M L
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北方第2州スピンアイ。肌寒い中、繁華街の小洒落たオープンカフェでブランチを楽しむ男がいる。片手には小さな書籍を持ち、小さな鼻眼鏡越しに読み進める。苦めのエスプレッソを楽しみながらベーコンエッグとクロワッサンを食す。
男の名はアルベルト・アルベイン。内務省一等監察官北域監査役という特殊な官職を名乗る帝都大学出身の秀才。しかし、本当の身分は違う。宰相府政務監査局特等監査司官第一監査部零課課長であり、現在、ある任務の為に内務省統合情報局一等情報監査司官北部支局次長として出向している。“00-A”の特殊ナンバーが与えられ、ミッションネームを【ブリザード】、“凍てつく瞳を持つ者”として一部に知られるエリートの中のエリート官吏。
遅めの朝食を楽しむアルベルトの下に訪れる者がいた。名はショパーニ。髪を後ろに結った痩身のその男は公的には情報局員を名乗ってはいるが、妙に目つきがきつい様に見える。
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◇ショパーニ
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「監査役、例の懸案についてですが宜しいでしょうか?」
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アルベルト
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「そろそろかな、と思案していた処です。続けなさい」
千切ったパンを無造作に口に運ぶ。
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◇ショパーニ
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「はい。先ずはスピンアイ納税局ナイアス税務署署長二等徴税司官クアナボラス・ロラーラ伯爵につきましてですが、裏が取れました」
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アルベルト
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「全く、大それた真似をしてくれたものですね。それで、都合どれくらいになりましたかね?」
ベーコンを口に放り込む、無造作に。
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◇ショパーニ
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「はい。二年半に亘る横領額は金貨にして6000枚を超えます。職権濫用に伴う人事、公費、事業によるロラーラの含み益と州の損失額は計、金17000枚以上に相当する、と思われます」
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アルベルト
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「…小役人が。司法院の意見を求む以前に極刑で決まりですね。手続きを整えなさい。ロラーラの財産は凍結、人員を配し身柄を拘束なさい。尚、取り調べ及び尋問は私自ら行いますので早急に準備をなさい」
ベーコンエッグの卵をスプーンの背で潰す。グチャグチャに、こねくり回す様に。
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◇ショパーニ
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「了解致しました。それから、もう一つの懸案ですが…」
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アルベルト
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「もう一つ?何ですかね?」
一息でエスプレッソを飲み干す。口元を伝ってエスプレッソは胸元にこぼれる。
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◇ショパーニ
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「はい、辺境につきましてですが…」
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アルベルト
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「ああ、それなら後回しで良いでしょう。州の損益の方が事は重大ですからね。ロラーラの件が終わってからで良いでしょう」
ズッ、ズズーッ。飲み干したエスプレッソのカップを吸い続ける。
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◇ショパーニ
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「…はい、了解致しました」
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M L
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足早にオープンカフェを後にしたショパーニに一瞥し、徐に皿の上の卵を道端に投げ捨てる。地面に散らばった卵に小さな雀が舞い降り、啄む。アルベルトは眼鏡越しに見下ろす様な半目で雀を覗くと、突然、フォークを投げ付けた。
無情にも雀の首筋にフォークが突き立ち、絶命。悠然と席を立ったアルベルトは大股で雀に近付く。フォークに串刺しとなった雀を軽やかに拾い上げると、これ又無造作に口に運ぶ。しゃくっ、しゃくっ。口元に鮮血を滴らせ、一言。
「頗る上質、生に限りますネッ!」
クームーニンは今日も怒っている。この精力的な男は根っからの仕事好き。ジョルジュは彼を好いていた。疑い様のない才能と仕事振りは当然、何よりも気に食わない事があれば誰にでも噛み付く、そんな気概を好いていた。
ジョルジュが私室にいる、と聞いたクームーニンは衛兵の制止を無視し、ずかずかとジョルジュの私室に入って、非礼を詫びる処か頭ごなしに怒鳴り付けて来た。
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◇ハイドライト
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「ジョルジュ様ッ!何ですかっ、この下らない人事と役職はッ!!私に一言の説明もなさらずに、又も下らぬ予算を組むとはっ!」
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ジョルジュ
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「ん?下らん人事と役職?何の事だ?」
半裸で体を鍛えている。元帥府の特殊コマンドのメニューにある特別な鍛錬法。
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◇ハイドライト
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「ジョルジーノ警察隊の増強と警察機構の設立は兎も角、ゼム・ゼノ殿を代表とした精神指導協会やらこの公儀云々は一体、何なのですかっ!
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ジョルジュ
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「ゼノは俗物だが宗教学と思想学に秀でている。役を与えれば、思いの外忠義を示す。昇陽教の一角を担わせるには十分と云えるだろう。公儀隠密は、巨大化した現体制下にあって未だ俺の私兵の域を出ておらん者達に公的な立場を与え、保障し、体制に組み込む為の受け皿だ。公儀御庭番にスターレス88、公儀刺客人にカノンを筆頭にニナ、マリアッチ、アクロレイター等とストレイトス重鎮暗殺に用いた『殺しの口付け』連中、公儀介錯人に舞姫を筆頭にウルハーゲン、サルウ等の親衛隊とローボズ、フィールボス等を加えた者達だ。御庭番、刺客人、介錯人をまとめて公儀隠密とし、その取り仕切りにホークアイを就かせる。無論、御庭番は表向き俺の家人、その他の者達の表向きは以前通り俺の親衛隊だ。公儀隠密に政治的発言権を与えはしないので問題なかろう?」
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◇ハイドライト
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「しかし、公的な立場をお与えなさるのであれば親衛隊で宜しいではありませんかっ!公費から捻出し、わざわざ細分化する必要等何処にお在りなのですか?」
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ジョルジュ
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「費用は今迄通り、俺の私財から出す。只、一度行政に納入し、公費として扱うだけだ。一部の高官だけがその明確な存在を知っておけば良い。後は風評によって思わぬ効果を発揮するだろう」
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◇ハイドライト
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「風評等全く当てになりませんが、そこ迄云うのでしたら致し方ありません。全く解せませんが通しておきましょう」
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M L
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蜘蛛の巣領には州から続々と傭兵が集って来ていた。領葬を終えたヨッヘンバッハが先ず始めに行った事は、圧倒的に不足している私兵の充実であった。性懲りもなく、ヨッヘンバッハは徴兵に努め、辺境域の傭兵の殆どが新任の軍団長に従う事を知ると北方四州に迄触れを出し、相場の3倍近い額で傭兵を募集した。
新兵約700名を雇い入れたヨッヘンバッハの私兵は1000名に達した。大諸候と迄は云えないものの、近隣諸候のそれとは比較にならない程の規模の軍勢であった。
公爵位を購入し、護衛を携え、新たな私兵を手にした事で、ヨッヘンバッハの意気は益々、豪快となった。
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ゲオルグ
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蜘蛛の巣城のテラスから1000名の兵士達を見下ろし、
「お〜ッふぉッほァ〜っ!良いィィィッ、いいゾょ〜ッッッ!俺の軍隊ィ〜、俺の町ィ〜、俺の国ぃぃぃ〜っ!!
