付いたのは、来訪者が訪れてから六時間以上も経った夕刻近くの事であった。来訪者はずぶ濡れの羽織をそのままに、謁見の間に足を踏み入れた。

◇イシュタル

「ゲオルグ様、こちらが“
ガリアの牙”の棟梁、イプシアーヌ殿です」

ゲオルグ

「ガリアの牙?…知らんな〜?傭兵団か何かかねイシュタル?ま〜、何でも良いわ!
 …にしてもビショ濡れではないか?部屋が汚れるわっ!風呂でも馳走してやっても良いのじゃがの〜、イシュタル?」

◇イシュタル

 ヨッヘンバッハの耳元に近付き、小声で話す。
「ゲオルグ様、失礼のない様、是非とも宜しくお願い致します」

ゲオルグ

「馬鹿者っ!連絡の一つも寄越さず、挨拶の品の一つも持たず、小汚い恰好でノコノコ現れるとはッ!礼に欠くのは彼奴の方であろう。違うか、イシュタル?」

◇イシュタル

「お戯れ遊ばされますな、ゲオルグ様!どうか、お言葉を慎みなさって下さい」

◇イプシアーヌ

「いや、構わぬイシュタルッ!望まぬは私も一緒。妥協するものではあるまい。帰れ、と云うのであれば喜んで立ち去ろう。イシュタル、お主の顔も立ったであろう?ガリアの牙は求め望まれ、尚、全てには応え得ぬもの。完全なる自由こそが、ガリアのガリアたる所以だ」

ゲオルグ

「何とも横柄な態度かっ!この大ヨッヘンバッハに対して口の聞き方を知らぬとは?傭兵風情が大言壮語ぬかすとは、厚かましいにも程があるッ!」

◇イプシアーヌ

「…イシュタル、仕える主を間違えた様だな。慧眼なくしては身を滅ぼし兼ねん。如何に戦場における機微を見抜くお主であっても、平素の時事にもう少し目を向けるべきだ、イシュタル。如何に優れた名刀であっても、手入れを怠れば錆落ち、使い物にならぬ様になるぞ。そうなれば、死なずとも良い者に迄、死が訪れよう」

ゲオルグ

「何と不吉な事をッ!?今直ぐ、此奴をつまみ出すのだぁ〜ッ!」

◇イプシアーヌ

「…呆れ果てた者だな。人を統べる為の資質に決定的なものが欠落している。二度と会う事は無いだろう。さらばだ」
 イシュタルの制止虚しく、踵を返し、謁見の間を後にした。

ゲオルグ

「胸糞悪いわい!塩でも撒いておけ〜いッ!!あの老い耄れに二度と敷居を跨がせてはならぬのだぞーッ!!」

M L

 その日の夜、クーパーはウー、クーを伴い、蜘蛛の巣城に戻った。
 ここの処、クーパーは精力的に近隣諸侯の下へ出向いては、様々な画策に忙しなく動いていた。スーパー・ワンの驚異的な勢力拡大を懸念し、クーパーは近隣諸侯を取り込む為に、時には賄を渡し、時には暴力的とも取れる圧力を掛け、時には邪な権謀術数を用い、ヨッヘンバッハ公爵の勢力の拡大に努めていたのであった。
 冷たい雨に濡れた体を拭く事もなく執務室に入り、留守にしていた間の事務処理に取り掛かったクーパーの下にドンファンが訪れたのは一時間程経った頃であった。

ドンファン

「クフフッ、しかし、精が出るネ〜、クーパーさンよ〜?あンた、長生き出来ないよ〜?少しは休ンだらどーなンだい?」

◇クーパー

「君の様な者が他人を心配するとは珍しい。何を企んでいるものやら」

ドンファン

「クフフッ、別にな〜ンにも企ンじゃいないゼ?只、あンたに倒れられるとこっちが困るもンでネ。あの短気にゃ〜、人の心を掴む、って事を知らネ〜様だからよ」

◇クーパー

「閣下は支配者として十二分な資質をお持ちの御方だ。余人では到底、真似出来ない、支配者の性分、を極自然に身に付けておられる。後はその性分を現実的にする為の力を纏われれば良い。その力は御自身で纏う必要はなく、それこそ、臣下の者達が尽力し、纏わせて差し上げれば良いのだ。その為の努力であれば、如何なる苦も厭わない。それが臣の臣たる所以、と云うものだ」

ドンファン

「クフフッ、あンた、本当に変わってンな?何であいつにそれだけ尽くせるのか、全く分からンゼッ!」

◇クーパー

「私も熟、変わっている、と自覚しておるのですよ。しかし、それ程に王佐の才を自負しておる訳ですがね。それより、何の用ですかな?そろそろ話してみては?」

ドンファン

クフフッ、ほンとに鋭いネ〜。否、な〜にネ〜、今日、訪問客があった訳よ、公爵さンにサ。イシュタルと旧知の仲にある様だったが、公爵さンときたら、早々に追い出しちまった訳よ

◇クーパー

「イシュタル殿の知り合い?何者ですかね?」

ドンファン

「イプシアーヌ、とか云う戦士風の男だったな〜。若く見えたが、あンたより年上か?妙に落ち着いていやがったからな〜。ガリアの牙、とか云うものの棟梁だとか」

◇クーパー

「!?イプシアーヌだと!!?それは真かっ?」

ドンファン

「アッ?何をそンなに驚いてンだい?知ってンのか?」

◇クーパー

「元“黄昏の七騎士(*3)”。ガチャンガルの前任者とも云うべき、元皇帝親衛隊長にあった剛の者。“義の人”と渾名される人格者、としても知られておる」

ドンファン

「なにッ!?そンなヤツが此処に来た、って〜のか!そー云や、俺が所属してた『殺しの口付け』に、直接的な暗殺行為を控えるべき人物リストにそンな名前があったかも知れネェ〜な??にしても、あいつ、勿体ネェ〜事したな〜?運がいいのか、悪いのか、全く訳が分からね〜な!?」

◇クーパー

「…前にも申したでしょう。閣下の運気は常人のそれを遙かに凌駕する、と。確かに、惜しい事とは云えますが、これから先、閣下の下には更なる大人物が訪れ得る事でしょう。その時、私がお側にあれば、その好機を逃す様な真似は致しますまい」

ドンファン

「運気ね〜?尽きネェ〜事を祈っているゼ、あンたのもなぁ〜?クフフッ」

M L

 覇追得館にあってライゾーは退屈していた。安穏とした生活等、彼には無用。街の発展や国庫の潤い等、一切興味はない。ライゾーにとって、只、ひたすらなる野心のみが心を支配し、その乾きを潤すには闘いが切望されていた。緋の火の実質的な指導者であるアモルシャットが、戦をする為に必要、と説く資金作りや下準備に許可こそ与えてはいるものの、ライゾー本人にとってみれば、戦そのものにさえも魅力を感じてはいない。そう、彼にとって、彼自身が闘いに身を投じていなければ意味がないのである。死、を間近に感じなければ、生、を噛み締める事が出来ないのであった。
 その退屈極まりない春の終わりに、珍しくもゾップハッズがライゾーの下を訪れた。不気味な白い瞳を持つ巨躯の魔道士ゾップハッズを、普段、その感情を知る由もない。しかし、今日の彼は明らかに消沈しているのが目に見て取れた。日頃、他者の心に等、全く興味等持ち合わせていないライゾーであっても分かる程。

◇ゾップハッズ

「…ライゾー殿、今日は実に悲しい知らせを伝えねばなりません」

ライゾー

「何事だ?うぬらしくもないっ!巨躯が小さく見えるぞ、話せッ!」

◇ゾップハッズ

「…祖国アクシズ(*4)より新たな命が下されました。今日の今を持ちまして、ライゾー殿の麾下より外させて頂く事に相成りました。誠に残念至極に御座います」

ライゾー

「なにッ!?国許からの命か?どうにもならんのか?」

◇ゾップハッズ

「…はい。元々、我等“
凶霊”は祖国アクシズの対外諜報と戦魔道の実地実験の為にこの帝国におりますれば、命あらばそれに従うより他御座いません」

ライゾー

「残念だな。うぬ等がおれば、我の覇業も一年は短く出来たものを。だが、仕方あるまい。うぬの忠誠が何れへ向いているか、知らぬ我ではない。許可する!早々に立ち去るが良いッ!」