のぉーッほッほッほォーっ!イシュタルッ、イぃぃぃ〜シュタルぅ〜!!見よっ、見てみよっ!この悠然とした兵共の姿をっ!とうとう、トートー、この俺もココ迄来たのダァ〜ッ!ムホッ♪目下、敵無し、よのぉーッほッほッほォーっ」
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◇イシュタル
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「…しかし、ヨッヘンバッハ様、喜んでばかりはおれません。先の緋の火への対応での簡易修復は、これからの本格的な復旧を難しくしております。情勢的にも厳しく、正に先行き不安。蓄財に多少の余裕があるとは云え、引き締めと明瞭な計画案が必要不可欠です。ヨッヘンバッハ様もその辺り、十二分にお考え下さい」
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◇クーパー
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「ふふふ、イシュタル殿、心配御無用ですぞ。資金は外貨を獲得すれば良いだけのもの。近隣の情勢不安も、無視出来るだけのネタを用意すれば良いだけ。君主たる者、些細な事等気にせず、堂々と構えておる事こそが肝要。雑務は我等、臣下の仕事。そうではありませぬかな、公爵閣下?」
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ゲオルグ
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「ふむふむ。そち等二人に万事託すぞ。頑張るのだぞ〜!俺はベランダから下々の輩に手を振ってやらねばなるまいっ?皆、一心に俺を求めておろ〜からのぉーッほッほッほォーっ!」
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M L
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コロッセウムの特務を帯びた二人ラファイアとジナモンは、州から西に遠く離れた辺境グラナダに訪れていた。
ジョルジーノと名を変えたグラナダ要塞は、辺境とは思えない程の活気に満ち溢れていた。町とその周辺一帯全てを修復、改修、増築しているかの様。夥しい人々の群は、その一人一人に至る迄、責任ある仕事を与えられているかの様に見え、嬉々として働いているかに見受けられる。
ラファイアは驚いていた。ジナモンはこの地の支配者と面識がある為か、世情に疎い為か、何等感慨はない様だ。しかし、ラファイアは違っていた。つい一年前迄は、打ち捨てられていた辺境の一地方の砦、半年前は反乱の巣窟、それが今では州都を思わせる程の賑わい、規模で劣るにしてもその活き活きとした様は、とても辺境とは思えない。辺境と云えば、帝国中央からは捨て置かれた未開地、故に閉鎖的、活力に乏しく地味で惨め、無惨とさえ云える。治安の不安定さから牧歌的とさえ云えない、この辺境にこれ程の町を、土地を築く支配者とは一体。
二人の筆頭戦士団員はジョルジーノの町に入り、城へと馬を歩ませる。
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ジナモン
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「ちょっと懐かしいな〜。団長と会ったのも此処が初めてだったからな〜」
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◇ラファイア
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「しかし、驚いた。これ程賑やかとは。新軍団長の政治力がこれ程迄とは!!」
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ジナモン
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「凄いか?帝都と比べたら全然だろ?」
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◇ラファイア
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「…帝都と比べるとは…この辺境でこの規模、マーストリッヒャー、君にはこの事実が分からないのか?」
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ジナモン
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「?さぁ〜?お金があるだけじゃないか?」
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◇ラファイア
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「…にしても、人材募集の看板や張り紙が目立つな。登用にも力を注いでいるのか」
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M L
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大通りの混み合う人の往来が、突然止まり、人群が左右に割れ、列が出来る。ラファイアは馬首を返し、通りの脇に退く。特に何の反応もしないジナモンを呼び寄せ、何が始まるかを見守った。
遙か城に迄延びる大通りの列の先から、いきなり堰を切った様に叫び声が響く。
「るるるるるる、ルラぁぁぁーイジぃぃぃ〜ングッ・サァァァァァーンッッッ!!!!」
ライジング・サン!ライジング・サン!ライジング・サン!ライジング・サン!一斉に民衆が叫び始める。
驚く二人が大通りの奥を覗くと、やがて異様な一団が現れる。金糸に磨かれた馬具を纏った白馬に跨った娼婦の様な恰好をした女性の様な美青年。殆ど半裸で淫らにさえ見えるその男性は、体中から光が差し、人群に向かって緩やかに手を振ると光のヴェールが暖かに辺りを包む。その神々しい馬上の男の後を思い思いの出で立ちの武装集団が付き従う。親衛隊、と銘打たれた旗を翻し、威風堂々と歩む。
ふと、人波の列から赤子を抱いた母親らしき女性が飛び出す。赤ん坊の額から口元にかけて醜い痣が見える。女性は泣き叫びながら、白馬に跨る男に縋り付く。親衛隊の一人と思われる者が女性を遠ざけようとするのを白馬の男は制し、赤子の痣辺りに向かって手の平を翳す。強烈だが優しい黄金の光が男の手から発せられる。眩しい光が薄れると、何と赤ん坊の醜い痣が綺麗に消え去っていたのであった。
「おおッ!!我等の神ッ!!!ラァーイジィ〜ンンンングッ・サァァァァァーッンンンッ!!!」
ライジング・サン!ライジング・サン!ライジング・サン!ライジング・サン!民衆の一人の叫びに呼応し、再び『ライジング・サン』の大合唱が始まった。
馬上の男はコールに答えて緩やかに、厳かに手を振り応える。振る手はホログラムの様な残像を残し、光り輝く。
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ジナモン
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「!?おわっ!すげぇ〜、赤ン坊のアザが治っちまった!!奇跡かッ?」
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◇ラファイア
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「…オド(*4)の集束を感じた。法術に近い魔術か何かだろう。それより、驚くべきはこの人心掌握能力。完全に民衆の心を捕らえている」
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M L
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「まやかしだッ!インチキ野郎、俺等がテメェーの化けの皮剥がしてヤるゼッ!!」
突然、通りに踏み出て来たガラの悪そうな連中。粗末な装いをしてはいる連中だが見事に体は鍛えられている。それなりの戦闘訓練を受けていそうだ。
「馬上から失礼。何方か分からぬが、私に何か用かね?」
馬上の男の低い様な高い様な、兎も角、よく通るその声を遮るように、
「俺達を知らねェ〜だとォ〜!?ワァーッハッハッハーッ!俺達ゃ〜、よ〜く知ってるゼッ!!おい、田舎者共ッ、よ〜く聞けッ!こいつは親さえ分からねェ〜、金で買われた奴隷だゼッ。買った男もペテン師、まぁ〜、詐欺師っぷりは教育されたってか?人を騙した金でイイ学校には通ってたが、なァーに、裏ではスラム街で悪さをしてたロクでなしだッ!エリートなンかじゃネェ〜ゼッ、騙されンなよーッ!!」
ガラの悪い連中の頭目らしき人物が、周囲の民衆にそう叫ぶ。民衆は予想に反して全く無反応。がなった男は片目を顰め、尚も周りの反応を窺う。
「大方、君の云う通りだが、何か問題でも?」
馬上の男は表情一つ変えない。僅かに微笑み、静かにそう語った。
「!!?…居直りヤがって、このペテン師がぁ〜!ブッ殺してヤるッ!!」
捲し立てる男が抜刀する。続いて、仲間の連中も抜刀する。危険。
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ジナモン
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「!?おわっ!止めに入るかっ?」
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◇ラファイア
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「待たれよ、マーストリッヒャー!彼には護衛もいる。ここは踏み止まるべき」
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M L
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馬上の男達に付き従う護衛が動くのと同じく、人群を掻き分けて現れた者がいた。
一人は通りの向かって左から、清潔感溢れる色素の薄い金髪を短く刈り、蒼いガーブを翻し、センスの良い僅かな装飾の入った磨かれた鎧を纏う端正な顔立ちの男。その透き通る様なアクアマリンの瞳は、見透かす事が叶わぬ程深く、透き通る。
もう一組は向かって右から現れた三人。一人は中年の男、小さな黒いクロークを纏う紳士の風体だが表情は暗く冷たい。何よりオールバックにして晒されたその額には、見るも無惨なクレバスの様に深く刻まれた縦一文字の傷が痛々しく不気味。
もう一人は長身の女性。白雪の如く透き通る肌は凍える程。黒髪はセミロング、ゾクッとさせる程大きな目には黒真珠を思わせる瞳。強い意志の感じられるその瞳は印象的。黒髪も闇のような暗い黒ではなく、森林奥深くの神秘的な緑を思わせる黒。
最後の一人は少年か。黒髪の女性同様、見た事もない装束を纏っている。銀髪を無造作に短く切ってはいるが、前髪が多少長い様だ。僅かに覗くその瞳は一見、黒く見えるがその実、グラデーションのかかった銀色。何より、その小さな体躯にそぐわない程に長大な剣を斜に背負った姿が目立つ。12フォートはあろうか。しかし、よく人波を抜けて来られたものだ。
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ジナモン
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「!?あっ!俺、あの青いマント付けた兄ちゃん知ってるぞ!名前は…何だっけか?」
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◇ラファイア
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「…ファンデンホーヘンツワイス殿だ」
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ジナモン
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「へ?知ってんのかい?」
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◇ラファイア
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「…ああ、知らない訳がない。彼は、団長の兄弟子ですからね」
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ジナモン
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「!!?え〜、あいつが団長の〜!?そっかー、だからいいヤツだったのか!」
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M L
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馬上の男は護衛を制し、人垣から現れた四人に目を向けた。
不快にすごむ凶悪そうな男の前に蒼いガーブを纏ったゼファが立ち塞がる。
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ゼファ
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「経緯は分かりませんが、公衆の面前で剣を抜くとは捨ておけません。又、彼はこの地の統治者です。その彼を襲う事は法に反する。見過ごす訳には参りません」
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M L
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「っっっッせーよッ!!ザコは、スッ込ンどれェ〜ッッッ!!!」
男は問答無用とばかりに斬り掛かって来た。ゼファは軸足を中心に時計回り。剣を躱し、体を入れ替える様に相手の右懐に踏み込む。ゼファのガーブが遠心力を借りて、相手の視界を奪うと共に左手で男の柄を握る手首を掴む。同時に踵で男の軸足の甲を踏み付け、左肘を胸骨目掛けて打ち据える。その瞬間に相手の手首を返し、右手で男の剣を奪い、くるりと回転させ、切っ先を向ける。
あっ、と云う間の出来事。瞬きする事さえ出来ない程。
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ゼファ
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「怪我をする前に立ち去りなさい。分かりましたね?」
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M L
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「っっっこッのヤロぉぉぉぉぉ〜ッ…!?…!!!?」
剣を奪われた男が短剣を抜き、息巻こうとした瞬間。
ゼファの背後で地を蹴る音。黒髪の女性が跳ねた。反りの浅い長刀を握り、軽やかに跳ねたその高さはゼファの長身を飛び越え、一瞬、宙に留まったかに見えた。次の瞬間、ゼファを飛び越え男の眼前に着地した黒髪の女性は、凄まじいスピードで薙いだ。真一文字に振られた長刀は、右から左へと男の両眼を眉間諸共斬り付ける。斬り抜けた長刀を振り抜かず、そのまま手首を返して右へ薙ぐ。男の喉仏がバックリと割れる。薙いだ長刀を尚も手首を上に返し、重心を低くとって左に振る。男の下っ腹が真横に切り裂かれ、腑が吹き出す。振り抜いた長刀の柄頭に左手を添えた女は、思い切り男の心臓辺りを突く。背から切っ先が突き出る程。更に女は軸足を変え、刀を引き抜くと同時により重心を落とし、突き上げる様に男の股間に突き入れた。突き抜けた刀が脊髄を割る嫌な音を周囲に響かせる。
恐ろしい程、凄惨な斬撃。しかし、これも一瞬の出来事。息つく暇さえ与えない女の技と残酷に殺害された男とに、周囲は驚く猶予さえくれはしなかった。
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ゼファ
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「!!?なっ、何て事を!これだけの実力差があるのですから、命を取る事迄は…」
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M L
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逆上した男の仲間達が女とゼファ目掛けて襲い掛かって来る。
サッ、と黒い影がゼファと女の脇を擦り抜ける。クロークを纏った紳士風の男が歩み出て、迫り来る男二人の顔面に両手で抜き手を繰り出す。右側の男の左目と、左側の男の右目とを、両手の人差し指、中指の二本を突き立て、正確に貫いている。
抜き手の衝撃は眼窩を抜け、脳にダメージを与えたのであろう。突き入れられた二人の男は既に絶命。抜き手を引き抜くと、眼球が二本の指に突き刺さったまま。オールバックの男は、その眼球を徐に口の中に放り込むと、楽しむ様に口内でそれを転がした。それでも男の表情は暗く、冷たく、無表情に乾いていた。
尻込みをした仲間の男の一人が、無様に逃げようと通りを振り返ると、銀髪の少年が立っている。叫び声を上げながら、男は少年に突進する。
地面に対して僅かに角度を付けて斜に背負う長大な剣は12フィートは優にある。少年は、右肩辺りにある鍔近くの柄を右肘を曲げて耳の脇に腕を立てる様にして握る。大きく伸ばした左手は肩ごと捻り、右肩越しに柄を握る、軽く。直後。
ドヒュゥゥゥン!背負った柄の上部にはスリットが。刃は上を向き、少年の右手を支点に、てこの原理で大きな弧を描く。遠心力が斬撃の圧を尋常成らざるものにしている。呆気に取られた男は、唐竹割に真っ二つ。凄まじい斬撃が地面を陥没させ、深い亀裂を刻んでいた。
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ジナモン
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「!!?何なンだーッ、アイツらは〜!!」
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◇ラファイア
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「シッ!!静かに!これからが大事です」
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M L
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ライジング・サンに盾突いて来た連中も残す処、四人となっていた。どの男達もそれなりに腕に自信を持っていた。何しろ、帝都のスラム街を生き抜いて来た破落戸だ。知恵がない分、腕っ節で生き抜いて来たと云うのに、どれもほぼ一瞬でやられている。この実力差は如何ともし難い。と、突然、ライジング・サンが話す。
「そこの女と男、それから子供よ。チンピラ相手によくも暴れてくれたものだな。我が大事な民草に、もしもの事があったらどうするつもりであった?
コレを見よッ!行くぞッ、《青いイナズマ》ルルルルルルルルルルアァァーッ!!!!」
ライジング・サンの右手から強烈な青い閃光が放たれる。閃光は三本の稲妻を成し、黒髪の女と額に傷持つ男、銀髪の子供目掛けて飛び交う。
シュバァーッ!三本の稲妻が標的を捉える直前、急激にその矛先を変え、チンピラ達三人を捕らえる。圧倒的なエネルギーに晒された男達三人は、一瞬で感電死に追いやられ、黒焦げになった後、炎を吹き上げ、消し炭と化した。
「私の力であれば、この通り。決して周囲に被害は及ぼさない。青いイナズマは敵だけを責める。炎、カラダ、灼き尽くすッ」
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ゼファ
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「!!!?…な、何とッ!!」
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M L
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最後の一人となったチンピラの頭目は麻痺していた。どうあっても打破出来ないこの状況に怯える事さえままならず、思考能力は完全に麻痺していた。
ライジング・サンは下馬した。チンピラの頭目の前に進み出て語りかける。
「人は弱きもの。時折、衝動に駆られ、暴挙とも愚挙ともつかぬ行為に走らされるもの。名乗る事さえ許されぬ者よ。手にしたその無粋な物を捨てよ。業に満ちた品を手にするからこそ、衝動を、欲望とを抑えらぬもの。さあ、それを捨て、業を捨て、心を解き放つのだ。そして、我が胸の中へ!」
両手を広げ、無防備に立つライジング・サン。先程の凄惨な光景が嘘であったの様な屈託のない笑顔。まるで女神の微笑み、暖かく、淀みなく、心地良い。
チンピラの頭目は力無く剣を落とす。よろよろとライジング・サンに歩み寄り、抱擁した。ライジング・サンも又、男を両の手で抱きしめる。
「皆の者、聞くが良い。彼が今日の事を心より悔いて懺悔するのであれば、神は彼を許す事だろう。しかし、彼の心に少しでも曇りがあれば、神はこれを許さぬ事だろう。皆の者、祈るのだ。神に、我に。只、ひたすらに!」
取り巻く全ての民衆が口々に祈りの言葉を繰り返す、一心不乱に。
ライジング・サンは、胸に抱く男の耳元に口を近づけ、誰にも聞こえない程小さく囁きかけた。
「汝は神の胸の内にいる。さあ、名乗るが良い。汝の名は?」
「…オ…オレの名はランボー…“タカリの”ランボー…」
「………ああ、あのランボーか…」
「…お…覚えててくれたのか…ほ…ほら…あ…あんたのグループにいた…!!!?」
バシューッッッ!突然、閃光が二人を包み、乾いた音が辺りを包む。
ライジング・サンの胸に抱かれていた男は乾いた粘土の彫像の様に成り果て、やがて、塵と化し、風にそよぎ、掻き消えた。
ざわめき立つ民衆。それをサッ、と手を挙げ、ライジング・サンは注目させる。
「彼の者は救われたっ!罪深く、咎に満ち、その業深き肉体を浄化し、無垢なる心と純然たる魂とを切り離し、来世への道へといざない導いた!!」
涙を流し、口元を振るわせるライジング・サン。
「罪を憎んで、人を憎まず!我、人を憎まず。万物を祝福し、皆の安寧を願う!」
民の一人が叫ぶ。
「おおッ!!我等の神ッ!!!ライジング・サン万歳!ライジング・サン万々歳!!」
ライジング・サン万歳!ライジング・サン万歳!ライジング・サン万々歳!再び、堰を切った様に大合唱が始まった。
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ジナモン
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「?何だコレ?意味が分からン?チンピラ、始末しただけで何でこンなに盛り上がれンだ?コイツら、皆、オカシ〜のか?」
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◇ラファイア
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「…凄い。これ程の人物が居たとは…」 |
ジナモン
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「?何が凄いンだ分隊長?さっきの奇跡は魔術だったンだろ?」 |
◇ラファイア
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「団長とはまるで正反対。団長の飾らない自然体の善意に対し、その悉くを飾った虚構の所業…しかし、恐らくは共に素直。それだけにライジング・サンの素顔をみたい。一体、どんな人物なのだ」
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ジナモン
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「?そ〜か?俺にはヨッヘンバッハ公爵と変わらンけどな〜」
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M L
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白馬に跨るライジング・サンは、ゼファと三人組を呼び寄せ、付いてくる様に申しつける。通りを引き返し、その派手な行幸は過ぎ去った。
コロッセウムの二人はその後を追い、城へとむかった。
太陽城…グラナディア、グレイザーと名を変え、今やライジング・サンの居城となったこの城は物々しい景観を呈している。
普段、あれ程派手好みで豪奢なライジング・サンからは想像も出来ない武骨な城。
確かに辺境最大規模の巨城。しかし、装飾の類は一切、見当たらない。まるで度々、戦場となる広野に孤立して聳え立つ砦の如き趣。多角的な城壁に拵えられた石造りの塔は、遮蔽物と死角をなくす為の配置。塗装処か、色味さえ合っていない石造りの壁面は頑強さのみを追求したかの様。複数の煙突からひっきりなしに立ち上る煙は、保存用の加工食糧や日用品、武具の鋳造をしている証拠。全ての窓は鉄張り。あからさまに配備された攻城兵器の数は夥しく、見た事もないスライダー状の梁やスポットが施されている。誰の目から見ても明らかに最前線を思わせる軍用の城。辺境の将軍が持つ城と云えば納得もいくが、都市造りの街並みとのギャップがいよいよ見る人々を惑わせる。
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◇ラファイア
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「!!…この無駄の無さ!規模こそ破格だが、正に最前線の砦の様だ」
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ジナモン
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「ほンとだ。金持ちの住む城っぽくないな〜?ゴツゴツしてて不格好だな〜」
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M L
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巨大な城門は常に開け放たれている。そこには見るからに物々しい武装に身を包む大勢の兵士が警固に当たっている。城門上部のこれ又、巨大な城楼にも多くの物見と射手が配置されているのが分かる。
コロッセウムの二人は、警固の者にライジング・サンとの謁見を申し込んだ。辺境域東部での戦禍についての話を聞きたい旨を伝え、身分を明らかにすると、暫く待たされる事になった。先に連れられて入ったゼファと他の三人が謁見中である、との事であった。
客室に通された二人は、長旅の疲れを暫し忘れ、一息吐いたのであった。
太陽城、謁見の間。機能性のみを追求したこの太陽城では、恐らくこの謁見の間と客室だけが豪華な造りになっている。とは云っても、飾られた品々の殆どは、軍団長就任の折に下賜されたり、プレゼントされた物、ストレイトスの城から持って来た物で賄われおり、この城の為に買い足されたものはない。
居並ぶ重鎮達は思い思いの表情を浮かべている。
巨大な玉座に座すライジング・サンの前に、ゼファと他三人が控える。
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ジョルジュ
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「先は助かった。礼をしたいと思う。好きな物を所望するが良い。名も聞かせてはくれまいか?」
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ゼファ
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居並ぶ他の三人が喋り出さないのを悟り、話し出す。
「お初にお目に掛かります。私はゼファ・スヴァンツァ・ファンデンホーヘンツワイスと申します。騎士修行中の身であり、師より閣下のお噂を聞くに及び知るに至り、参った次第に御座います」
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ジョルジュ
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「師と?失礼だが貴殿の師の名は何と申す?」
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ゼファ
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「はい、アラベスと申します。人々からは敬愛の念を籠めて“聖騎士”と呼ばれ称される御方です」
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「アラベス殿か。無論、存じてはおる、が面識はない…筈」
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ゼファ
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「“北に乱の兆し在り”。最近、師がよく口にする言葉です。我が師も閣下とは面識はない、と思われます。僅かの間で成功した人物、として閣下を評されておりますれば、風評を聞いての事だと思います」
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ジョルジュ
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「…乱の兆し…アラベス殿、か。で、貴殿は何を所望する?」
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ゼファ
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「師曰く、私の迷いを断つべくものを兼ね備えておられるのが閣下。是非、私を側に置いて頂きたい。正直申しますと、この申し出にさえ迷っております。私には不可解な事が、此処には多すぎます故」
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ジョルジュ
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「迷いは成長への兆し。良いだろう。食客として、この城に置く事を約束す。
で、他の三人は?見た処、其方等三人は共に旅する者に思うが?」
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・・・
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黒髪の女性は顔を伏せたまま話し出す。
「我等は叡智なる予言を信じ、大いなる【覇】を探し求め、旅する者。気の遠くなる程遙か南より、邪悪な海を越え、“のぞみ”にて参りました。運命の泪水晶の指す光明に従い、此処迄やって参りました次第」
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ジョルジュ
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「…“覇”、だと?征服を企むのであれば余所でしろ。この地で、況して帝国で覇を望むとは笑止。覇とは、常に帝国にのみ許された立ち振る舞い!」
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・・・
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「我等の求め得る【覇(*5)】とは“主”の事。それ、則ち『天子』の意。貴方様に【覇】を感じる。その波動は余人には分からぬもの。我等の故郷(くに)を救う者」
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ジョルジュ
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「…私に其方等の国を救え、と?フッ、笑止。何処とも分からぬ、何も知らぬ其方等を救ってやる程、暇ではない。別の何かを所望せよ」
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・・・
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「貴方様は何もなさる事はありませぬ。只、在るがまま、思い感じ、世を見るだけ。信じ、従い、動くは我等。貴方様と共に我等は在り、貴方様に由って我等は在る」
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ジョルジュ
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「抽象的だな。文化水準の低い未開地の住人の語り口に似ている。的を射ず、極迷信的だが、要点だけは分かる。目的は兎も角、俺の下に付きたいのだな。云っておくが、私は只、見るだけの人間ではない。自ら考え、動き、成す。全ての意志は我から発せ、全ての事象は我に還る。覚えておくが良い。我が意志は、何人のものでもないと云う事を!