◇ゾップハッズ

「有難きお言葉、恐悦至極に御座います。誠に残念であります。願わくば、ライゾー殿と戦場でまみえる事のない様、祈りましょう」

ライゾー

「ハァッ!何を傷心な。袂を分かてば戦場で相まみえるが必定。いっそ、敵味方に分かれてみなば、闘えぬが歯痒いわっ!戦場で我を見付けたば、全力で向かって来いッ!我が拳の力、その身で受け止めてみよッ!!」

◇ゾップハッズ

「ははーっ!有難き幸せ。このゾップハッズ、一度、戦場でお見受けした暁には、全力を以て挑ませて頂きます故、お楽しみに遊ばされませ」

ライゾー

「うむ。うぬの武運を祈らせよう。さらばだ、ゾップハッズ」


M L


 太陽城に争乱罪の名目でその老人が連れて来られたのは、汗ばむ程に気温の高い初夏の日の事であった。
 ジョルジーノの広場でその老人は、何とも不吉な賭け事を住民相手に披露していたのだ。その賭けの対象が、帝国対天照州の合戦。在ろう事か、そのオッズは1:100万。黄金教徒と博徒は勿論、天照州に賭ける。噂が噂を呼び、老人の下には莫大な金が集まり始めていた。状況的な判断から事態を重く見たザラライハは、その老人を取り押さえ留置した。始め、スーパー・ワンはオッズの100万倍に対して、「
天照州を過大評価し過ぎ、1億倍ぐらいが打倒だ」と笑い飛ばしていたが、老人が名乗ったとされる通り名を聞くと憮然とした表情を浮かべ、自らが審判する旨を告げた。
 老人がスーパー・ワンの前に連れて来られたのは夜更けの事であった。激務に追われるスーパー・ワンが今日始めて食事を摂ると云うその僅かな時間のみが、老人への審判に与えられた機会であった。

ジョルジォ

「ほう、何と大それた博徒かと想像しておったが、何とも見窄らしい翁だな」

◇・・・

「ひゃ〜、何とも別嬪さンじゃの〜!おー、おー、あンたさンは男じゃったの〜?こりゃ、又、失礼失礼」

ジョルジォ

「なかなか、ユーモアのある翁の様だな。肝の据わった、と云うべきか?尤も、永くはないだろう故の愚挙とでも云うべきかな?」

◇・・・

「アーッシャッシャッシャーッ、こら〜、一本取られたわいっ!別嬪さンに云われると年甲斐もなく照れよるわい。おー、おー、あンたさンは男じゃったの〜?こりゃ、又、失敬失敬」

ジョルジォ

「…何が可笑しい?か細く燃ゆる炎を、今直ぐ吹き消してやっても良いのだぞ?それより何故だ?何故、“
落陽”等と名乗った?私のかつての異名を知らぬ訳ではあるまい?」

◇落陽

「アッシャッシャッシャッ、それが儂の名じゃから仕方あるまいて?あンたさンが生まれるず〜っと前から儂は“落陽”と呼ばれとったンじゃ。それが儂の名じゃ」

ジョルジォ

「…そうか、他意は無いのだな?ならば、名を変えよ。名を変えれば、金は没収するが罪迄は問わん」

◇落陽

「そら〜、どだい無理な話じゃて。儂が名乗りを変えた処で、皆は儂を
“落陽”と呼び続けるじゃろう。そりゃ〜、あンたさン、賽の目を当てるより明らかなこっちゃ」

ジョルジォ

「不憫な奴。通り名の為に死に急ぐとはな。まあ、良い。素性の知れぬ博徒が一人、死んだ処で涙する者一人とておらんだろう。儚く散るが似つかわしかろう」

◇落陽

「…あンたさン、今度の大戦で負けるぞい?

ジョルジォ

「フッ、帝都で聞けば100人が100人、そう云うだろう。今更、呪いの文言とは、ユーモアセンスも失せた様だな?老い耄れの戯れ言として聞き流してやろう」

◇落陽

「…元帥府の武器庫が開放されたンじゃと。元帥ドーベルムは“
竜の火”がお好みじゃろうて?ともすれば、元帥ブラッカンは“雷獄”辺りでも借り受けたかの?」

ジョルジォ

「!!?…あの戦略兵器が投入されると云うのかっ…チッ!だが、何故、貴様がそれを知る?老い耄れ、貴様、何者だッ!」

◇落陽

アッシャッシャッシャッ、只のしがない博打打ちじゃよ
 ポケットをまさぐり、大きめなサイコロを一つ取り出す。そのサイコロには何も彫られてはいない。一見、象牙の立方体にしか見えない。
「運命を占う賽子じゃて。儂が幾度となく振るうても、あンたさンの負けしか出なンだわ。
アッシャッシャッ、御自分で振るうてみますかの?」

◇ヘイルマン

「閣下!差し出がましいとは存じますが、その様な事は…」

ジョルジォ

「非科学的な事に興味はない…だが、この爺は俺を試しておる。俺が、中央における評判通りの男であれば、この様な下らぬダイス等決して振らぬ、そう見込んでいる。だろう?違うか、爺?」

◇落陽

アッシャッシャッ、ご尤もですじゃ…で、振るうてみますかの?」

ジョルジォ

 老人から徐にサイコロを掴み上げる。
「このジョルジォ、運を天に任せる程、愚かではないッ!見ておれッ!!」
 サイコロを高々と放り上げる。周りに居並ぶ者達の視線が一点にサイコロに注がれる。そして、正にその賽が床に落ちるその瞬間。パキィッ!
 鋭くサーベルを抜き打った。真っ二つに砕けたサイコロが散る。
「運命も審判も天が決めるのではない!決めるのはこのジョルジォだッ!!」

M L

「お〜っ!」
 居並ぶ重鎮達がどよめく、見事な采配、と。
 しかし、その砕けたサイコロの行方を見届けていたソルが呻いた。
「うっ!こ、これはッ!?」
 砕かれた面を床にして転がる分断され、二つとなったサイコロの、磨き上げられたその表面に文字が浮かび上がる。一つには、
勝利、もう一つには、敗北、と。

◇落陽

「!!?なっ、何と云う事じゃ!幾度となく振るうて、只の一度とて現れいでンかった“
勝利”の二文字が浮かび上がるとはっ!?しかも、敗北と隣り合わせじゃと…天も、天も迷うておられるのじゃ!」

ジョルジォ

 椅子から立ち上がったジョルジォは、サーベルを振り落ろす。振り落ろした先にある、敗北の二字が浮かび上がったサイコロを粉々に砕いた。
「下らぬッ!賽の目に左右される俺ではないッ!!茶番は終わりだ、正体を現せッ!!!」

◇落陽

「…恐れ入り申した。この“落陽”、軍団長閣下を侮っておりました」
 纏っていたボロ切れを脱ぎ捨てる。小さな体躯であった老人の姿は消え、銀髪を短めに後ろで束ねた均整の取れた青年がそこに立っている。白銀に輝く瞳は怪しく冷たく、もの悲しい。
「御察しの通りです。私の名はバサラ、“
賽子”のバサラ・ダンカン。貴方様を殺しに参った刺客に御座います」