で、其方等は何者だ?」
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◇ユキ
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「私の名はユキ。“修羅雪姫”と呼ばれております。恋する事も出来ないで、悲しく咲きます怨み花…それが私の座右銘。女の一生、剣に注ぎ、女だてらの剣斗士」
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◇ゴケミドロ
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額に傷持つ男は暗く沈んだ抑揚のない声でボソボソと話す。
「天下御免の向こう傷、私は名はペドロミドロ・ゴケミドロ。人呼んで“吸血鬼”。いまだ、畏れ、を知り得ません」
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◇ビヨンソー
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銀髪の少年は透き通る様な声で話す。
「僕の名はケリーマイク・ビヨンソー。“運命の子”って云われます」
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◇ユキ
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「ビヨンソーは“天命”を与えられし子。一時代に一人の運命の子に御座います」
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ジョルジュ
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「………相分かった。これより、我が傍らに侍る事を許す」
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M L
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苛々しながら見守っていたクームーニンが、話の決着を見て取るや否や、ジョルジュに耳打ちする。
「ジョルジュ様!先程から客人がお待ちですぞ」
「客?イラつくぐらいなら、俺を待たずにお前が話を聞けば良かろう?」
「ジョルジュ様ッ!!客人はコロッセウムの連中なのですゾッ!」
「!?なにッ?コロッセウムだと!誰に接客を当たらせている?」
「シャメルミナです」
「成る程、分かった。直ぐに謁見の間に通せ」
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ジョルジュ
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「ゼファ、ユキ、ゴケミドロ、ビヨンソー。こちらに来て控えよ。直ぐに客人が来る。軽口は慎め。だが、思う節があれば発言しても構わぬ」 |
M L
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客室に待たされていたコロッセウムの二人に謁見の機会が与えられた。
待たされている間に客室にやって来たのは女の子。名前も名乗らず、挨拶もそこそこにペラペラと世間話を始めた。お嬢様なのだろう。躾はなってないが、相当の教養があるようで賢い。子供相手のせいで心を許してしまったのかもしれないが、ついつい二人もお喋りになってしまったようだ。何より、戦禍を目の当たりにし、殺伐とした気分に長旅。一時の休息と無邪気に明るく話す女の子を前にして、心休まる心地。暫し、時間を忘れた。
呼びに来た衛兵に、若干の煩わしさを覚えつつ、気を引き締め直し、謁見の間に歩を進めた。
城の外見からは想像出来ない程の豪華さと十分過ぎる広さの謁見の間には、大勢の家人、衛兵が居並ぶ。余りにも巨大な玉座には、表で見た時とは打って変わって正装したライジング・サンが腰掛けている。帝都風の正装は淀みなく、しかし、個性をも主張している。付けすぎた感のあるアクセサリーとはだけた着こなしは、帝都上層の歓楽街で見受ける恰好。豪奢な黄金の長髪は見事にセットされ、金持ちの若者、と云った雰囲気。だが、軍団長でもある大貴族、と云う風体ではない。何処か、隙がありそうな、ヤリ込めそうな雰囲気だ。
玉座のある低い壇上とその階段、階下には重臣と思われる者達が居並ぶ。驚くべきは先程、表で見たゼファを含む四人。彼等が階下にあって、こちらに視線を注ぐ。登用でもされたのであろうか。それにしては早い。
衛兵に促され、二人は奥に進み、壇上の玉座からはたっぷり5ヤードはある処で止められ、謁見が始まった。
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ジョルジュ
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「このような辺境迄よくぞ来られた、コロッセウムの勇士達よ。今日はどう云った用件かね?」
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◇ラファイア
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「お初にお目に掛かる。私はコロッセウム第一大隊麾下の分隊長エメリュート・ラファイア。こちらは同じく我が分隊員のマ…」
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ジョルジュ
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「“瞬きし過ぎの”ジナモンであろう?コロッセウムに所属していなければ、我が領内に入った時点で捕らえておる処だ。危険思想の持ち主として我が領内への立ち入りを禁じている」
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◇ラファイア
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「!?そうなのか、マーストリッヒャー?」
ジナモンに振り返り、確かめる。
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ジナモン
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「?そー云えば、ヨッヘンバッハのトコにいた時、そンな話を聞いた様な?」
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◇ラファイア
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「…部下の把握が出来ておらず、閣下の御機嫌を損ねてしまい、申し訳ありません」
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ジョルジュ
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「ああ、構わん。で、何の用かね?」
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◇ラファイア
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「先日、北方辺境域東部に位置するダンクローター男爵領内にあるアモンの生家に向かった処、見るも無惨な戦禍を目撃したのです。東方からの侵略者と貴族の私軍が争ったと聞きましたが、閣下の軍団も関与したとの事ですが?」
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ジョルジュ
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「ああ、辺境域の巡察を兼ね、軍の演習行軍、練兵、指揮系統調整、兵装調査等を行った。辺境域の軍団運用の確認と領域内の勢力調査も含む。グース、カラカカラの両総督、ガーデルハイド軍団長に承認を得ての視察行軍。害をなした武装集団を確認した際、敵の動向を予測し難い為、スピンアイのペイジ総督、クリューガー軍団長に州境の警戒を連絡し、戦闘を行った。必要ならば行軍日誌を公開するが?」
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◇ラファイア
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「いえ、我々が確認をしたいのは、その武装集団が何者達であったのかです」
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ジョルジュ
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「成る程。では説明しよう。
緋の火と云う西部出での戦争集団を中核とした輝星、凶霊と云う傭兵団。首謀者は元巡検使のライゾー・ダテ男爵。緋の火を指揮するアモルシャットも爵位を持つ。だが、私兵の保有制限は超え、貴族領への執拗な残虐行為は目に余り、その被害は辺境だけに留まらず、州に迄及び兼ねないと判断した」
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ジナモン
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「あの残虐な仕業は、そいつらって事か!許せン!!」
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◇ラファイア
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「マーストリッヒャー、落ち着くのだ。
それで閣下、辺境域東部での被害調査は?」
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ジョルジュ
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「既にまとめ、提出している。直に元帥府からコロッセウムにも報告される筈だ。
それより、何故だ?」
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ジナモン
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「?何故って、ナニが?」
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ジョルジュ
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「州の官庁で報告は聞ける。何故、直接、私になのだね?」
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ジナモン
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「直接聞いた方が早いだろ?それにいろいろ調べなきゃならないし」
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◇ラファイア
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「私の判断です。閣下へのご挨拶も兼ね、辺境をより知りたい、と考えた結果です」
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ジョルジュ
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「…そうか。だが、心配は無用。辺境の悉くは私が責務を負う。君等は陛下とその財産を守る事に集中されよ」
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◇ラファイア
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「心得ております。時に閣下、閣下はこの辺境に、この荒廃した地に何を求めていらっしゃるのでしょうか?後学の為にお聞かせ願えませんでしょうか?」
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ジョルジュ
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「…何を求めているか、か…そうだな、只、ひたすらに、陛下への愛…か」
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M L
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スピンアイ納税局ナイアス税務署。スピンアイ第12管区に位置するこの納税局は、歴史あるナイアスの町をそのまま活かした伝統ある風情。しかし、古い街並みを活かす為、帝国の都市設計からは立ち後れ、地方色の強い体制を強いられている。
署長である二等徴税司官クアナボラス・ロラーラ伯爵はナイアスの名士でもある。彼は長年に亘って管区長となる事を欲していた。時にはナイアスへの無償での奉仕活動を、時にはライバル達との権力闘争を繰り広げ、着実に力を付けていった。努力家でもあった彼は幾度となく勲等試験と採用試験に挑み、円熟期を迎えるに至り、ようやく二等徴税司官と云う立場を得た。名士としても、努力家としても、人柄から見ても次期管区長候補の呼び声高く、徴税官と云う難しい職務も確実にこなしていた。
そんな最中、彼の人生を一変させる出来事が起こった。
新たにスピンアイの州総督として任命され赴任した女性、シェリー・ペイジは何とも独創的な考えの持ち主であった。“じゃじゃ馬”と渾名される、この天才肌の女性はナイアスの管区長任命における伝統的な名士の指名を嫌った。伝統色、地方色の強いナイアスに自身のブレインを送り込み、直接的な統治を試みたのだ。
新たに任命された管区長マロリー・フェレスは、一等立法次官としてペイジのブレインとなっていた若い女性である。伝統的なナイアスの名士、富豪、地主に新法を以て挑み、その勢力を抑える一方、新興農政地に外地から住民を呼び寄せ、新たな町開発を行った。既得権の一部を解放する事を条件に住民の支持を獲得し、旧勢力を抑える事で革新的な民意改革を行い、格式ばった風習と体制に変革をもたらしたのだ。
名士として既に代表格となっていたロラーラ伯は、内心どうであれ、堪えていた。彼には地力がある。総督の任期中、我慢すれば良く、仮に任期が継続されても彼は中央とも繋がりがある。と云うのも、伝統あるナイアスは歴史故に複雑な税法が施行されている。州納税局と財務省統合国税局の二元監理下に行かれている。税務と称される所以である。その為、彼は現状さえ維持していれば、自ずと発言権は増し、必要不可欠な存在となる。次の総督任期、若しくはその次の任期の際にもチャンスはあり、仮に指名される事がなくとも、その時発言すれば良い。円熟した彼にとって、忍ぶ事も待つ事もそれ程苦痛ではなくなっていた。彼の才能は、知識人や官吏としてより、そうした素養の大きさにこそあった。
しかし、彼の立場は、既に彼個人の意志だけで量れるものではなくなっていた。ナイアスの他の名士や地主達は、新管区長による新法によってその財産を削がれていた。官吏にない地元名士達にとって、この新法は自身と家名の破滅をも意味しかねないのである。地元名士達は自身の権益と家名を守る為にロラーラ伯を頼った。そして、ロラーラ伯はそれに応えた。
地元で生き続けるロラーラ伯にとって当然であった。様変わりする町並を見ては望郷の念に駆られるのも事実。外から赴任して来た者とは意識が違う。何より、名士としての自負もある。彼は農政部、工芸部に手を回し、自身で税務調査を掌握し、これに手を加えた。新法に伴う締め付けと新税を調査段階で空回りさせたのである。彼の立場とコネクションは凄まじい。二元監理された税務体制を上手く利用したのも幸いした。如何にフェレスが優秀な管区長であっても、経験値が違う。父子程の年の差がここに来て現れたのだ。フェレスが知り得なければ、ペイジも分からない。結果、横流しした財源を還元し、地元名士達の財産は守られ、フェレスの改革も停滞していた。全てが順調、全ては上手くいっていた、筈だった。しかし…
その男がやって来たのは昼下がりの事だった。目つきのきつい男を一人従え、税務署に我が物顔で乗り込んで来た。受付の制止も聞かず、鼻眼鏡越しに冷ややかな視線を送ると、署長の所在を確かめ、歩を進めた。
署長室の前にやって来たアルベルトは、無表情に扉を眺めると、徐にノブを回し、室内に入った。
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◇ロラーラ
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「!?何だね、君達は!ノックもなしに、失礼じゃないかねッ!!」
黒檀の業務机で執務中であった署長は、ノックなしに入って来た二人に驚く。
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◇ショパーニ
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「署長のクアナボラス・ロラーラで間違いはないな?」
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◇ロラーラ
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「!?一体、何の用かね?君達は何処の誰かね!!」
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◇ショパーニ
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「内務省統合情報局北部支局の者だ」
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◇ロラーラ
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「!?統合情報局!?地方行政監査局ではなく、統合情報局局員なのかね?」
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アルベルト
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「御機嫌よう、伯爵。驚くのも無理はないでしょう。私は内務省一等監査官北域監査役のアルベルト・アルベインと申します。この者は同じく内務省統合情報局二等情報技官のショパーニ。統合情報局北部支局は臨時設置された部局で、私は特別に中央より出向して参いりました情報監査司官で北部支局次長にあります」
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◇ロラーラ
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「…その次長殿が、この田舎に迄足を運ぶとは、何の用ですかね」
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アルベルト
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「身に覚えがあるでしょう、伯爵?」
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◇ロラーラ
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「…いえ、全く。真面目だけが取り柄なものでしてな…」
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アルベルト
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「公費横領、公文書偽造及び行使、公印偽造及び不正使用、公職権濫用、斡旋収賄、贈賄、供賄、公秘漏示、強要、国益及び州益妨害他数多の罪を犯していますが、更に偽証も重ねますかね、伯爵?」
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◇ロラーラ
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「…何の事かね。失礼だろう、君!侮辱罪に値するぞ」
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◇ショパーニ
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「調べは付いている。無駄な抵抗は止めろ。速やかに自白すれば情状酌量の余地がある。我々から司法院の方に掛け合っても良い」
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◇ロラーラ
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「…根も葉もない事を!これ以上続ければ、信用毀損に公務妨害だぞ、君達!」
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アルベルト
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「伯爵、貴方の側近の一人に白髪で眼鏡を掛けた老紳士がいるでしょう?金歯で小柄なヘビースモーカーの、猫を飼っていて辺境に所領を持つ貴族の?」
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◇ロラーラ
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「!?ソロンダイモスの事か?何故、彼を」
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◇ショパーニ
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「その者は内務省管轄下の現地情報局員だ。知らなくて当然だが」
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◇ロラーラ
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「!!?…それがどうしたと云うのだ。無実の私を侮辱するのとは関係あるまい!」
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◇ショパーニ
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「知らばっくれんな!貴様の事は全て掴んでる。云い逃れ出来んぞ!」
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◇ロラーラ
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「…知らぬ!もし、彼が何かを云っていたとすれば、それこそ虚偽報告!私を陥れる為の罠だ。私の地位を狙う陰謀に違いない!!」
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アルベルト
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「強情な方ですね、貴方と云う人は。正直、時間を掛けたくないのですよ、私は。こう見えても忙しいものでしてね。分かりましたっ!仕方ありません。では、私の左目をご覧なさい。両の瞳を見開いて、しっかりと、さぁ!ほらッ!!」
鼻眼鏡を外す。左手を左目に添え、瞼を大きく開く。くすんだグレーの瞳が一瞬、虹彩を大きくし、白濁すると、突如、凍てつく様なアイスブルーに変化した。
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◇ロラーラ
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「!!!?………」
アルベルトの左目を覗き込んだ直後、意識が朦朧とする。両目に薄い膜が張った様。意識は霞が掛かったかの様。心地よさと苦悩とが混沌と脳をよぎる。
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アルベルト
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「伯爵、私の声が聞こえますか?」
変色した左目を指で押さえる。閉じない様に、瞬きをしない様に。
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◇ロラーラ
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「………はい…」
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アルベルト
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「では。貴方は汚職に手を染めましたね?」
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◇ロラーラ
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「………はい…」
意識はある。だが、混濁している。否定したい。しかし、否定しようと意識れば噎せ返りそうな程の冷たさが全身を襲う。心臓を晒されたかの様な感触。息が白くなる程、唇が震える程、呼吸が出来ない程。暗く、暗く冷たい。だが、肯定すると春の麗らかさに包まれる。何と云う心地よさ。悩みは消える。暖かだ。
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アルベルト
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「それが帝国の国益を損なう事だと知っていて、行ったのですね?」
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◇ロラーラ
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「………はい…」 |
アルベルト
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「その行為が帝国への反逆罪にも匹敵する程の事だと知っていたのですね?」 |
◇ロラーラ
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「………はい…」
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アルベルト
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「宜しい。貴方には共犯がいますね?その者達の名と所在を教えてくれますね?」
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◇ロラーラ
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「………はい…」
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M L
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アルベルトは、ショパーニにメモする様、促した。ロラーラの口からゆっくりと、しかし、次々と語られるナイアスの名士達。農政部、工芸部、税務署、民間から官吏迄、実に多くの者達の名。それは則ち、ロラーラのコネクション。改革に反対し、法を犯す事を厭わなかった者達。事情等知らない。只、確実に法は犯した、事実。
親指と人差し指で左目を開き続けるアルベルトの額には、僅かに汗が滲む。
全てを書き記したショパーニが合図を送る。アルベルトは微かに頷く。
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アルベルト
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「これが最後の質問になるでしょう。貴方は自分の犯した罪の重さを知っていますね?それがどの様な目に遭うものかも知っていますね?貴方は罪を償わなければならない。貴方はそれを受け入れねばならない。覚悟は出来ています、ね?」
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◇ロラーラ
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「………………は………い…」
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アルベルト
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「それでは…さようなら!」
左目から指を放す。乾き切った左目を閉ざす。視線が途切れる。光を閉ざす。
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M L
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ロラーラは両目を見開く、今迄以上に。口を開き、天を仰ぐ。僅かに苦しげな表情を浮かべる。声は上げない、否、上げれないのか。微かな呻きが喉から洩れると、そのまま動きを止めた。涎が垂れる。泪がこぼれる。だが、動かない。心音だけが静かに鳴り響き、彼の思考は永遠に停止した。
アルベルトの息遣いが荒い。疲労している。肉体的にか、それとも精神的にか。
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アルベルト
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「…ふぅ〜ッ。さてと、片付きましたね。彼の事は署員に任せるとして、局に戻りましょうかね?私はそこで少し休ませて貰いますが、残る容疑者達、否々、犯罪者共については君と局員達に任せますよ。そうそう、局に戻ったら、給仕に生肉を用意させる様、伝えておいて下さい。殺めた後に食す生肉は、頗る贅沢。楽しみですネッ!」
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◇ショパーニ
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「…はい、了解致しました」
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M L
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部屋を後にする二人。ショパーニは密にアルベルトの左目を覗いた。その瞳の左下隅、僅かに濁る白目に刻まれた“No.3”を意味する小さな記号。不気味なその凍てつく瞳に嫌悪感を感じながらも、彼は静かにアルベルトの後に従った。
汚らしい荒屋。見回して見てもロクな物はない。何よりも体中が痛い。
クッションの利かないベットで目を覚ましたドンファンは、体を起こす。手当が施されている。誰が一体?此処は何処だ?