◇ワグナー

「!?し、信じられんッ!?我等の、我等の目をも欺くとは…」

ジョルジォ

「何処の所属だ?」

◇バサラ

極潰し

◇ハイドライト

「極潰しだと!勲爵院の諜報機関が動いていたのか!?一体、何時から?」

ジョルジォ

「殺しに来た、と云う事は、既に調査は終わったか、中断されたか?」

◇バサラ

「中止、です。グライアスを落とされたその時に。そして、私は派遣されました。“
昇陽”を沈める為に。“落陽”はそのコードネームと作戦名」

ジョルジォ

「…で、どうする?」

◇バサラ

「天が迷われた様に私も迷いました。故に、もう貴方様を殺害する事は出来ません」

ジョルジォ

「…任務の失敗は許されぬだろう?況して、素性を明らかにしたとあらば。どうするつもりだ?」

◇バサラ

「この身、貴方様にお委ね致します」

ジョルジォ

「分かった。お前の命、俺が預かる」

M L

 ノエルドのアモン宗家で荒稽古に励む様になって暫くした頃、ジナモンは漫然とした違和感を覚えていた。
 以前、このアモン宗家を訪れた時、実に多くの門弟がいた。しかし、再度此処へ訪れて以来、その門弟達の姿を殆ど見ない。僅かに見掛ける門弟と云えば、青年と呼ぶには早過ぎる年頃の少年と子供達、働き手である僅かの女性給仕ぐらい。
 他人に無関心なジナモンではあったが、流石に気になり、ダイモン翁に訊ねた。だが、修行以外の雑念を持つ事をダイモン翁は酷く嫌い、その日、何十本もの稽古を付けられ、ジナモンはこっぴどく痛め付けられ気絶してしまった。

 ジナモンが気を取り戻したのは、夜更け近くの事であった。荒っぽいが傷の手当てが施されており、丁度、ダイモン翁の居間の隣の部屋に寝かされていた。
 ジナモンが意識を取り戻したのは、回復したからではない。襖の向こう、ダイモン翁の居間から話声が聞こえていたからである。時折、怒声にも似た荒い語気が飛び交う異様な雰囲気に、ジナモンは呼び起こされたのである。
 襖の隙間から洩れる灯りを見て、ジナモンは体を起こす。激痛、と云うより鈍痛が体中を苛む。しこたま打ち据えられた体は悲鳴を上げている。今のジナモンは辛うじて這いずる事が出来る程度。痛みから声を挙げ様にも、喉元に突き入れられていたせいか、極僅かに掠れた音しか出せず、喉が嗄れていた。
 何とか体を捻り、襖の隙間を覗き込む。そこには、上座に座るダイモン翁とその対面に二人の男。驚く事に対面に座る二人の男は鎧を着込んでいる。しかも、それはかなり上等な代物でありながら、至る処に短剣やら仕込みが組み込まれ、錨や角状の突起物、鎖、刃が剥き出しにされている。装飾の類、と云うには余りにも厳つく、云わば、戦場に赴く際の出で立ち、と思われる。
 息を潜め覗くジナモンは、その二人の内、一人の顔を知っていた。

ジナモン

 (!?あれは確か…ナイトハルトデイモンが何故、此処に?)

◇デイモン

「もう良いだろう、祖父よ。これ以上の話し合いは無用。早く渡して貰おうか!」

◇ダイモン

「くどいっ!渡せぬものは渡せぬ!知っておろう。正統伝承者には屠龍刀砕鱗丸”が渡される、がそれは同時に鬼臨璽(きりんじ)を放棄した事を現す。家宝二つを同一人格が保持してはならず、この掟は絶対っ!欲しくば、伝承者を育て、屠龍刀を放棄し、吟味役となれい」

ジナモン

 (鬼臨璽?聞いた事がない??吟味役は伝承者を育てた者がなる訳だから、デイモンの親父さンが他界してる今はダイモン翁の筈?)

◇デイモン

「何を畏れておる、祖父よ。掟等、アモン流創始の頃より数え、最強にして最高の伝承者である、このデイ・アモンの前には無用の長物。そもそも、引退した者が鬼臨璽を持ち続ける事に何の意味があるとぬかす?」

◇ダイモン

「…ぬしは何時からそれ程迄に腐ったのだッ!やはり、其奴のせいか?」
 猛禽類のそれを思わせる鋭い眼光をデイモンの脇に居る男に注ぐ。

◇デイモン

「閣下は、我等アモンがお仕えした全ての軍団長の中で最強にして最高の御方。口の聞き方に気を付けるのだッ!」

ジナモン

 (閣下?あいつ、軍団長なのか??しかし、あの眼…腐ってる!冷たいンじゃない、腐った眼だ!しかも、悪党とか犯罪者とかとは違う腐り方だ!?何だあいつは?)

◇ダイモン

「誑かされおって!我等が何故、代々ノエルドで変わりゆく軍団長の剣術指南をしておるのか、分かっておらんのかっ!我等アモンの剣流は、只の武芸に非ず!!その奥伝は、剣を佩く、その真意と重さとにある。野獣の如き、蛮勇と、小手先の技芸に非ず!!“鬼・剣・体”の合一こそが真意!心に住まう鬼を如何に封ずるか。即ち、心の修練こそが神髄!それを成し、始めて鬼と為れる」

◇デイモン

「下らん!!説教等、聞く耳持たぬ!理屈を幾らほざこうとも、伝承者が俺である事に変わらん。惰弱な精神論等無用!只、野獣の如く強ければ良い」

◇ダイモン

「強さを幾ら纏うても、それは剣流とは云わぬ!数多の猛者がありながら、何故、アモンの剣流が伝承されるかッ!それは、教え説く道を教授するからだ!!故に指南役を仰せ付かるのだッ!それを無視するとはッ、恥を知れッ!!!」

◇デイモン

「戯れ言をっ!万人が学び得る事の出来る剣術如きが、下らぬ思想を帯びて剣流とほざくのであれば、今直ぐにでも滅びた方が良いッ!剣等、所詮は凶器。ならば、狂気を以て振るうが似つかわしい。そして、狂喜するのだッ!!」

◇ダイモン

「下郎ッ!!!堕ちに堕ちて、それ程迄とはっ!表に出よ!!己が鬼を退治してくれるッ!!!」

ジナモン

 (!?な、何ィ〜!?表だと?仕合うのか!何てこった…体が動かン。止めなくては!)

M L

 体に力が入らない。ダイモン翁の稽古は、実戦に近い木剣での打ち合い。基礎体力作りと荒稽古で全身の筋肉は痙攣し、打ち据えられた関節は悲鳴を上げている。体の自由は殆どない。
 居間からダイモン翁とデイモンが表に出る。廊下側の障子を開け、縁側の戸を開け放ち、夜更けの庭に二人降り立つ。閣下、と呼ばれた男は縁側に向かい、そこに腰を下ろし、星々に照らされた二人を見据える。
 ジナモンは横たわったまま、転がる様に障子際迄動く。が、脚にも腕にも力が入らない。僅かに擡げた首を障子に向けると、その隙間から云い知れぬ緊張感を作り上げる二人の対峙する姿が見えた。

ジナモン

 (何て事だ!?死合うつもりか!?伝承者と吟味役の死合…止められないのかッ!)

M L

 ダイモン翁は幅広い鋼の段平を正眼に構える。デイモンは巨大な鉈の様な両手剣を片手に握り、切っ先は地に付けたまま。ダイモン翁の眉間の皺がいつもに増して深く刻まれる。

◇デイモン

「老い耄れが、せめてアモンの名を冠した己の散り際に、屠龍刀で応えてやろう。愚かな歴史を背負い、儚く散れッ!」

ジナモン

 (あ、あれが屠龍刀か!?あんな重心のバランスが悪い剣だったのか?)