「ケヒヒッ、やっと目が覚めたかい?随分、長い事おネンネしてたネ〜、ケケッ」
聞き覚えのある声。そう、あの恐ろしく腕の立つ刺客、ラシュディール。
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ドンファン
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「??…此処は何処だ?なンで、あンたが此処に?俺はどーしたンだッ?」
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、ライゾーって奴にこてンぱンにされてたな〜?意外と責任感のある奴ぅ〜。アソコ迄ヤりあわンでもい〜のにネ〜。ココは北方辺境の村だよ。緋の火が襲ったトコの一つサ。介抱してヤッたのは、ま〜、酔狂。ケケケッ」
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ドンファン
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「クフフッ、見てたのかい?人が悪いネ〜。でも、助かったわ。やっぱ、あンた、俺と組まンかネ?」
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◇ラシュディール
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「ケヒヒッ、一人でヤるヤツって云ったろ〜?誰とも組まンのサ。そンな事より、お前、金に困ってンだろ〜?一つ、仕事回してやンよ?」
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ドンファン
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「?仕事?どンなンだい?この前みたいなでっかいドンパチは、もー懲り懲りだゼ」
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◇ラシュディール
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「要人警護、ま〜、簡単な仕事だろ?ある貴族の代理人からの依頼なンだが、俺はち〜っと厄介な仕事を引き受けちまって手が回ンねぇ〜のよ。金は安いが上手くイきゃ〜、長期契約もあり得る、って寸法サ」
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ドンファン
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「クフフッ、そーかいそ〜かい。話だけでも聞いてみたいもンだな〜」
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◇ラシュディール
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「ホレッ、この地図の印んトコで三日後に待ち合わせてる。代理人っちゅ〜男は、俺の見知ったヤツでよ。出し抜こ〜なンてすンなよ!そいつはスゲェ〜、キレもンだかンよ。ケケッ」
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ドンファン
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「三日後か。オーケ〜、分かったよ。ンで、その代理人の名は?」
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◇ラシュディール
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「クーパー。“七曲がり”のクーパーってヤツさ。ワルそ〜なツラしってからスグ分かンよ。俺の代理ってコトでナシ付けンだゼ。ンじゃ、悪りぃ〜が俺は仕事に戻ンわ。ま〜、縁がアッたら又、会お〜な!チャ〜オ〜ッ」
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M L
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北方辺境からの帰還後、略奪行での状況を聞きつけたダルタ・ダルタは、烈火の如く怒り、ライゾーと緋の火を激しく罵倒した。帝国元司法長官の威は、年老いたるとは云え凄まじく、戦場で怖い者のなしの緋の火の連中さえも押し黙らせ、反省させるに十分であった。
辺境軍団の介入、と云う予期せぬ事態を理由にヌムヌムはダルタ・ダルタを抑え、今後の政略を考える必要性を提案した。予想外の敗退は、全軍投入を試みた財政を逼迫させ、早急な処方が待ち望まれていたのだ。
そんな最中に男は現れた。東方で暴れ回ったライゾーの噂を聞きつけやって来た、その男はライゾーとの接見を望み、ライゾーもこれに応じたのであった。
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ライゾー
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「うぬは?今、この時期、何故に?何奴ッ?」
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◇シャッポイ
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「元気ハツラツぅ〜♪俺は“博打打ち”のシャッポイってもンだ。いやはや、東方で暴れ回ったって云〜凄ぇ〜漢を見に来たンだが、何とも、ガッカリしたよ」
鍔の広い帽子を目深に被り、丸い色眼鏡をかけた洒落者。整った顔立ちに黒髭を蓄え、口元はニヤけている。何とも如何わしい男。 |
ライゾー
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「死にに来たのか!引導を渡してやろうか?」 |
◇シャッポイ
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「アソび、がないッ!此処にはまるで余裕がないネ。このままじゃ〜、おっチぬのはあンたの方だゼ、大将さン?」
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ライゾー
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「?…何の事だ?含みを持たすな、云いたい事があればサッサと云えっ!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、そンな眉間に皺入れてマジ面すンなって。肩の力、ヌイて聞きなよ!
緋の火は西方で有名だゼ。そりゃ〜、知ってる。知らなきゃ、モグりってもンだ。にしてもだ、今のアイツ等、見てらンないネ〜。外で見たヤツ等と云っちゃ〜、頭数だけの三流傭兵団ッ!負けるのも頷ける、っつ〜か、良く生き残って来れたもンだ」
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ライゾー
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「…うぬ、死相が見えておるゾ!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、話は最後迄聞きなって。短気は損気、聞いた後でもヤれるって!
ナゼ、今のヤツ等が三流かって?見りゃ〜、分かる。緩急がない。余裕がない。アソびがないッ!!あンな状態じゃ〜、ムリだって。どンな精鋭だって、鈍ったらオシマいよ。云ってるコト、分かるかい、大将さン?」
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ライゾー
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「…分からン。考えもせン!命が欲しくば、分かる様に云えッ!!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、そりゃ〜悪かった。な〜ら、噛み砕いて説明してヤッよ!
例えばだ〜、糸ってあンだろ?ピーンッ、っと張っときゃ強ぇ〜し、まぁ、肉も切れるわな?でもよ、そのまま張っときゃ、直にシオ抜けて、ブッつり切れちまう。分かるかい?何でもそ〜だが、たわみ、が必要なンだぜ。張ったお乳もイイが、たわわなお乳は、もっとイイ〜、だろッ?」
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ライゾー
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「…そろそろ、その減らず口、聞けぬ様にしてやるか!!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、慌てなさンなって。焦りは禁物。焦っちゃ、女に嫌われるよ!
要は、弛緩も必要だってコトさ。人の集中力なンつぁ〜、たかが知れてンの。あンたや上の連中はイイのよ。てめぇ〜で考え、そ〜してンだろ〜からサ?でもよ、下の連中ぅ〜つ〜もンは、そーもイカね〜のよ。厳しく、マジメにヤれ、って云われてもダメ〜!脅したトコでも、どっかでヌくの。それが身に付いちまうもンなの。だから、いざ集中しよ〜、っても緊張の中でヌく事覚えちまってっから、どーしよ〜もネェ〜訳よ!