M L

 徐にデイモンは屠龍刀を振り上げた。地鳴りを上げんばかりの素早い斬り上げを、しかし、ダイモン翁は最小の横移動で軌道から逃れる。一瞬、踏み込むかの様な力の加減がダイモン翁の軸足に見られたが、間合いを詰める事はしなかった。否、その隙はなかった。

◇デイモン

「ほう、流石に経験が深い。親父とは違う様だな」

◇ダイモン

「死合う最中に軽口を挟むとは修行が足らんッ!」

◇デイモン

「ふんっ、伝承の儀で親父が死んだのは事故等ではない!故意に殺った!!説教を垂れるだけの屑等いらぬわっ!!!」

◇ダイモン

「…知らぬ訳がなかろう。寸止め出来ぬ技量では伝承者にはなれぬ!ぬしの害意を見抜けぬ儂と倅ではないッ!知り得て、敢えて伝承者とした。それだけ、ぬしは強かった。だが、それも終わる。堕ちた刃に光は無い!!」

M L

 ダイモン翁が動く。鋭い素振りを力強く振るい、一直線に前進する。素早くも、豪快でもない。只、間合いの最短距離を、斬ると云うその一点だけに集中した力の入れ様、抜き様。ゆるり、と大胆に斬り下ろしては切っ先でデイモンを補足する。一切の無駄が無い。
 緩やかに、しかし、確実に間合いを詰められたデイモンは屠龍刀を真横に薙ぎ、ダイモン翁の段平と刃鳴りを誘い、その瞬間に一気に跳ね退き、間合いを取った。
 再び、僅かな間合いが二人を画し、えも云えない緊張感が横たわる。

ジナモン

 (何であンなにもたつくンだ?あンなに間合いを置くのは可笑しい!)

M L

 デイモンが屠龍刀の切っ先を地に付けんばかりに引っ提げたまま、利き腕の肘を頭上に持ち上げる。肘を頂点とした円錐の軌道で切っ先を下方にしたまま、反時計回りに自身の脇を一回転させる。肘先がダイモン翁を直線上に捉えた時、空気を斬り裂かんばかりの突きとも斬りとも云えない電光石火の斬撃を繰り出す。
 間合いの距離を無視するかの如き斬撃は、想像を超える伸びをみせてダイモン翁を襲う。ダイモン翁は鳩尾近くで肘を90度に曲げ、段平を上腕と平行に構え、デイモンの斬撃を左に逸らす。斬撃は逸らしたが剣圧が頬と肩を掠め、僅かな血煙を上げる。
 デイモンが踏み込み、下方から斬り上げる。切っ先を交え、ダイモン翁は右脇に跳び退く。デイモンは体毎回転させ、後ろ回しのままに横に薙ぐ。ダイモン翁は早素振りで再び切っ先を交え、後方に跳び退く。
 デイモンが僅かながらに苦笑した。

◇デイモン

「相も変わらず“観る”ばかり。教師に成り下がった剣士とは、斯くもさもしい闘いしか出来ぬものかっ!」

ジナモン

 (デイモンの間合いは尋常じゃなく広い上に雄々しく重く、それに速い!前にダイモン翁が云っていた“後の先”、いつ見れる?)

M L

 デイモンが強く踏み込んだ。しかし、ベタ足ではない、爪先立ち。
「食らえぃッ!
龍撃百裂斬ッ!!!」
 屠龍刀が唸る。無数の突きが繰り出され、その残像が隆起した土壁の如く、ダイモン翁を襲う。
 ダイモン翁は、その無数の残像の一つに突きを合わせる。切っ先が激しくぶつかり、火花を上げ、ダイモン翁は弾かれ遠のく。再び、間合いの外へ退き逃れる。
「ぬ〜ッ!逃げ惑いおって。掛かって来いッ!」

◇ダイモン

「良いだろう。ならば、見せてくれよう!」
 柄から手を放し、懐をまさぐる。懐から握り出されたものは正八角形の板。何かの結晶か。古代の装飾と彫刻が施されている。神秘的な古代文字が刻まれている。

◇デイモン

「鬼臨璽かっ!やはり、肌身離さず、持ち歩いておったか」

◇ダイモン

「見せてくれるわッ!馬手に屠虎、弓手に鬼臨、正伝闘護鬼刃法ッ!!!」
 八角板を段平に擦り合わせ、切っ先に走らせる。直後、揺らぐ炎の如き闘気が刃を包む。

ジナモン

 (!!?なっ、何だアレはっ!?)

M L

 揺らめく闘気を放つ段平を大上段に構え、一気にデイモンに打ち付ける。屠龍刀で受け止めるデイモン。渦巻く爆発的なエネルギー流が辺りを埋め尽くす。一瞬、真昼の様に闇夜を切り裂く。
「これで終わりだ、ナイトハルトッ!」
 突然、禍つ刃が翻る。段平と八角板を握る腕が宙を舞う、血の糸を曳いて。

ジナモン

 (!!!あ、ああっ!?あいつッ!!!)

M L

 縁側に座し、闘いの趨勢を見守っていた、閣下、と呼ばれる男が抜刀していた。二人の鍔迫り合いに割って入り、凶刃を振り下ろしたのだ。
 ダイモン翁の両腕は、肘の先から斬り落とされ、冷たく転がる。蒼白のダイモン翁の瞳が、不意の敵を見据える。
「お、己ぇ〜っ!」
 デイモンの屠龍刀が横に薙ぐ。ダイモン翁の首が夜空に舞い、星の瞬きに眼光を添えた。爆発する様に噴出する血煙を意に介す事もなく、デイモンは持ち主のなくなった左手に握られた八角板を奪い去る。
「お待たせした上、御助力頂き、閣下におかれましては誠に感謝の言葉も見つかりませぬ」
「構わぬ。貴様には役立って貰わねばならぬ。直に始まる大戦は、長く険しい」
 返り血を拭う事もなく、二人の訪問者は立ち去った。

 残されたジナモンは、障子を倒し、這いずってダイモン翁に擦り寄る。未だ、微かに温もりの残る骸に縋り、涙を流す。
 しっかりと握られた段平を丁寧に掴むと、ジナモンは心に誓った。

ジナモン

 (また、仇が増えた。絶対に許さない。デイモンめっ!そして、ノエルド州軍団長、あいつ等まとめてこの屠虎刀で倒してヤるッ!!)

M L

 精力的に蜘蛛の巣領の近隣諸侯を懐柔していたクーパーは、度々、蜘蛛の巣城を留守にしていた。と云っても定期的に戻っては山積みされた事務処理をこなし、多忙な毎日に充足感を得つつも、不満なく仕事に勤しんでいた。
 そのクーパーがガラになく苛つき、ヨッヘンバッハに抵抗したのは、これが恐らく始めての事であったに違いない。

◇クーパー

「確かに人材不足である事は事実でしたが、何故、私に何の相談もなく、雇われてしまうのですか!“山海の珍味”を通せば、その紹介料と賃金は高額、況して、近隣に触れを出すのは結構ですが、護衛ばかりを増やしてどうするおつもりですか!既に私のご紹介した8名では役不足と云う事でしょうか?」

ゲオルグ

「五月蠅い奴だの〜?人手不足であると云うから雇い足してやったのだぞ?しかも、優秀そうな奴を選んだのだから文句はなかろ〜、ン〜?それにそちは度々、城を留守にするではないか?何処をほっつき歩いとるか知らんが、ロクすっぽ働かン奴が偉そ〜な口を叩くでないわっ!」

◇クーパー

「しかしっ、アボロ殿を含めた文官は兎も角、ヤクザ者やら物の怪の専門家、蛇使い等雇ってどうするおつもりなのですか!得体の知れない女魔術師や無資格の教師、考古学者も又、然り!直接、政務に関与しない者ばかりではありませぬか?況して、年間6000枚もの金貨を払うグラム殿の必要性は何処に?ソードマスター(*5)を二人も雇う意味合いもです」

ゲオルグ

「五月蠅いわいっ!強い軍を持つ事は、この大ヨッヘンバッハには必要不可欠な事だろ〜!月600枚の大枚は、ちと高いとも思うが、ぜ〜ったいに必要なのだーッ!!そもそも、そちは信用ならン!多少、使えるからと云っていい気になるなーッ!」

◇クーパー

「信用ならないと云うのであれば、それは仕方ありますまい。しかし、御存知でありましょうか!同じ辺境のライジング・サンは、スーパー・ワンと名を改め、あのグライアス王国をその掌中に収めてしまわれたのですぞ!これが何を意味しておられるかお分かりですか?予想し得ない大混乱が巻き起こる可能性を秘めておるのですぞ!」

ゲオルグ

「グライアス?大混乱?何の事だ??」

◇クーパー

「閣下が天照州に向かった直後、アルマージョ公はグライアス王国への外征を発表したのです。勿論、中央はこれを許可しませんでしたが、独断でアルマージョ公は侵攻、これを陥落させたのと事です。これは明らかな大罪。恐らく、アルマージョ公討伐が間もなく実施される筈です」

ゲオルグ

「なっ、なにぃ〜っ!?その様な事があったと云うのか?俺があやつの下に行った直後だと云うのか?む〜」

◇クーパー

「どうなさりますか?正直申し上げますに、新たな臣下に問える内容では御座いません。如何致しますか?」

ゲオルグ

「そンなもの、俺達も討伐に行くに決まっておろう!直ぐに出立だ〜ッ!!」

◇クーパー

「!?お待ち下さい!アルマージョ公は、閣下の御友人ではないのですか?」

ゲオルグ

「この阿呆ぉ〜!幾ら友人と云えど、帝国に楯突くとは何事だーッ!反逆者は伐たねばならないのだぁーッ!!」

◇クーパー

「お待ち下さい!今、我等に派兵する余裕は全く御座いません。予想される大乱を利用して内治に努めるべき、と存じます」

ゲオルグ

「む〜、仕方ないの〜。分かった、今回はそーしよう。だが、政務の長はアボロに変えるからの〜!そちは補佐にまわるのだぞ〜」

◇クーパー

「…はい、仰せのままに」

M L

 ヨッヘンバッハの私室を出た廊下でドンファンが待っていた。

ドンファン

「クフフッ、どーだったンだい、浮かない顔してサ〜?」

◇クーパー

「…これから政務を取り仕切るのはアボロ殿になりました」

ドンファン

「!?雇い入れたばかりの者をいきなりトップにするとはな〜!クフフッ」

◇クーパー

「否、アボロ殿は元十三人衆筆頭にあった御方。その実力は疑い様がありません。ですが、文官の少ない現状で生きているのも不思議な程の御高齢を召したアボロ殿に政務の一切をお任せするのは、余りにも御無体。心配です。今回の新規雇用で財政は逼迫必至。毎月数千枚もの金貨を捻出するだけの歳入はこの地にはない」

ドンファン

「クフフッ、大変だネ〜?俺の給金は滞納しないでくれよ」

◇クーパー

「君に更なる任務を与えたい、と思う。新規雇用者と接近し、彼等を探って貰いたい。勿論、今より給金は増やす。頼まれてくれるかね?」

ドンファン

「クフフッ、任せておきなって!ラウ以外なら上手くヤレるゼッ!」

M L

 覇追得館に緊張が走った。いつも騒がしい筈の緋の火の者達が静寂に包まれいる。それもその筈、音もなく仲間達が次々と倒れて行くのだ。訳も分からず、音もなく。
 迫り来る得体の知れない死の恐怖に、戦場で死を恐れた事のない男達が気圧されている。
 ダテ領始まって以来の事態に皆、緊張し、
ガープ、スライスラン、ジルファンガーの三人がライゾーの私室に集まり、警護する程の異常さであった。
 覇追得館の各所を詰める者達が次々と死に絶え、やがて、ライゾーの部屋に迫る。私室の扉に近付き、息を潜める三人の猛者達。
 驚愕の事態はそこに居る者達の想像を超えた。扉には何の負荷も掛からない。一瞬の間をおいた直後、ライゾーと三人の間、部屋のど真ん中に上等なローブを纏った男が立っていた。恐ろしく冷たい眼差しのその男は、見事な宝飾品を身に帯び、小さく詠唱を続ける。

ライゾー

「!?うぬはっ!何奴ッ?」

◇ビロテイ

「ライゾーだな?私は“千手”のビロテイ。吉報である。心して聞け!第一大公猊下は、其方に臣となる名誉を下さった。有難く思うが良い!」

ライゾー

「!?…殺されに来た様だな?笑えもせぬわッ!」

◇ビロテイ

「其方の領土は安堵するとの有難い沙汰。付け加え、後日、勅命を以て忠臣として働き、功を挙げれば、加増、恩賞は思いのまま」

ライゾー

「覇業を目指す我に安堵とは笑止千万ッ!我、何人の下にも付かず、何人に頼らず!況して、生かされる等考えもせぬッ!我を従わせたくば、力でねじ伏せよ!!!」

◇ビロテイ

「…増長するな。与えられた力とも知らず、威を誇るとは片腹痛い!ゾップハッズの助命なくば、端から野良犬が如きに興味すらない。今直ぐ、錬金を抉り出し、滅殺してくれても良いのだぞ!」

ライゾー

「…術士風情が脅し、毛程も感じぬわッ!辛気臭い呪文を唱え終えるその前に、うぬの体を八つ裂きにし、烏の餌にしてくれるわッ!!」
 “
百火繚乱”を取り出す。この武具は銃剣を超える破壊力を持つ。

M L

 ビロテイの後方では、ガープが武芸八大武具の一つ“カス”を構え、スライスランは棒手裏剣を無数に握り、ジルファンガーは剣と万力鎖を垂らす。息を呑む程の緊張感。冷たい殺意が交錯する。
 戦慄渦巻くその部屋に、ダルタ・ダルタとヌムヌム、シャッポイが駆け込んで来た。無数の視線が術士に注がれ、怒りに満ちる。

◇ビロテイ

「野良犬が、その身に過ぎた飼い犬を持つ、とは愉快、しかし、不快。考え得ぬが其方の美徳たらば、その命、長くはない」
 突如、ビロテイの姿が掻き消える。木霊する声だけが冷たく響く。
「覚えておくが良いッ!脆弱無知なる者への機会は多くはない。後悔しても遅い!」

M L

 一瞬にして姿を消した術士の言葉が居並ぶ者達の脳裏を駆け巡る。
 間髪入れず、緋の火の面々が部屋に殺到し、息を切らしながら訊ね聞く。

◇アモルシャット

「何があったってンだっ!?部下共が次々とヤラれちまって、混乱してるゼっ!誰が来たッ?」

ライゾー

「分からぬ。第一大公の使者、それだけとしか」

◇ヌムヌム

「あれはアクシズの魔道士!しかも、かなりの高位にある者。何故、第一大公がアクシズの魔道士を?」

◇シャッポイ

「へへっ、何か嫌な感じがするネ〜?とンでもねぇ〜事が起きる前兆だゼッ!」

◇アモルシャット

「とンでもネ〜ッてったら、おめぇ〜、前にヤリあった辺境軍団長がすげぇー事ヤラかしたぞ!グライアスをてめぇの独断で攻め落としちまったらしいゼッ!」

◇ダルタ

「ふむ、前代未聞の事じゃ。一貴族、一将軍が帝国の命を無視して外征なぞ、考えもせなんだわっ!中央の力が弱ったか、地方の監視が弛んだか、将又、別の何かが起こっておるのか。この辺境では知る由もないが、兎も角、儂等も手を拱いておる訳には行かぬぞ!」

ライゾー

「どうする?我等の取るべき道は?」

◇アモルシャット

「ハッ!決まってンだろ!このチャンスを逃す訳ゃ〜ねぇーゼ!直ぐに北方辺境に進軍すンだよっ!!」

◇フェイドック

「今、この時期にですか!?先程の事もあり、士気は低下しておりますぞ!状況の掴めない北方辺境に遠征し、勝利条件さえ立てぬ戦いには耐えられませんぞっ!」

◇ヌムヌム

「否、アモルシャットの提案は得策かも知れませんぞ。辺境軍団長討伐の旨が告げられるのは必至。功を挙げるより切り取りを優先させれば、予ての思案通り、北部辺境地に飛び地を有する事も出来ましょう。接触を図って来た第一大公の狙いを探る上でも有効と云えるかも知れませんしな」

◇アモルシャット

「っだろ?士気の低下なンちゅ〜もンは、戦場で回復させりゃイイんだゼッ!練兵は十分してンだ。この前の分のリベンジも兼ねて、ガンガン攻めて勝ち昇りゃ、そン次は大公もブッ潰してやンゼッ、な〜?ンで、どーすンだよ、おめぇ〜は?」