分かるかい?今のヤツ等は、いっつも緊張を強いられてっから、いざっ、て時に保たネ〜のよ。況して傭兵っちゅ〜もンは自分が一番大事。固い絆があったとしても、常設軍とは根本的に違うンよ。煩わしさを本能的に嫌う、それが傭兵を傭兵たらしめている所以なンよ!分かるかな〜、大将さン?」
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ライゾー
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「成る程、云いたい事は分かった。だが、それとうぬとに何の関係がある?」
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◇シャッポイ
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「へへっ、そこで俺の出番、っつ〜訳サ!大将さン、俺に投資しなッ!」
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ライゾー
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「!?ナメてるのか!何故、うぬに金を出さねばならン!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、この町に歓楽街を築いてヤる。辺境っちゅ〜もンは、アソびが少ない。遊び場がネェ〜と、人っちゅ〜もンは自分でソレを作るもンだが、そ〜なっと益はネェ〜し、トラブルも増えっし、犯罪を犯す連中も現れる。緊張を強いれば強いる程に、影に隠れてソレをヤる!歓楽街を作っても、治安悪化と犯罪防止にゃならネェ〜が、益もあるし、監督し易い。何より町が彩られる。傭兵にとっちゃ、立派な社交場。交流は益々、絆を深める。仕事で友は出来にくいが、遊びは友を作り易い。戦場を駆ける者達にとっちゃ〜、友情っちゅ〜もンが一等大事。金にキタね〜傭兵だからこそ、友情を大事にする、もンなンだゼ〜!分かるかい、大将さン?」
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ライゾー
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「…成る程、一理ある。だが、うぬに任せる事等出来ぬ!部下にさせるわッ!!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、そりゃ〜ムリだわ!調べさせてもらったが、確かにあンたのトコには優秀な連中が揃ってる。でも、だ〜れもコレには気付かなかった。っつ〜より、気付いても提案しなかった。ナゼなら、あンたの識者達は立派過ぎて、こンな提案出来ネェ〜訳よ。仮に出来る立場にあっても、百害あって一利なし、っつ〜考えが先ンじるタイプなンだろ〜な〜!分かるかい、大将さン?」
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ライゾー
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「!?…成る程。ならば、うぬなら出来ると?」
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◇シャッポイ
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「へへっ、パーフェクト。っつ〜か四分六でイケる、って思ったら賭けてみンのが俺なンよ。俺が歓楽街を築いてヤる。胴元は俺だ!勿論、上がりはあンたのトコにも行く訳よ。金は儲かる、傭兵共も精強さを取り戻す、何より町が潤う。どうだ?」
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ライゾー
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「分かった。歓楽街の事はうぬに任せる。代わりに、うぬ自身は我に仕えよ!」
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◇シャッポイ
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「へへっ、お安い御用ぉ〜。ま〜、宜しく頼むわなッ」
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M L
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太陽城、ライジング・サンの私室。ライジング・サンは、自身の為にフロアを独占しなかった。彼には荷物が少なかった。遠征の最中に居を得たからではない。幾らでも帝都に戻る事は出来る。だが、彼は荷物を取りに行こうとはしない。彼は思い出よりも未来を取った。彼に取ってグラナダは赴任地ではない。新たな故郷なのだ。
私室に呼ばれたのはシャメルミナ。名門シスの末妹、未だ子供。しかし、その才覚と知識は賢者の域。早くからその才を自覚していたジョルジュは、このシスの娘に期待を寄せていた。シス家にあっては得られないであろう経験、それを彼女に与える事が出来るのは、自分だけとも。
私室に足を踏み入れたシャメルミナは、いつもの光景を目にする。ジョルジュは、床に書物を置き、指立て伏せをしながら、読み耽る。
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◇シャメルミナ
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「ま〜た、体を鍛えながら本を読んでるの〜?そんな事したって両方とも中途半端になっちゃうよ!」
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ジョルジュ
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「かもな。で、どうだった?」
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◇シャメルミナ
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「え!?もしかして、ま〜た“神様”になる方法?だから、そんな方法なんてないってば〜!あっても本には書いてないよ〜」
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ジョルジュ
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「その話も重要だが、今は違う。やって来たコロッセウムの二人について聞きたい」
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◇シャメルミナ
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「あ〜、あの二人の事?いいよー、何話す〜?結構、色々話したからサ〜」
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ジョルジュ
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「奴等の目的は何だ?何故、この様な辺境へ来たのだ?」
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◇シャメルミナ
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「何か特命を受けてたみたいだよ。言葉濁らせてたけど、休みなしで駆け巡っている、って云ってたからサ。多分、宰相府とは関係ない独立行動っぽい。公には、新入団者の生家への報告と帝国内視察訓練の一環だってサ」
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ジョルジュ
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「そうか。引き締めて掛からねばな。あれ程、明け透けに行動を取るのだ。留め立てはしないものの、宰相府とてトレースしているだろう。無闇に動けば、俺の処にも宰相府の連中が付き兼ねん」
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◇シャメルミナ
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「そー云えば、分隊長がジョルジュの事、すっごい褒めてたよ。サロサフェーンと比較して褒めるくらいだから、気に入られてるんだネ〜」
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ジョルジュ
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「呼び捨ては止めよ、閣下と呼べ。あのラファイアと云う騎士の事だな」
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◇シャメルミナ
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「あれ?あの人、騎士って名乗ったの?」
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ジョルジュ
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「否、分隊長としか聞いてはおらん。只、オドが引き摺られた。騎士特有の能力」
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◇シャメルミナ
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「ガナー伯爵の元お弟子さんだってサ〜。だから、作法も話も上手いのかも?頭もいいみたい。もう一人のアモンって人は、しょーじき、ツカえな〜い」
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ジョルジュ
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「ガナー伯爵!?ジャラルディン騎士団領筆頭騎士の一人か。ラファイアの事は覚えておこう。
では、シャメルミナ、下がって良い。神に成る方法の件、くれぐれも頼んだぞ!」
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◇シャメルミナ
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「えーッ!?それ、未だ調べんのーッ!も〜、本当に懲りない人だな〜。無い、って云ってんのにサ〜」 |
ジョルジュ
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「そう思うか?俺には段々と見えて来ているのだがな、神の姿が」
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M L
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ラシュディールから渡された地図を頼り、又も辺鄙な村に訪れたドンファンは警戒せずにはいられなかった。貴族の代理人と云う連中とは、仕事柄良く会った事はある。だが、今回の代理人はラシュディールの知人。あの恐るべき刺客の知人ともなれば侮る事等出来ない。
指定された家屋に向かう。既に代理人と云う者は到着している様だ。家屋から気配が感じられる。一人ではなさそうだ。念の為、付け爪を装着する。用心に越した事はない。小さな家屋の、その又小さな扉を開け、ドンファンは歩み入った。
中には男が三人、暖炉の前に座っている。侵入者に凄まじい殺気を放つ、何の飾り気もない白木の仮面を着けた軽戦士風の男が二人。もう一人はセンスの欠片を微塵も感じさせない薄黒いローブに身を包む男。成る程、云われて見れば確かに悪党面。
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ドンファン
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「クフフッ、何処ぞの貴族の代理人、って〜のはあンた達かい?ラシュディールは今、ど〜しても手の離せない仕事に就いちまってンで、代わりに俺が来た訳よ。俺はイ・ドンファン。“烏跳人”のドンファン、って覚えてくれよ。な〜に、腕にはち〜っとばかし自信があっから、任してくンなよ」
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◇クーパー
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「…ふむ、別に腕が立とうが立つまいが関係ないのだが。さて、私はクーパー。この者達は私の護衛。変な気は起こさんでくれよ」
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ドンファン
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「クフフッ、だいじょぶ。依頼主を襲ったりはしネェ〜ゼ。っで、俺は要人警護、って話迄しか聞いちゃいね〜ンだ。話を聞きて〜な〜?」
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◇クーパー
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「ふむ、受ける受けないに関係なく他言は無用。約束出来るな?」
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ドンファン
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「クフフッ、勿論だゼ!そンなコトはこの世界じゃ〜当然ッ!っで?」
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◇クーパー
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「私のお仕えしておる御方の身辺警固。これが先ず一つ。もう一つ、これが大事なのだが、その御方の身辺で起こった事、見知った事全てを包み漏らさず、私に報告する事。この二つをこなして仕事とする。分かりますかね?」
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ドンファン
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「?あー、あー、あ〜、な〜る程。簡単な事だゼ」
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◇クーパー
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「見ての通り、私は余り人に好かれんものでな。重鎮でありながら、知らされる事が制限される傾向にあるのだよ。ともすれば、見当違いな提言をしかねんのだ。其方は私につぶさに事実を報告をし、尚、警固に当たる。分かるね?