ライゾー

「…良し、分かった。再び、北部に攻め上る」

◇ダルタ

「ふむ、その意気や良しっ!なれば、早急に準備に取り掛かるとしよう。国庫を開き、物資、蓄財を絞り出そうぞ!じゃが、今回はしくじるでないぞ!必ずや、儂等の楔を北の大地に打ち込むのじゃっ!!」

M L

 ノエルドを発ったジナモンは、ブルーローズに入った。仇討ちを断行する為に途中で別れたラファイアと合流する為にである。
 ノエルドを出立する前、都市が北方第14州軍団の兵達によって物々しい警備をなされていた事が印象に残っている。第14軍団長
グルスカルハーンが何を以て、そうしているかは分からなかったが、アモン宗家での出来事もあり、不安感は刻一刻と募っていった。
 ブルーローズでも又、妙な雰囲気を味わう事になる。第11軍団の兵士達が忙しなく行き交い、緊張感が走っているのが一目瞭然。コロッセウムに支部等ない為、ジナモンは州軍団の施設に向かう。あくせく働く兵士達の中にラファイアを見付けた。

ジナモン

「分隊長っ!戻って来たよ。悪かったな〜」

◇ラファイア

「!?…君か。今更遅い。既に君の除名申請を帝都に通達した。やがて、除名処分が君の下に伝えられるだろう。尤も、家もない今の君にどの様に通達されるかは分からぬが…寂しい事だよ」

ジナモン

「そンな事より大変だッ!ノエルドの俺の主家で大変な事があったンだ!」

◇ラファイア

「…又、君の家の事か…家族、一門を大事にする事は良いだ。しかし、それだけに構っていられない者もいる事を知って欲しい。我を通し続けるのは止めてくれ!」

ジナモン

「何云ってンだ!ノエルドの至る処を兵士達が席巻してンだゾ!おかしいとは思わね〜のか?」

◇ラファイア

「…このブルーローズでも慌ただしく兵達が動いておるだろう。何故か分からぬのか、君は?」

ジナモン

「??そー云えば、そ〜だな…何があったンだ?」

◇ラファイア

「…やはり、知らんのか…北方辺境軍団長アルマージョ公が軍規を無視し、独断で北のグライアス王国に外征をしたのだ。今、その討伐軍が編成されている」

ジナモン

「討伐ーッ!?そンな事があったのかッ!俺も何かしなくてはっ!!」

◇ラファイア

「少しは事態の重さが分かった様だな。しかし、コロッセウムを除名となった君を連れて行く訳にはいかない。だが、正式なコロッセオ(*6)からの通達もなく、君を無下に扱う事は出来ない。必要であれば州軍団長に掛け合ってみるが、どうする?」

ジナモン

「おーっ、頼むっ!ノエルドでの事も分かるかも知れないしな」

M L

 ジナモンを引き連れ、州軍団施設を進む。ひっきりなしに駆け抜ける兵士達は大量の書類を運び、事態の重要さを知らしめる。
 第11州軍団長
タルトムラは、元帥府生え抜きの智将である。元々、元帥府付の参謀として作戦立案から従軍軍師を勤め、非凡な才覚を発揮した。前線指揮官としての対処能力や用兵術にも長け、何より士気掌握能力に定評がある。一人で軍師も将も兼ね備えた才覚者。帝国正規軍のシステムにより、州軍団長就任前には必ず、西部戦線で軍団を率い、実戦での経験も十分。兵卒から指揮官迄の信頼も高く、云わば、アルマージョ公が参謀を辞めなかったとしたら、その完成形にいと近い将軍である。
 タルトムラはアルマージョ公を買っていた。既に軍団長に就任した後ではあるが、古巣である元帥府の作戦参謀には連絡を取り続けていた。帝国全土の戦力図を考えた上での広域軍略から地域密着の小規模戦略迄、アルマージョ公の報告と論文には全く隙がなく、作戦参謀室の宝、とさえ思っていた。只、完璧過ぎる構想は非現実的とも取れ、実際に従軍する軍師と云うよりは本部にあって精妙な軍学者として才を発揮するものだ、とも思っていた。アルマージョ公が参謀を辞め、退役したと聞いて、高級軍人の中で最も嘆いたのは、このタルトムラ軍団長であったとも云われている。
 退役後のアルマージュ公については詳しく知らない。傭兵団を率い、北部辺境で貴族となったらしいが、参謀でなくなった彼に興味はなかった。勿論、西部戦線で功績を挙げ、北方辺境軍団長に抜擢された事は記憶に新しい。しかし、次々と替わる北方辺境軍団長の椅子は、云わば無用の将軍職。そもそも、戦略的に最もその存在が疑問視される北方辺境軍団は、一種、貴族の自己顕示欲を満たす為だけに残された帝国の余剰戦力に過ぎない予備役的な軍団。少なくとも、タルトムラはそう考えていた。
 如何に知略に満ちたタルトムラであっても、帝国中枢が極秘に進める
外殻侵攻軍団(*7)の再編等知る由もなく、同じく、アルマージョ公の為人を知る事もなかった。

 ラファイアに連れられたジナモンは、第11軍団長の執務室に入った。
 執務室と云っても、壁にきっちりと敷き詰められる様に配置された本棚以外、目立った調度品は何一つ置かれていない。机も椅子も箪笥さえ見当たらない。
 部屋のど真ん中に茣蓙を敷いて、直に座る者が居る。ローブの様な部屋着にボサボサの髪を適当に後ろで束ね、小さな鼻眼鏡越しに書類を眺め、時折、無精髭をさする。巻物風の書類に筆で何かを認め、何かブツブツと呟く。時々、鼻を啜る低い音が部屋を包む。来訪者に気付く様子もない。

◇ラファイア

「閣下、お忙しい処、申し訳御座いません。お話があり、参りました」

◇タルトムラ

「お前さんかい、ラファイア君。何の用だね?降伏勧告なんて案を採択するつもりは毛頭ないのだよ」

◇ラファイア

「いえ、その話で参ったのでは御座いません。紹介したい者がおりますので、お伺いさせて頂きました次第です」

◇タルトムラ

 鼻眼鏡を外し、頭を上げ、来客者を覗く。
「紹介したい者?次官と荷物運びなら大いに結構な事だが…どうにも違いそうだな」

ジナモン

「初めまして、貴方が軍団長のタルトムラ将軍?俺は元コロッセウムの戦士だ。小難しい話はよく分からないが、宜しく」

◇タルトムラ

「…私は彼をどうすれば良いのかね、ラファイア君?」

◇ラファイア

「護衛、と云うのも変ですが、短期間ではありますがコロッセウムに所属しておりましたので、小隊の指揮や伝令、斥候等幅広くお役に立てると存じます」

ジナモン

「何か手伝える事があったら云ってくれよな」

◇タルトムラ

「…では、近習、と云うより、今回の作戦に限って旗本として手元におきますかね」

◇ラファイア

「誠に有難き幸せ。マーストリッヒャー、励むのだぞ」

ジナモン

「あぁ、頑張るサ。処で将軍、これって何ですか?」

◇タルトムラ

「!?興味があるのかね?今回の戦は前代未聞!帝国内で帝国人同士が総勢20万規模の大戦をするのだよ。西部戦線での一神教の大攻勢ではなく、この帝国内でだよ!信じ難い事だ。敵味方共に帝国の戦略戦術を知り尽くし、尚、争う。実に恐ろしい事なのだよ。しかも、今回の戦いは粛正なのだよ。規模が小さければ、秘密裏に処断されるべきもの。従って、我が方の被害は考えられず、且つ、完全完璧な迄に大勝利を収めなければならないのだよ。帝国の威信を守りつつ、速やかに、圧倒的に、しかし、被害は最少でなくてはならないのだよ。だからと云って、降伏勧告等は以ての外!帝国は何人にも妥協してはならない存在であるのだから。
 これは帝国史上最大の難問と云えるだよ!只、勝つだけでは駄目なのだから。かと云って、帝国全土の兵力を集中させ、大兵力で潰しても意味はない。二年連続で皇帝陛下が内乱鎮圧に出向く事等あってはならない事なのだよ。そもそも、この戦は内乱鎮圧ではなく、軍規違反と帝国法違反による粛正なのだから。だからこそ…」
 髪を振り乱し、熱っぽく語るタルトムラの話は止まない。

◇ラファイア

「閣下、閣下、閣下ァーッ!大変、有難いお言葉ですが、我々には難し過ぎて理解の範疇を超えております。私には私の役目があります。もう一度、私は天照州領に向かい、アルマージョ公に矛を収めて頂く様、働き掛けてみます」

◇タルトムラ

「…ラファイア君。無意味な事だよ。もう、粛正は始まってしまったのだからね」

◇ラファイア

「…兎も角、マーストリッヒャーの事、お頼み申します」

M L

 太陽城では、重鎮達が慌ただしく城門に集っていた。スーパー・ワンが取り巻きの親衛隊を連れて、突然、何処かへ出立する素振りを見せたのである。この大変な時期に重鎮に何も告げずに旅立とうとする主君に、流石の偉丈夫達も慌てたのである。

◇プルトラー

「誰にも告げず、何処に行くつもりだ将軍!この時期、お前がいなくなっては皆、困るであろう!」

ジョルジォ

「すまぬ。だが、此度の大戦を戦い抜く為に、どうしてもやらなくてはならぬ事があるのだ!それには、どうしても俺自身が行かねばならぬ」

◇ソル

「閣下、一体、それは何なのですか!?作戦そのものへの影響もあるのですか?」

ジョルジォ

「安心しろ、それはない。お前達はお前達の任務を滞りなくこなすのだ!」

◇ザラライハ

「お待ち下さい、閣下!何をしに行くかだけでもお教え下され!」

ジョルジォ

「強奪!只、それだけだ。必ず戻る故、俺を信じ、万事上手くこなせっ!!」

ゼファ

「閣下、私もお供して宜しいでしょうか?是非ともお願い致したい」

ジョルジォ

「今回は駄目だッ!貴殿はこの場に残り、皆を助けてやってくれ」

◇ロンタリオ

「分かり申した。閣下がお戻りになる迄、儂等は全力で閣下の全てをお守り致しましょうぞ!じゃからこそ、閣下も御無事でおられるのじゃぞ!」

ゼファ

「はい、僭越ながら私も全力を尽くす事をお約束致します!」

ジョルジォ

「お前達、頼むぞっ!必ず戻る。勝利を我等の手にっ!!!」

M L

 蜘蛛の巣城では久々にヨッヘンバッハの怒声が鳴り響いていた。
 多くの人材の新規雇い入れや“
竜騎兵グラムに任せた新設の軍隊創設に国庫から莫大な資金が吐き出された。その夥しい資金の流出は、歳入を遙かに凌駕する歳出を生み出し、今迄のクーパーの計画とその経理の全ては機能しなくなった。引き継いだ“極星アボロは、同じく新規雇用された“”のビルテイルを経済担当の補佐官に任命し、資産計画書の作成に着手したが、この時既に途轍もないインフレが町を覆い尽くし、早急に改革が必要になっていたのだった。
 ヨッヘンバッハは政、取り分け経済に疎かった。復興に伴い金銭が市場に出回り、それ以上に高給取りである臣下の者達が町で金を使う事で純粋に領民の財産は増えたが、市場経済として機能していない町から商品は消え失せ、それを賄う生産能力は勿論、通商は確立されていない為、補われる事はなかった。
 ヨッヘンバッハは、蜘蛛の巣領を得てから一環して、麻薬栽培及び売買の禁止、人身売買の禁止、風紀取り締まり、性風俗の取り締まりを強化、一方、教育機関の創設を念頭に置いた上で自立の精神を養う上で配給制の縮小化を敢行し、代わりに以前であれば八割を超えた税金を約半分の四割程度に迄抑えた。城の増改築や町の復興に労働者を雇い、度重なる祝賀会や祭により、一見、上手く行っている様に見えたが、それは蔭でクーパーがヨッヘンバッハ公の云う処の悪行を一手に担い、苦労して来たからであった。クーパーが政務の筆頭から外された事で、全ての歯車が狂い始め、全く事情を知らなかったアボロは、軽い眩暈を覚えた、と云う。
 当の本人であるヨッヘンバッハは、イシュタルの言をそのまま解釈し、人手不足が解消さえすれば、万事上手く行き、発展するものだ、と思い込んでいた。国庫を開き、莫大な資金を投入したのだから当然、と云わんばかりの勢いであった。しかし、投入された資金のその殆どは、新規雇用の人件費と軍事費に注ぎ込まれ、経済や改革に用いられる為の新たな予算は殆どなかった。
 事も在ろうか、ヨッヘンバッハは教育制度の創立に着手し始めた。その為に税率を更に引き下げ、配給制の完全廃止を提言し、人材育成に力を注ぐ旨を告げた。加えて、強精な軍隊の創設を第一目標と掲げ、最優先事項とした。
 しかし、問題が続出した。物価の高騰処か物資不足の露呈、強盗や窃盗等の犯罪続発による治安悪化、町からの領民流出、失業者の増大、減収、中毒患者の続出、家人の辞職他、数え上げたらきりがなかった。
 自身の予想に反した結果に腹を立てたヨッヘンバッバは、臣下を者を呼び寄せ、緊急会議を開き、辺り構わず罵声を浴びせた。

ゲオルグ

「何をしとるか〜、この馬鹿者共がぁーッ!揃いも揃って、この能無し共めが〜!!!」

◇アボロ

「お待ち下され、公爵殿。公爵殿の為され様をそのまま敢行すれば、こうなる事は見えておったのじゃ。徳を取って、得を損なう。儂も初めからお止めしたじゃろうに」

ゲオルグ

「この馬鹿も〜ン!それを何とかするのがそち達の仕事だろーッ!何故、こーなる迄、放っておくのだぁ〜っ!」

◇ビルテイル

「あっ、あの、宜しいですか閣下…その〜、現在の我が領の町の規模とその機能上、今、市場に出回っている金銭の貨幣価値が、え〜、物資、と云いますか商品価値との釣り合いが不均衡、と云いましょうか〜、その〜、物価指数がですね〜、え〜…」

ゲオルグ

「な〜にを云っとるか〜っ!手短に話せっ、手短にィーッ!」

◇シャッター

「お待ち下さいな閣下。領民が豊か過ぎて、逆に領民は困っとる訳ですよ。閣下の治世が見事過ぎて、今一、領民が着いて来れていない、のが現状な訳ですよ」
 新規雇用された文官。アボロの外交担当の補佐官として任命された。細い目に笑顔を絶やさない。その大きな耳の為に“
福耳”と云う渾名で呼ばれている。

ゲオルグ

「なンで、豊かになって困るンだぁ〜っ!豊かな事は良い事だァーッ!分からンのか、そち達はーッ!」

◇ビルテイル

「あっ、いえ、その〜…この場合の豊かさと云いますのは〜、貨幣に依ります財産の肥大化を意味しておりまして、え〜、純資産そのものは増加しておりますが、その〜、貨幣制度の盲点と云いましょうか〜、あー、物価高騰を招くに値し〜…」

ゲオルグ

「え〜い、惑ろっこし〜っ!端的に話さンかっ、端的にァーッ!」

◇クーパー

「閣下。お怒りになさらずお聞き下さい。先ず、我が領には物資が明らかに不足しておるのです。閣下が気前良く、国庫を開放なされた為、領民一人当たりの景気が良くなり、町にある様々な物を買う事が出来る様になった訳です。ですが、町で売りに出されている物と云うものには数に限りがあり、数少なくなってしまうと値段が高くなってしまう訳です。すると、より多くの金を支払い、手に入れなければならない訳ですが、これが度重なる内に益々、物は高額になり、やがて、どれ程金を支払っても手に入れられなくなってしまう訳です。云わば、著名な芸術品を欲しがる方が多い程に値が吊り上がってしまう、のに似ております」