給金の事だが、一週間で銀貨1枚の月払い。仕事っ振りが良ければ、その都度余計に支払うつもりだ。又、これ以外に警固料が入る仕組みにしてやろう。どうかね?」
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ドンファン
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「クフフッ、悪かネェ〜条件だな。只、コレを付け加えてくンね〜かな?特別任務に就く機会をくれる、って〜条件よ。そン時の報酬は別額でッ!ど〜よ?」
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◇クーパー
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「云う迄もない。其方の働き振りが良ければ、こちらから提案させて頂くつもり」
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ドンファン
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「クフフッ、よしッ、引き受けたゼッ!っで、あンたの仕える貴族って誰だい?」
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◇クーパー
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「ふむ、では契約成立ですな。我が主の名は、ヨッヘンバッハ!」
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ドンファン
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「!?ヨッヘンバッハだとッ!!どっちの!どっちのヨッヘンバッハだ?」
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◇クーパー
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「?何を慌てる?ゲオルグ・ヨッヘンバッハ公爵閣下だ」
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ドンファン
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「!?…おいおい、俺は前にそいつの弟のユルゲンに雇われてた事があってよ〜。仕事でゲオルグを襲った事があンゼ!マズいだろ〜、ヤッぱ?」
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◇クーパー
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「ふむ、何かと思えばその程度の事かね?心配無用!その程度の事なら何とでもなります。契約さえしっかり守れば大丈夫、安心なさい」
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ドンファン
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「…ぁあ、まぁ、そ〜云ってくれンなら任せるゼ」
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M L
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太陽城。ライジング・サンの寝所。灯は落とされ、漆黒に閉ざされている。ベットに横たわるジョルジュは、暗闇に慣れる程に天蓋を眺めていた。目が冴えて眠れない。もう少し、体を動かすべきだったか。いつもより、多く寝返りを打つ。
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◇カノン
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「どうなさいましたか?お眠り出来ぬのでしたら、私が術をお掛けしましょうか?」
暗がりのいずこからか声を掛ける。
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ジョルジュ
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「否、良い。一度頼ると“癖”になる。それより…」
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◇カノン
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「何かお悩みでも?」
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ジョルジュ
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「悩み等と云う程、高尚なものではない。漠然とした何かを感じる。不安、否、緊張感、或いは危機感か?俺自身の想像が、妄想が生む強大な敵が、俺に迫り、俺を包む。現実に敵と呼べる者が辺境にいなくなった今、帝都の、その奥底の、老獪な奴原の、俺を嘲り笑うその姿がちらつき離れん。瞼を閉じれば、その裏に」
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◇カノン
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「…お疲れになっておられるのでしょう。あの激務をこなす事等、余人には真似出来ますまい。お考えなさいますな。一時の間、暫しお忘れなさいませ」
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ジョルジュ
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「カノン。俺はどれ程、人を犠牲にすれば、俺の欲望を満足させられると思う?」
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◇カノン
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「…お答えを求めている様には思えません」
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ジョルジュ
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「カノン。俺の臣下に年端も行かぬ者が何人おると思う?」
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◇カノン
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「…不老の身なれば、ジョルジュ様も」
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ジョルジュ
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「シャメルミナ、ワグナー、それにビヨンソー。未だ子供だ。これからも増えるだろう。軍籍にあり続けるだけであれば、この様な子供達迄をも巻き込む事はなかっただろう。俺は子供達の未来を喰らって生きている。それだけじゃない。領民の、否、敵さえも、その子等の、犠牲を強いて俺は永らえている。神だと?笑わせる。人でさえない。悪魔か?俺は憑かれているのか?否、俺自身が悪魔なのか?」
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◇カノン
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「…お考えめさるるな。人の歩みは運命にて、その意識に介在するを探るは無用の事。目で捕らえる事の出来る、それこそを大事になされませ」
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ジョルジュ
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「若き日の、未だ誰にも知られる事のなかった日の、陛下はどうであったのだろう。今の俺に似た感覚を感じた事があったのであろうか?フフッ、“器”が違うか」
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◇カノン
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「…ジョルジュ様。以前、私が云った事を覚えておりますか?」
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ジョルジュ
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「…“帝王の器”か?ああ、覚えている。何の事かは理解出来ぬでいるがな」
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◇カノン
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「貴方様には、間違いなく備わっておられるのです。それも破格の、無限の、至高の“器”が!身に付けられるものではないのです。況してや、学ぶ事等。生まれながらにして備わった資質。余人が求める事等決して叶わぬ絶対的なもの!やがて、御自身でも気付かれる時が来る筈です。その力を、その意を、その存在をっ!」
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ジョルジュ
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「…人を褒めるのが上手くなって来たな、カノン?フォビアでも成長を見せるもんなのだな、フフッ…
…カノン、助かった…話をしていたら、漸く眠くなって来た…カノン、俺に、俺の下に仕え続けろ…俺を見続けろ……永遠に………俺の傍に………………」
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◇カノン
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「…暫し、暫しの間、お休みなさいませ。又、お忙しくなられるのだから。見続けましょう。私を、私の力が必要なくなるその日迄。例え、引き裂かれても心の中で…」
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M L
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遠く辺境に位置する辺境軍団の駐屯地ジョルジーノ。州から離れているとは聞いていたが、これ程遠いとは予想していなかった。
情報局北部支局局員を名乗る二人の男がこの町に訪れたのは、年末押し迫ったある寒い日の事だった。その日は朝から曇り、何とも云い知れぬ不吉さを醸していた。
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アルベルト
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「いやはや、今日は又、一段と冷えますね。人を凍えさせるのは得意ですが、自分が凍えるのは、どうにも苦手でしてね」
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◇ショパーニ
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「都市部と田舎では、やはり田舎の方が寒い様です。北方四州とこの辺りでは、年間平均気温が4〜6℃は低いのです。起伏が少ない為、降雪量はそれ程でもありませんが、この気温の低さが辺境を辺境たらしめている所以でしょう」
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アルベルト
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「そうですか。やはり、現地の事は現地の人間に聞くに限りますネッ!さてと、約束の者とは何処で会うのでしたかな?」
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◇ショパーニ
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「…繁華街から外れた外壁近くの酒場で待ち合わせております。時間は未だありますから、街並を見て歩きますか?」
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アルベルト
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「いえ、退屈な田舎町、反乱者の砦にされた町を巡っても不愉快な気分になるだけでしょう。待ち合わせた場所に行って、暖を取りましょう。寒くて堪りません」
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◇ショパーニ
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「…はい、了解致しました」
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M L
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待ち合わせに指定された場所は、実に粗末な酒場だった。如何に活気ある町とは云えど、その全てに人々が満ちている訳ではない。今、帝国中で最も盛んに町造りがなされているジョルジーノとて例外ではない。開発の重要度から後回しにされた、この場所にある酒場は、人目に付かないと云う点では最適であった。
しかし、アルベルトは気分を損ねていた。人目に付きにくい、この酒場には昼間と云う事も相俟って客がいない。それは則ち、店内に灯はなく、とても暖が取れる様な状態ではない事を意味していた。
店主に半ば無理矢理、暖の取れる状況を催促し、食事を運ばさせた。どれも満足行く様な代物ではなく、益々不機嫌になるアルベルトに、ショパーニは気が詰まる思いであった。
夕方になって漸く、約束をした現地諜報員と云う者が現れた。アルベルトは、待ちくたびれた事もあって、不機嫌さも露わに皮肉じみた挨拶を述べた。
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アルベルト
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「いやはや、良かった良かった。場所を間違えたのかと思いましたよ。田舎は時が経つのが遅いのか、はたまた、道にでも迷われたのか、兎にも角にも心配しましたよ。帝都の自宅から気の遠くなる程離れているのでね、私も不安でしたよ。」
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・・・
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「…時間を間違えましたでしょうか?申し訳ありません。処で、御身分を確認したいのですが、宜しいでしょうか?」
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◇ショパーニ
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「こちらは内務省一等監査官北域監査役のアルベルト・アルベイン殿。私は名乗らずとも分かるであろう?」
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・・・
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「貴方が監査役殿ですね。私は…」
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アルベルト
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「名乗らずとも結構です。ショパーニに聞いていますから。で、お話伺えますかな」
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・・・
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「…はい。先ずはお渡ししておく物が。こちらが天照州全図、こちらがジョルジーノ略図、これが太陽城内図になります。ジョルジーノの町並と太陽城内につきましては増改築の真っ只中ですので、これはあくまでも最近迄のものとお考え下さい」
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アルベルト
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「では、こちらの二つは余り役には立ちませんね。で?」
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・・・
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「…はい。こちらをご覧下さい。資金調査報告書ですが、正直な処、掴み兼ねております。ライジング・サンは幾つかの居城と館をこの広大な天照州に所有しております。又、資産を臣下の者達に分割譲渡してもいます。帝都の方にも館があるそうですし、300有余名の諸候を傘下に置く帝国北方大貴族連盟があります。その総資産は莫大としか云い様がありません。資金調達には交易商人が絡んでおりますし、昇陽教の含み資産は調べようがありません。人手と時間さえ頂ければ、これ等も明らかになりますとも思いますが」
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アルベルト
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「この報告書は使い物になりませんね。続けなさい」
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・・・
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「…はい。こちらがライジング・サンの有する兵力調査報告書です。此処に記されている様に保有兵数制限内に収める様、傘下諸候に割り振ってはいますが、その悉くは自身の私兵の如き扱いをしております。私軍と辺境軍団の演習をしょっちゅう目にします。兵装は西方から買い付けている、との事です。今では天照州中の職人を集め、ギルド化させた団体に独自の製造、開発を行っています。兎も角、軍事力の上昇傾向は日増しに顕著となっております。噂にしか過ぎませんが、私兵による外郭侵攻軍団の復活、を目論んでいるのではないかと推測されます」
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アルベルト
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「!?この数は!これは事実なのですか?軍団とは別にこれ程の兵力を一辺境貴族が保有する事等出来るものなのですか!?グラナダで用意したものの三倍近い数とはッ!!」
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・・・
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「はい、事実です。これは職業軍人でこの数です。民兵として徴兵可能な数の概算や昇陽教の有志等は含まれておりません」
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アルベルト
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「驚異!驚異としか云えませんね。しかし、これ程の兵力を一個人が持つともなれば、良からぬ思いに身を投じ兼ねないですね。厄介とも云えます」
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・・・
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「報告書は以上です。後は事細かな内情につきましてですが、こちらは情報提供者本人から直接、お訊ねになるのが宜しいかと存じます。今、呼んで参りますので、暫しお待ち下さい」
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M L
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そう云い残すと現地諜報員はそそくさと席を立ち、酒場を後にした。
報告書を嬉々として見つめるアルベルト。僅かに顎を動かし、ショパーニを呼ぶ。
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アルベルト
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「ご覧なさい!何ともはや、実にも恐ろしい軍事力。一体、どれ程の資金を投入した事か!?何より、これ程の資金を得るには相当の組織が必要。そして、それをこの様な辺鄙な土地で行うには、それこそ…」
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◇ショパーニ
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「!?それこそ、何なのでしょうか?」
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アルベルト
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「…それこそッ!相当の法を犯している筈ッ!!プッ、楽しみですね〜、ショパーニさンッ!ウプッ、強大な力を手にして有頂天にアる者を!コツコツ努力して成り上がった者をッ!!ウププッ、理路整然と!絶対権力を以て!!赤子の手を捻るかの様にッ!!!プーッ、奈落の底に叩き落とせるかと思うとッ!ど〜にも、こ〜、笑いが込み上げて来て仕方ありませんネッ!!プァ〜ッハッハッハッハーッ!!!!ゴホッ、ゴホッ!プ〜ッ」
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◇ショパーニ
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「…然様で御座いますか…」
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M L
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雪がちらつき始めた。大空は暗く重い雲に覆われ、大地にのし掛かりそうな勢い。やがて、雨も降って来た。雪混じりの雨ではない。雪と雨が同時に降り注いでいるのだ。凶兆を知らせる忌まわしい現象。北方辺境域に伝わる古い伝承。
帝国暦341年が終わりを告げる。災いを呼ぶ、雨雪舞い散るその光景は、来たるべき新たな年の何を暗示しているのだろうか?後に人々は知る事になる。これがあの日を知らせる警鐘なのだ、と。今は未だ、届く事のないその音を胸に… …続く
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