ゲオルグ

「!おぅおぅ、分かる!ふむふむ、それで?」

◇クーパー

「故に、物の値段を本来の価値に戻さねばならない状況に今ある、と云えます。その為には二つの方策があります。一つは、物そのものの数が多く出回る様にする事。もう一つが、買い物に使う金の量が少なければ良い訳です」

ゲオルグ

「?ふ〜む、つまり〜、どー云〜事だ??」

◇クーパー

「今回、実に複雑な状況下にありまして、幾つかの方策をまとめて行う必要があるのです。簡単に云ってしまうと、増税と配給制の変異復活、伴います制度改革です」

ゲオルグ

「!?なっ、なンだと〜ッ!それでは、今迄と変わらンではないかぁーッ!」

◇クーパー

「お待ち下さい閣下。話を最後迄、お聞き下さい。税と云うそのものには、何ら悪辣な意味はないものなのです。本来、既得権こそが問題なのです。麻薬や人身売買、売買春に既得権を有していた前領主こそが問題であり、その体質が長い支配統治下において根付いてしまっておる訳です。前領主が高い税率を掛けているにも関わらず、その支配体制を維持して来れたのは、主に食糧等の消耗品の配給制とその食糧に混入した麻薬による処が大きいのです。前領主は外貨獲得にも力を注いでおりましたが、貯め込んだ資金を領内には投入しませんでした。これは領内の物価を低く安定させ、且つ、領民を喰わせると云う只一点に於いて、見事な効果を生んでおった訳です」

ゲオルグ

「!だぁ〜ッ!そちは俺がユルゲンに劣ると云いたいのかァ〜ッ!!!」

◇クーパー

「そうは申しておりません。ですが、閣下の急激な改革は、未だかつての恐怖支配の記憶新しいこの領土において、上手く機能しないので御座います」

ゲオルグ

「むむぅ〜!では、どーすれば良いのだァーッ!!!!」

◇クーパー

「先ず、税率を五割、いえ、六割に戻しましょう。配給制の変異復活とは、国庫を開放した資金で我が領の備蓄物資として他領から購入し、それを市場に安価で卸し、比較的安定した相場にするものです。これである程度は領民の財産を適切なものに出来ます。
 ですが、これだけで解決は致しません。今説明致しました備蓄物資流通政策では国庫は涸れ行くだけです。その為、外貨を稼ぎ出す他ありません。そこで、麻薬栽培の部分復活を行います。公有地での栽培のみに限り、閣下の所有物として麻薬栽培を行い、働き手として農民に賃金を渡し、外貨獲得の為だけに販売をするのです。この際、領民の麻薬使用を法で禁じ、個人売買も禁じます。これにより、失業率の問題もある程度解決し、領内での麻薬中毒患者を抑える事が出来ます。何れ、新たな特産品を生み出す事を約束し、今は耐えるべきです。
 更に犯罪増加率に関しましては、刑罰として強制労働に従事させる旨を施行し、極刑を廃し、労働力の低下を抑制し、且つ、復帰の機会を与えれば良いのです。又、これは重要ですが、今ある中毒患者に対しましては、医療機関を設け、治療の一環としてのみ処方致します。それは徐々に麻薬の割合を減らし、回復を待つ、と云うものです。この治療の為にも麻薬栽培は必要不可欠であり、その資金は国庫より捻出すれば、領民に負担は御座いません。閣下の熱望されております教育機関は、健全な体と精神を領民達が取り戻した暁に行うべきものと存じます。
 付け加えまして、増大する軍事費をお抑え下さい、とは申しません。ですが、その幾ばくかを平時におけます治安警固の為にお使い下さりたく存じます」

◇アボロ

「うむうむ、最善とは云えぬが、適切と云える施政の処方じゃの〜。公爵殿、儂はクーパー殿の提案に賛成じゃが、どうじゃろうかの〜?」

ゲオルグ

「むむむぅ〜!どーも胡散臭い話だの〜。ユルゲンの悪政の頃と差して変わらン気もするが…う〜む、仕方あるまい。だが、学校は作るぞ〜!その為にナディスクローツピロシキコキュー等を雇ったのだからな〜。それから〜、治安警固は確かに重要と云えるの〜。グラムよ、そち、やってくれるな?」

◇グラム

「…ヨッヘンバッハ殿、それは出来ない。イシュタルにお任せしたい、と思う」
 西部戦線での第16、17、18次の一神教の大攻勢を戦い抜いた生粋の武人。“
竜騎兵”と云う銃剣士(*8)からなる騎兵部隊を創設した兵法家。西部に於いて、その名を知らない者はいない、とさえ云われる程の軍人。

ゲオルグ

「ぬぁ〜ンだとォーッ!大枚はたいて雇っておるのに出来ぬ、とは何事かァーッ!!!」

◇グラム

「勿論、感謝しておりますぞ。ですが、最初にお約束させて頂いた通り、私は“竜騎兵”の再編を望んでおるのです。初めからそれをとは考えておりませぬが、せめて質だけは、と願っておるのです。治安警固に当たる衛兵と死線を乗り切る軍人には、余りにも大きな意識の差があるのです。ご理解頂きたい」

ゲオルグ

「む〜、しか〜し、兵士の数にも限りがあるのだぁーっ!何とかして貰わねば、しょーがないだろーッ!!」

◇グラム

「…分かりました。治安警固の為の衛兵を選抜し、育成、従事させましょう。これにもイシュタルの手を借りる事となりましょうが、宜しいでしょうか?」

ゲオルグ

「ふむふむ、良いぞ〜。では、そち達、会議は以上だ。持ち場に戻って、しっかりと働くのだぞ〜」

◇クーパー

「閣下、後一つ、宜しいでしょうか?」

ゲオルグ

?なンだ?申してみよ!」

◇クーパー

「はい、家人へのチップをお控え頂きたく存じます。家人が次々と辞めてしまうのは、閣下のチップが非常に高額であるが為、給金の支払いを待たずして十二分に悠々自適な生活を送れるが故に早々と消息を絶つ者が続出しているのです。何卒、お控え頂きたく、お願い申し上げます」

ゲオルグ

「!っえぇ〜い、五月蠅いわいッ!何故、そちにそこ迄指図されなければならンのだァーッ!!サッサと出てって働けぇ〜いッ!二度とくだらン事云うなぁーっ!」

◇クーパー

「…御意」

M L

 初夏に香る北の辺境が揺れる。夥しいエネルギーの集約が、普段は誰も見向きもしない大地に今はある。燻り続けた火種が、今、はっきりと燃え上がったのだ!大胆に、豪快に、明け透けに…主演の幕は切って落とされた!
 しかし…しかし、注意深くあれ、諸君。五感を研ぎ澄まし、注意深く見守るのだ。物語は人の数だけ存在する。何も、一つだけではない、のだと…     …続く

[ 続く ]


*1:改名前は城塞都市グラナダ。北の辺境にある然程、重要ではない城塞。帝国史において多くの反逆はこの地で巻き起こる。そして、その全てが鎮圧されて来た。
*2:黄金の理念】の通称。前身は昇陽教。ジョルジォの作った宗教とその哲学。
*3:皇帝代理の絶対権限を持つ帝国の筆頭家老。一時代に定員七名、しかし、多くは空席である。
*4:魔道都市と称される都市国家。“魔道士”と呼ばれる魔術師達により支配されている。
*5:魔剣保持者の意。活性化した魔剣を保持し、共生関係にある者達を云う。寄生体とも。
*6:筆頭戦士団コロッセウムの本部。事務所と練兵所を兼ね備えた円形闘技場的施設。
*7:昔、帝国の最精鋭軍隊で、その規模は今の軍団編成の3倍であった。辺境軍団はその名残。
*8:銃剣と呼ばれる火薬を用いた武具を用いて闘う戦士。火薬はオドと関わりが深く、稀少。

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